“社長”も“演者”もまだ道の途中――歌い手・ないこ×ゲーム配信者・ドズルのスペシャル対談! ふたりが思い描く未来のビジョンとは?

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公開日:2023/6/16

歌い手社長 フォロワー0人の会社員が3年後に武道館に立つ物語
歌い手社長 フォロワー0人の会社員が3年後に武道館に立つ物語』(ないこ/KADOKAWA)

 発売1カ月で3万部を突破した、人気歌い手グループ「いれいす」のリーダー・ないこさんによる初エッセイ『歌い手社長 フォロワー0人の会社員が3年後に武道館に立つ物語』(KADOKAWA)が話題を呼んでいる。本書には、グループを引っ張るリーダーであり、2.5次元アイドル事務所・株式会社VOISING社長の顔も持つ彼の“今”を凝縮。メンバーやファンへの思い、グループの成長戦略、「歌い手社長」の道を歩むことになった知られざる経緯などを語り尽くす一冊となっている。

 本稿では本書の発売記念として、ゲーム実況などで活躍するドズルさんとないこさんのスペシャル対談が実現。ドズルさんは社長として、YouTubeチャンネル運営のほかデジタル戦略コンサルティングなどのBtoB事業まで幅広く行う株式会社ドズルを率いながら、自身もクリエイターとしてフル回転を続ける人物だ。同じような立場で多忙な日々を過ごすふたりに、“社長”と“演者”の二足のわらじを履く苦労と楽しさ、そして未来を見据えたビジョンを存分に語り合ってもらった。

取材・文=山岸南美

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ないこが送った「長文のすごく丁寧なDM」の中身

――ないこさんの初エッセイについて、ドズルさんの感想をお聞かせください。

ドズルさん(以下、ドズル):ないこさんとはゲーム配信でコラボしたこともありますが、普段の姿からはわからない一面が書かれていて興味深かったです。特に、生い立ちとか歌い手になるまでの経歴とかって、コラボ配信みたいな場所ではなかなか話題として上ってこないじゃないですか。ないこさんの生い立ちを読むと、意外なほど僕と共通してるなって感じがします。大都会ではなく田舎育ちで、学生時代はいわゆるガリ勉で生徒会にも入ってて、オタクのルートをしっかり通って、そういう趣味は親になかなか理解されず、一般的な仕事をするか配信者の道に進むか悩む……そういう細かい部分が自分と同じだったから、読みながらめちゃくちゃ共感してました。

ないこさん(以下、ないこ):今回のエッセイの中ではかなり赤裸々に生い立ちを明かしたので、少し恥ずかしい気持ちもあったんですよね。でも「ドズル社長も僕と同じような生き方をしてきたんだ!」ってわかって、勇気づけられた気分です(笑)。実は僕も、ドズル社長が医学部を卒業して今の道に進むか悩んでいたっていう記事を読んだことがあって。僕とドズル社長は似ている部分があるなって勝手に思ってたんです。

――そもそも、おふたりが出会ったのは何がきっかけだったんでしょう?

ドズル:この対談に向けて、過去の記憶を掘り起こしてきました!

ないこ:僕、覚えてますよ。うちのメンバーの-hotoke-(以下、ほとけ)がドズル社長に活動面での相談をさせてもらったことがあって。その時に僕も同席したんですけど、たぶんそれが最初の出会いですよね?

ドズル:……僕の記憶だと、アモアス(=Among Us)が一番初めじゃなかったかな? アーカイブ見ると、2021年9月にアモアスでご一緒してますね(笑)。

ないこ:あー、アモアスか!アモアスですね(笑)。

ドズル:10人規模のコラボだと、一人一人の性格まで覚えていられないですよね。

ないこ:アモアスは配信中だったから、直接絡む部分も少なかったですもんね。

ドズル:僕がなんで覚えてるかっていうと、配信中じゃなくて配信後のないこさんが印象に残ってたんです。配信が終わったあと、長文のすごく丁寧なDMをいただいて「この人、かなりしっかりした人だな」っていう印象が、すごく記憶に残ってて。

コラボ直後のふたりのDM
コラボ直後のふたりのDM

ないこ:シンプルに恥ずいです、それ(笑)。

ドズル:ほとけさんから「相談に乗ってほしい」って声をかけてもらったのはコラボのすぐ後ですよね。僕は普段からそういう話題をいろんな配信者さんと話すほうなので、僕からも「ぜひぜひ」ってお返事をして。ほとけさんとは初対面でしたけど、いきなり深い話をさせていただきました。

ないこ:さっき僕のことを「しっかりした人」って言っていただいたんですけど、ドズル社長のほうこそ本当にめちゃくちゃしっかりした人。実際、相談の時もすごく真面目に話を聞いてもらえたのが印象的でした。

演者兼社長だからこそ感じてしまう「歯がゆさ」

――おふたりとも、配信者として活動しながら社長業も兼任されています。社長と演者、それぞれの難しさや楽しさについて、どんなふうに感じていらっしゃいますか?

