霜降り粗品と森永卓郎に「お金」について聞いてきた。借金をエンタメにする「マネーエンタテインメント」はいかにして成功したのか

暮らし

公開日:2023/8/24

森永卓郎さん、粗品さん

 本記事の大きなテーマは「お金」。借金やギャンブル、スパチャ額世界一位などお金の話題に事欠かない粗品さんと、経済学者の森永さんとの対談は終始ツッコミがやまない笑いに包まれたものだった。

 2人の対談のきっかけは、2022年9月の「霜降り明星のオールナイトニッポン」に森永さんがゲスト出演したこと。そんな縁もあって、霜降り明星の粗品さんに来てもらい、お金にまつわる話を繰り広げてもらった。

(取材・文=奥井雄義 撮影=後藤利江)

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森永卓郎さん、粗品さん

ラーメンの汁に沈んだコーンをいつまでも探してそうな芸能人

――2022年9月22日の「霜降り明星のオールナイトニッポン」にゲストとして森永さんが出演され、粗品さんと森永さんは「ソウルメイト」だと判明したシーンなどがありました。それもあってか、粗品さんのフリップネタにも森永さんが登場している場面があります。その後、お二人の交友などありましたら教えてください。

森永卓郎さん(以下、森永):全然ないですね。でも、IPPONグランプリで…

粗品さん(以下、粗品):ああ、そうや!

森永:なんかセコイことをして…みたいな…

粗品:「ラーメンの汁に沈んだコーンをいつまでも探してそうな芸能人第一位は?」で名前を出させてもらいました。

森永:これがうちのゼミ生にすごいウケてて。

粗品:良かったです。ただ、実際には会ってはいないですよね…

――実際には会っていないが、心のどこかに森永さんがいて、ということでしょうか?

粗品:あ、そんなことないですね。ただ面白手札のうちのひとつという感じで、とっさに出るだけです。

――ソウルメイトということでしょうか?

粗品:ソウルメイトちゃうて。

森永卓郎さん、粗品さん

よしもとファイナンスはもうお金を貸してくれない

――まずは「お金」をテーマに話してもらいたいと思います。日本人のお財布事情、生活者の暮らしについてどのように見ていますか?

森永:日本人はこのまま行くと死ぬと思っていますね。私が社会に出た1980年の国民負担率はちょうど30%で、去年の国民負担率は48%になっています。これは無限に上がっていくと思います。おそらく何十年後かには100%までいくと思います。さらにもっと言うと、100%を大きく超えていくと思います。

――国民にとっては暗い未来があるのではないか? と

森永:このままの体制だったら真っ暗ですよ。国民負担率はイギリスを超えているのに、政府が提供してくれるサービスは、イギリスよりもはるかに低い。このまま国民負担率はどんどん上がっていくのに、政府の提供するサービスは良くならない。現時点で、消費税は10%になり、社会保険料も上がっています。それでもまだ増税は続いています。10月からガソリンと電気代への補助金は打ち切り、第三のビール増税、インボイス制度導入……これがずっと続いていくと思います。

――借金を抱えてしまっている粗品さんはどう見ていますか?

粗品:僕は経済はあんまり関係ないですから。ギャンブルで借金しているだけなんで。しかも僕ね、会社作ったりして節税していないんですよ。

森永:私が思うに、粗品さんがなんで多くの人に支持されているかっていうと、競馬にお金を突っ込んで大負けしているという昔ながらの芸人のスタイルを貫いているからだと思うんです。粗品さんがボロボロになるからスパチャが飛んでいるという構造。だから、安全を取ると良くないとは思っています。

粗品:ただね…所得税がきついんですよ。所得税、なんとかしてくださいよ、森永さん!

森永:「競馬」というものが粗品さんの芸(業務)を構成する重要な要素である、ということを裁判で戦うというのは面白いかもしれないですよ。これがないと芸が成り立ちません、というのを最高裁が認めるのかどうか…

粗品:(2回大きな拍手の後)認めないだろ! 「漫才とかもあるじゃないですか」って裁判で言われるじゃないですか。

森永:漫才のネタに入れるとか。裁判芸人っていないじゃないですか。それを狙うというのは…

粗品:なんやねん「裁判芸人」って。物騒な。CM全部飛びますよ。

森永:そうか、CMがあるのか!

