常識の範囲内にあるおかしなものに気付きたい――TVドラマ「何かおかしい」原案・雨穴氏インタビュー

エンタメ

公開日:2023/3/15

 白い仮面と黒い全身タイツ姿でYouTuberとしても活動し、ホラーな作風を得意とするウェブライター・雨穴さん。昨年、原案をつとめたTVドラマシリーズ「何かおかしい」も話題になり、10月には初の長篇小説『変な絵』(双葉社)を出版し、すでに33万部超え…と勢いがとまらない。

 この4月からは同じく原案をつとめた「何かおかしい」のシーズン2が地上波放映開始!大きな注目を集める雨穴さんに、ドラマのこと、本のことなどをうかがった。

(取材・文=荒井理恵)

advertisement
変な絵
変な絵』(雨穴/双葉社)

より「自分の思い」を出せたシーズン2

――いよいよ「何かおかしい」のシーズン2放映ですね。原案者として、前作よりどんな点がパワーアップしたと感じていらっしゃいますか?

雨穴:前回よりも私が個人的に思っていること、自分の正直な気持ちをアイディアとして出しまして、それをテレビドラマとしてクオリティの高いものに仕上げていただいたと思っています。より正直というか、こわさだけでなく、1人の人間として思っていることをアイディアにしたので、自分の人間的な部分が出ていると思っています。

――具体的にはどういう部分でしょうか?

雨穴:毎回、ストーリーテラーとして解説するシーンがあるんですが、前回はいただいた原稿をそのまま読むという感じだったんですが、今回はいただいた原稿を私なりにかみくだいて、自分ならこの問題についてどういうふうに考えるか、どういうふうに述べるかを考えてやったのがそうですね。

――個人的にお気に入りの回はありますか?

雨穴:第2話の「おだいこさま」ですね。原案者としてアイディアを出すこともあれば、謎だけを出すこともあるんですが、この回は私から「アルバムの中に家族写真がある。でもそれは、ところどころ抜けているところや切れているところがある。それはどうしてなのか?」という謎だけを制作チームに投げたものなんです。制作チームが作った回答がドラマになっていて、「なるほど、そういうふうに答えを出したのか」と、自分と違う感覚をすごく面白いと思いました。

「ちょっとおかしい」なら「おかしい」と思う

――シーズン2は物語全体が長篇のようなストーリーになっていますね。

雨穴:シーズン2をはじめる前から「全体でひとつの長編のようにできたらいい」とテレビ東京の方と話していました。前作でもやろうとはしたんですが、ドラマ的な制約もあってあまり実現しなかったんですね。ただ実際には全体の大きな流れの部分は、私が作ったというよりドラマの脚本家のみなさんで作っていただいたというのがあります。

――長編の『変な絵』を書かれたことが、そうした発想に役立ちましたか?

雨穴:というより、シーズン2の原案を書いているときは、ちょうど2作目の『変な絵』を書いている最中に重なっていたんです。ずっと『変な絵』の原稿を書いて、終わったあとに一回おふろに入って頭を切り替えて、ドラマの原案を書くみたいな感じでした。なので、本を書いたことが何かドラマに影響したというよりは、本を書いている間の一種のリフレッシュとして、頭を切り替える感覚で原案を書いていたイメージですね。

――小説とドラマの原案では、頭の使い方はだいぶ変わってくる感じですか?

雨穴:そうですね、やっぱり本は完全に1人で書かなければいけないので、展開とか終わり方も含めて、ある意味、自分で全部責任をとらなきゃいけないというプレッシャーがあるんです。でもドラマの原案の場合は、ちょっと未完成のものをお渡しして、それをもとに作品を作っていただくというものなので、どちらかというとある意味無責任で。「このアイディアでどういう感じの物語を作ってくれるんだろう?」みたいな、ちょっと挑戦するような気持ちがありましたね。

――本もドラマも「ちょっとおかしい」という違和感から物語が生まれますが、日頃から雨穴さんはそうした違和感をどのようにキャッチされているんですか?

雨穴:日常の中で「あまりにもおかしい」というのはそんなにあるわけではなくて、あるとしたら、「なにかおかしい」という程度のものだと思うんです。ただそういうものって、「おかしいと思えばおかしいけど、別に思わなければ常識の範囲」という微妙なものがありまして。たとえば「壁が真っ赤に塗られた家」みたいなものがあったときに、「なんでこんなに壁が赤いんだろう」と思うこともできるし、「こういう趣味の人もいるだろう」「こういう塗装業者もいるだろう」って考えれば、別におかしいことはないわけです。でも「こういうこともあるだろう」といろんなことを考えていないとネタをつくることはできないので、「ちょっとおかしいかおかしくないか微妙なこと」があったら「おかしい」と思うようにする、というマインドセットを常にしていますね。

――小さい頃からそういう感じなんですか?

雨穴:そうですね。臆病な子供だったんで、ちょっとでも怖いことがあると、こわくなってしまうという…。そういう部分があったので、自然とそういう考え方をするようになったんだと思います。

「ネット的」ではない物語にも挑戦したい

――今回のドラマのなかで、ラジオ局のスタッフは「ちょっとへんだな」を「ネタ」と捉え、リスナーがさらにネットを通じて無責任に闇を増幅していきます。個別の「なにかおかしい」こともこわいのですが、そういう状況もこわいと思いました。

雨穴:ネットの習性というか、無関係な人たちが無責任に盛り上げていってしまうということは、実際に毎日起こっていることだと思いますが、それはやっぱり私もこわいと思いますし、よくないなと思います。

――雨穴さんの主戦場はネットですよね。日頃はそういうネットのこわさとどう折り合いをつけて活動されていますか?

雨穴:ネットの属性を利用して、ちょっと炎上商法みたいな感じで、悪い言い方をすると「数字を稼ぐ」というのは、けっこう簡単にできてしまうことで。実際にそれで注目を集めていくという人もいると思うんですけど、私はだからこそ、安易なやり方はしないように。非効率でもそういうネットの属性に頼らないような作り方をしようと考えていつもやっています。

――ドラマ、本、ネットといろいろな雨穴さんの顔が視聴者に見えると思います。何かご自身に共通してテーマにしていることなどはありますか?

雨穴:どれも楽しんでもらいたい、面白いものを作りたいというのがどの媒体に対しても一番あります。その中で作っている途中に、自然に自分が思っていることとか、これはよくないと思うことだとか、そういうのがちょちょっと出てくる感じですね。

――これからどんな物語を作っていきたいか、さらなる展望があれば。

雨穴:今までネット的な物語を書いてきたと思うんですが、あえてそうではないものに挑戦してみたいという気持ちはあります。チャンスがあればいろいろ挑戦したいと思います。

――最後に読者にメッセージをお願いします。

雨穴:派手なこわさというよりも、じわじわとしたこわさというのをテレビドラマとして制作チームのみなさんと作れたと思っていますので、そういう部分を楽しんでいただければ。

――そうそう、今回は劇中にも登場されていますね。いかがでしたか?

雨穴:自分ではいい演技ができたと思っていたんですが、実際にできたものを見たらすごく棒読みで…。やっぱり役者さんってすごいな、とあらためて思いました。

あわせて読みたい