ドズル:僕は、難しさよりも楽しさを感じていますね。配信も社長業もどちらも楽しくやっているからストレスは感じない。仮に、演者だけ、あるいは経営者だけに集中したらもっとパワーが出せるのかもっていう歯がゆさを感じることはあります。でも、全体を眺めると楽しく活動できているし、演者兼社長というのは自分に合うスタイルだなと思っています。

ないこ:その「歯がゆい」っていう感覚、すごく実感があります。僕なりに精一杯やっているのはもちろんなんですけど、演者の面でも社長の面でも「もっとできたはずなのに」って思う場面はやっぱりなくならないんですよね。どちらかに100%の力を注いで頑張っている人を見ると、正直悔しさを感じたりもする。演者兼社長というのは自分で選んだ道なので納得はしてるんですけど、歯がゆさや葛藤を感じることが僕は多いかもしれない。

――社長業はドズルさんのほうが先輩なんですよね。

ないこ:配信者としても社長としても、ドズル社長のほうが先輩です。

ドズル:社長業でいうと、僕の会社は8期なので8年前くらいからですね。

ないこ:うちはまだ1期ですから。

ドズル:でも、長くやってればエラいってわけじゃないですからね(笑)。

ないこ:先ほど話した「歯がゆさ」みたいなものを、どうやってコントロールしてます? 演者兼社長の先輩にぜひ聞いてみたいです。

ドズル:演者兼社長っていう形で表に出るのは、やっぱり特殊な状況なんですよね。特殊な状況ゆえに歯がゆさも感じる場面もあるし、逆に言えば、そういう特殊な状況を自分だけの強みとして捉えることもできる。だから僕自身は、歯がゆさとか難しさとかに目を向けるのではなく「演者兼社長っていうスタイルが唯一無二の強みになる」と思いながら活動しています。

ないこ:なるほど。確かにそういう観点で見ると、歯がゆい時も前向きでいられるかも。

合理的かつ中立的、それは素敵なリーダー像

ドズル:エッセイの中で、活動方針や大きな方向転換はメンバーみんなで決めるって書いてありましたよね。

ないこ:そうですね。メンバーは全員、社長業ができるくらい自立してるから、本当に僕が社長なのか僕自身もわからなくなる(笑)。

ドズル:なんだかアベンジャーズみたい(笑)。頼もしくてかっこいいですね。でも、人間なら誰だって方向性がずれることってあるじゃないですか。そういう時はどうやってすり合わせてます? 社長をやっていくうえでの悩みどころだと思うんですが。

ないこ:僕らの場合、最終的には「リスナーさんが喜ぶのは何か」っていう観点ですべて判断するようにしています。個人個人の考え方は違うのが当たり前だし、自分で発案した企画を「やりたい」って思うのも当たり前。意見が分かれた時は、僕が合理的、論理的に整理したうえで、どれが一番リスナーさんに喜んでもらえるのか、そこを基準にメンバーと話し合って決めていくことになります。

ドズル:いやぁ、お世辞抜きに素敵なリーダーですね。「はっきりとしたビジョンを示して決断するのが社長の役目」みたいに言われたりもするけど、ないこさんは「ファンの人が喜ぶのは何か」っていう判断軸を示して、そのうえで合理的かつ中立的に物事を決めていく。これは素敵なリーダー像ですよ。

ないこ:ドズル社長からほめていただけると嬉しいです。

――ドズルさんの場合、会社での意思決定はどんなプロセスなんでしょうか?

