Z世代の若者がホームレスになる本当の原因――元芸人の著者が路上で見つめ続ける若者たちの“リアル” 《インタビュー》

社会

公開日:2023/6/8

Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち
Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(青柳貴哉/KADOKAWA)

 10~20代という若きホームレスたちのリアルに迫るノンフィクション『Z世代のネオホームレス 自らの意思で家に帰らない子どもたち』(KADOKAWA)が発売中だ。彼らは何故ホームレス(=家に帰らない)という生活を選んだのか。その背景には、パパ活、毒親、推し、トー横界隈といったキーワードが見え隠れする。同書では、パパ活で月に60万円を稼ぐ“トー横キッズ”の15歳少女や、数千万円を失ってもホストクラブに通い続ける20代女性などに著者がインタビューし、彼らが感じる“息のしづらさ”を丁寧に掬い上げている。そんな若者たちの実像について、著者の青柳貴哉氏にお話を伺った。

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パパ活で毎月60万円を稼ぐ少女との衝撃の出会い

――青柳さんは普段、YouTubeで活動されているんですよね?

青柳貴哉さん(以下、青柳):YouTubeの「アットホームチャンネル」で、ホームレスの方々のインタビュー動画を公開しています。このチャンネルで紹介しているのは、若い人に限らない全世代のホームレスなんですが、その中で反響が大きかったのが、書籍でも取り上げたモカさん(仮名)という少女のインタビュー動画でした。

――彼女のインタビュー動画はすでに600万回再生を超えて、かなり注目を集めています。

青柳:モカさんは、パパ活で毎月60万円を稼ぎながら新宿・歌舞伎町で暮らす15歳の女の子です。いわゆる“トー横キッズ”と呼ばれるコミュニティがモカさんの居場所になっていました。歌舞伎町で彼女を見かけて話を聞いてみると、親が住んでいる実家はあるのに家に帰っていない。しかも小学4年生から実家には寄りつかずネットカフェで寝泊まりし、学校にも通っていない。そんな彼女の告白は、僕にとって衝撃的な出来事でした。モカさんとの出会い以降、若い世代のホームレスという存在に僕は強く惹きつけられたんです。その後、僕のYouTubeでの活動に興味を持ってくれたKADOKAWAさんから書籍化のお話をいただき、Z世代のネオホームレスというテーマで一冊の本にまとめることになりました。

家やお金はあっても自分の居場所がない、という“息のしづらさ”

――Z世代のホームレスのことを“ネオホームレス”と呼ぶのは、どんな意味が込められているのでしょうか?

青柳:僕は普段、あらゆる世代のホームレスの人たちにインタビューしていますが、Z世代と呼ばれる若いホームレスの人は、明らかに“何か”がほかの世代とは違う、というのが取材者としての実感です。その“何か”を一口に言い表すのは難しいことですが、「ホームレスになる理由がお金ではない」という点は、Z世代のネオホームレスのひとつの特徴と言えるかもしれません。年配のホームレスからお話を聞くと、ほとんどの場合ホームレスになった理由は金銭的なものでした。家賃が払えなくて家を失ったり、リストラで収入がなくなったり、お金がないからホームレスになった。こういう状況はすごくわかりやすいし、想像しやすいですよね。僕自身、芸人をしながらアルバイトで食いつないでいた時期がありますから、お金がなくてホームレスになるという道筋は想像できます。

 でも、若い世代のホームレスの人たちに取材すると、帰れる実家があって収入もあるのにホームレスをやっている、というケースが少なくない。冒頭で触れたモカさんもそうです。彼女には、親が住む実家もあったし、パパ活というグレーな手段とはいえ月に60万円という十分すぎるほどの収入もある。それでも、家には帰らない生活を続ける、あるいは続けざるを得ないというのがZ世代のネオホームレスの特徴ではないかと感じています。

――実家があるのに家に帰らない若者、と聞くと、ホームレスというより家出のようなものをイメージする人も多いかもしれません。

青柳:YouTubeで公開しているインタビュー動画には、視聴者から「これはホームレスと呼べるのか。ただの家出ではないか」といった主旨のコメントがつくこともあります。そういうふうに受け止める人がいるのは理解できますし、そういう意見自体は否定したくない。取材を重ねてきた僕からすると、家出とホームレスは重なる部分もあるし、大きく異なる部分もある、というのが実態だろうと思っています。ホームレスになって生きているZ世代の若者たちから話を聞くと、「自分の居場所がない」「居場所を探している」という切実な思いを耳にすることが少なくありません。

 たとえば、今回の書籍でも取り上げたユイト君(仮名)という男の子は、東京の一等地に実家があるのに自分の暮らしぶりについて「ホームレスをしている」と僕に打ち明けました。彼の母親にも取材しましたが、母親は「息子はホームレスではない」と断言しています。この相反する意見を聞いて、どちらかが嘘をついているとか、正しいのはどちらなのかとか、そういう単純な話では片付けられない、と僕は感じました。自分の居場所がないという寂しさを抱えて街を彷徨う若者のことを、単なる家出だと言って切り捨てるのではなく、若者たちが感じている“息のしづらさ”をもっともっと知る必要があるのではないか。僕自身はそう思いながら、Z世代のネオホームレスの人たちへの取材を続けています。

Z世代のネオホームレスにまつわる問題は解決したわけではない

――YouTubeのインタビュー動画はもちろん、書籍で紹介しているホームレスの若者たちの姿はすごくリアルですね。

青柳:路上で見つけた若者、あるいはSNSでの呼びかけに応じてくれた子に、実際に会ってインタビューしていますし、書籍にまとめるタイミングで彼らの現状を追いかける追跡取材も行いました。書籍には、動画では伝えきれない僕自身の考えもまとめてあります。動画や書籍の中で、Z世代のネオホームレスの実像を僕なりに懸命に見つめたつもりでいますが、それは僕なりの見方でしかない、とも思っています。Z世代のネオホームレスにまつわる問題を解決したわけでも、答えを見つけたわけでもないんです。先ほど触れたように、家出とホームレスは何が違うのか、ということだけでも見方や意見は人によって異なるのが当然ですよね。

 そもそも多くの大人たちは、Z世代のネオホームレスという存在そのものをまったく知らずに生活しているし、自分の子どもがホームレスになるかもしれないという危機感を持っている親は稀だと思います。でも、ユイト君と彼の母親のようなケースは実際に生まれている。今回の書籍を手に取ってくれた人にとって、Z世代のネオホームレスを知るきっかけになり、そして考えるきっかけになれば、嬉しく思います。

取材・文=山岸南美

【著者プロフィール】
青柳貴哉
1981年生まれ、福岡県出身。お笑いコンビ「ギチ」として、2017年まで吉本興業に所属。現在はYouTubeにて、ホームレスの実態に迫るドキュメント番組「アットホームチャンネル」を運営。これまで延べ100名以上のホームレスを取材。お笑い芸人の仕事で培った話術や構成スキルを駆使し、取材対象者のリアルな本音やストーリー性のある動画が高い評価を受けている。チャンネル開設後約2年で、登録者数は10万人(2023年3月現在)を突破。

YouTube:アットホームチャンネル
Twitter:@AoyagiTakaya

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