古沢良太さんが選んだ1冊は?「常識やモラルで覆ったものを剥がし“本質を見る”考え方を教わった一作」

あの人と本の話 and more

更新日:2023/3/14

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年4月号からの転載になります。

古沢良太さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、古沢良太さん。

(取材・文=河村道子)

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「僕は1970年代生まれ、団塊ジュニア世代なんです。周りには年の近い子がいっぱいいて毎日、遊んでばかりいました。勉強なんて一切しなかった(笑)」

 そんな古沢少年の心を躍らせたのは、書き下ろし脚本で初参加した、『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』へ連なってきた、のび太たちの大冒険。「藤子・F・不二雄先生は間違いなく、僕に創作者のあこがれを最初に抱かせてくれた方」という言葉に、選んだ一冊が重なる。

「F先生は大人向けのSF短編の傑作を数多描いていらして。なかでも食欲と性欲の価値観が逆転した世界に会社員が迷い込む表題作は、初めて読んだ中学生のときに衝撃を受けて以来、幾度も読み返してきました」

“はやくメシにしろ!”と言うと顔を赤らめる妻、なのに幼い娘の絵本には堂々と性描写が……。これはおかしい!とカウンセリングを受けた主人公が聞いたのは――。

「食欲も性欲も重要な欲望だけれど、食欲は個体を満たすための個人的な卑しい欲望であり、性欲は種の繁栄のためのパブリックな欲望、ゆえに隠す必要がないのだと。パラレルワールドを描いた、言ってみれば何でもありの世界のなかにものすごい説得力を感じ、価値観を根底から揺さぶられました。常識やモラルで覆ったものを剥がし、本質を見ようとする考え方を教わった気がした」

 もしもどこかに何でも夢の叶う楽園が存在していたら? 空に浮かぶ理想郷で大冒険が始まる、古沢さんがこの映画に描いたストーリーにもその考えは流れている。誰もがパーフェクトになれる楽園〈パラダピア〉で、のび太は“パーフェクト小学生”を目指すが――。

「今の子どもたちは本当にちゃんとしていて、行儀がよくて。でももっとめちゃくちゃでも、それを受け入れる寛容さが世の中にあってもいいんじゃないかと思うんです。子どもは大人の言うことなんかきかないのが当たり前だし、自分がやりたいことはやりたい、やりたくないことはやりたくないのが正しいのではないかなと。のび太とドラえもんを通じ、そういうことを託したかった」

 完璧なネコ型ロボット・ソーニャとも仲良くなった二人だが、この楽園には秘密が隠されていて……。

「パラダピアで描いていることって今、現実にそうなっているんじゃないかという気持ちもあって。それがこの映画から伝わればいいなと思います、子どもにも、そして大人にも」

こさわ・りょうた●1973年、神奈川県生まれ。2002年に脚本家デビュー。ドラマ「リーガル・ハイ」シリーズ、映画「ALWAYS 三丁目の夕日」シリーズ、「コンフィデンスマンJP」シリーズ、映画『レジェンド&バタフライ』など数々の話題作の脚本を執筆。現在、脚本を担当する大河ドラマ『どうする家康』が放映中。

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『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』

『映画ドラえもん のび太と空の理想郷(ユートピア)』

原作: 藤子・F・不二雄 監督:堂山卓見 脚本:古沢良太 出演:水田わさび、大原めぐみ、かかずゆみ、木村 昴、関 智一、永瀬 廉(King & Prince)ほか 配給:東宝 現在、公開中
●空に浮かぶ謎の三日月型の島を見つけたのび太はドラえもんたちと一緒にひみつ道具の飛行船「タイムツェッペリン」でその島を目指す。辿り着いたのは、誰もがパーフェクトになれる夢のような楽園「パラダピア」。だがそこには大きな秘密が隠されていた。
(c)藤子プロ・小学館・テレビ朝日・シンエイ・ADK 2023