ドズル:僕たちの会社は「好きなモノを仕事にする」っていう主旨の理念を掲げているので、“演者”を務めるクリエイターや裏方を担当するスタッフのみんながそれぞれやりたいことや好きなことを提案して、それを積極的にやっていこうって考えています。みんなのやりたいことをヒアリングして、最終的には僕が「じゃあこれからの半年間はこんな感じで動いていこうぜ」っていうビジョンを示していくスタイルです。

ないこ:メンバーの意見を尊重していくっていうところは似てる気がしますね。

ドズル:そうかもしれません。でも、ないこさんの会社はないこさんを含めて演者だけで17人もいるんですよね? ドズル社の演者は、僕を入れて5人だからなぁ。意見をまとめる労力が全然違うかも(笑)。

ないこ:僕が所属する「いれいす」を含めて歌い手グループ3つで総勢17人ですね。それぞれのグループにリーダーがいるので、基本的には彼らに任せています。すごく大きな決定をする時は僕も入れてもらうって感じです。

「好きなことを仕事にする」の解釈一致

ドズル:「いれいす」のメンバーと話すと、「楽しそうにお仕事してるな」っていうのと同時に「みんなプロ意識が高いな」っていう印象を受けるんです。プライベートで遊ぶ時間よりも配信する時間のほうが大事、みたいな。そういう雰囲気は最初からあったんですか?

ないこ:「いれいす」に限らず、うちの会社に所属する歌い手は、趣味で活動していた期間が短い人が多いかもですね。

ドズル:じゃあ、そもそもプロ志向の人たちが集まっているってことなのかな。

ないこ:そうですね。活動のスタートからいきなりプロっていうケースもあります。僕も、個人での活動は半年間くらいです。

ドズル:助走の期間としては短いはずなのに、人気もクオリティーも確保できているっていうのはすごいですよ。

――「好きなことを仕事にする」というフレーズをよく耳にしますが、おふたりはどんなふうに考えて会社を作ったのでしょう?

ドズル:起業したきっかけは、その当時やりたかったことをやろうとしたら、とある企業さんから「個人では無理。会社じゃないと取引できない」って言われたからなんです。会社を作って社長になろうっていう野望があったわけじゃなくて、好きなことをやろうとしたら会社を作らざるを得なかった。YouTuberになったのも会社を経営することになったのも、自然な流れだったし、やってみたら会社経営も楽しい。だから「好きなこと」の中に会社経営も含まれています。

ないこ:僕も「取引先に相手にしてもらえないかもしれない」って思ったのが会社を作った理由としては大きいです。僕らには「結成3年で武道館に立つ」っていう夢があって。大きな会場を押さえるためには、ほかの企業や代理店の協力が不可欠。そういう意味で、会社を作るのは夢を叶えるために必要なことだったんですよね。

――おふたりとも「好きなことを続けるために社長業に就いた」といった感じですね。最後に、社長としての夢や将来のビジョンをお聞かせください。

ドズル:僕は子どもの時に「学生のうちに遊んでおきなさいよ」「社会人になったら好きなことできないよ」っていろんな大人から言われました。その常識を覆したいって思っています。仕事って人生の中でたくさんの時間と情熱を注ぎ込んで向き合っていくもの。なのに、仕事が楽しくないっていうのはすごくもったいないですよね。僕たちの活動を通じて、子どもたちに「今は勉強大変だけど、大人になったら楽しい仕事が待ってるからね」って言えるような大人がもっと増えてほしいですし、うちの会社で働くメンバーにもそうあってほしいです。

ないこ:僕もドズル社長と同じように「楽しく仕事ができる世の中であってほしい」と思います。ただ、僕自身がまだまだ未熟なので、まずは身近なところにいる人たちが楽しく仕事をしてくれたら、というのが精一杯かもしれません。もちろん、ファンやリスナーさん、そして世間のみなさんを楽しませるような活動を頑張ってやっていくのは大前提。そういう活動が今はまだ多くの人に届かなかったとしても、せめてうちの会社で働く社員が楽しく仕事できるような環境であってほしいな、と思うんです。今、社長として考えているのはそれだけですね。

ドズル:夢を叶えられるように、頑張ろうと思います!

ないこ:……頑張りましょう!!!

【プロフィール】
●ないこ:武道館ライブを目指す新世代歌い手グループ『いれいす』リーダー兼2.5次元アイドル事務所 株式会社VOISING代表。2020年にグループ結成後、1年9カ月でメジャーデビューし、全国ツアーやZeppツアー、幕張メッセでのライブも開催。今最も目が離せない新世代のリーダー。

●ドズル:YouTubeチャンネル登録者数114万人超のゲーム実況者グループ「ドズル社」リーダー兼、株式会社ドズルの社長。医大生だったにもかかわらず医者ではなくYouTuberになる道を選んだという異色の経歴を持つ。キャッチフレーズは「ロジカルゴリラ社長」。

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