粗品:そう、ギリギリでやっているんですよ。

――今後の「お金」に関する目標や計画があれば教えてください。

森永:私はトカイナカに住んでいて、畑もやっていますので、食費もあまりかからないんですよね。だから別にお金をいっぱい貯めたいなどはありません。子どもも巣立っていきましたし。

粗品:僕はやっぱり借金を返済したいですね。生きている心地しないですから。ただね…予定納税っていう次の年のを先に払っておくやつがもう無理ですわ…なんとかならないんですか。

森永:それは無理なんです。

粗品:もうよしもとファイナンスもお金貸してくれなくなりましたから。5000万借りて、月に数百万ずつ返していて、数か月経って、僕が返したお金は何千万とかになっているんですけど、返した分をよしもとファイナンスは貸してくれないんですよ。アイフルとかは返した分をまた貸してくれるんですけどね。だから、よしもとファイナンスを見返すっていうのも目標です。

森永卓郎さん

大借金を「マネーエンタテインメント」として楽しませるメンタリティー

――よしもとファイナンスに何千万と借金している中、借金に関するYouTube動画をエンタメとして大量に出されています。このメンタリティーについて教えてください。

粗品:メンタリティーですか。借金に関しては求められている気がしているので、日常的に出したいとは思っているだけです。そんなに借金が多くて悲しい、みたいなことはないですね。お金がないということだけは腹立つんですが、借金を笑いに変える「マネーエンタテインメント」としてこれからもやっていこうとは思います。

――YouTubeのコメントにも「マネーエンタテインメント」という言葉は出てきて、支持されているのだなと思って見ています。

粗品:そうですね。負けたり不幸に遭ったりしているところがいいんじゃないですかね。底を見れば俺がいる、という。ギャンブルに負けた人とかにも「自分の負けがちっぽけに思える」とよく言われますね。

――粗品さんのYouTubeチャンネルで、宮崎美子さんに100万円を借りるという動画を拝見しました。森永さんにそういったお話をしたことはないのでしょうか?

粗品:ないですね。森永さんお金貸してくれないでしょう?

森永:私は貸し借りっていうのはあまりしないですね。それに個人での貯金はあまりないんです。会社にはあるんですが。

粗品:どうするんですか、そのお金?

森永:それがですね。私にはとてつもないマイナスの不動産がありまして…「B宝館」という博物館をやっていまして。

粗品:あー!

森永:この博物館が大赤字を出すんですよね。ですので、赤字のための資金として会社にお金を確保しています。ただ、私の見立てでは数十年後には世界遺産になると思っているんです。

粗品:おお、いいねえ。2週間に1回しか開いていないんでしたっけ?

森永:いや、月に1回です。ただビルは買ったんで家賃はかかっていません。固定資産税だけが200万円くらいかかっています。

粗品:入場料は?

森永:800円です。2回目以降は25%オフになります。世界に1つしかないものがこの博物館には無数に揃っていますよ。

粗品:芸能人の名前をダジャレにしたサイン入りのグッズがあるんですよね?

森永:そうです、そうです。ちなみに、粗品さんが何にサインしたか覚えていますか?

粗品:粗品やからタオルとか?

森永:いえ、塩を入れてかけるための容器にサインをもらって「塩ふり明星」というダジャレを言ったんですが…あまりウケなかったです。

粗品:なるほどね、塩か。いやしかし、あの…まったく覚えていないんですが、返してください。

森永:(笑)。でももう芸能人にもらったサインは600を超えているんです。キャメロン・ディアスには「キャラメルン・ディアス」って言ってキャラメルにサインしてもらったのですが、本人にはこのダジャレは通じていなかったですね。

粗品:一番の自信作は何ですか?

森永:水道の蛇口に矢口真里さんにサインをしてもらって「蛇口真里」とか。あとは、谷村新司さんに真珠にサインをしてもらって「谷村真珠」とか。

粗品:おお、いいですね~!

「B宝館」
57年間集めてきた森永卓郎氏のコレクション約12万点が展示されている。中には、有名人の名前をダジャレにして、その品を用意、そこに本人のサインをもらったものが約600点以上ある。ビートたけしさんは「こけし」、キャメロン・ディアスは「キャラメル」など。
http://www.ab.cyberhome.ne.jp/~morinaga/

森永卓郎さん、粗品さん

「カス、細客、太客、金脈」の戦略について

――粗品さんはYouTube配信で、スパチャの金額によって「カス、細客、太客、金脈」と呼び分けています。この戦略について教えてください。

粗品:あのですね、芸人がオンラインサロンをやっているのがめっちゃ嫌いなんですよ。漏れなく全員。そういう人たちって、金が欲しくてやっているとは絶対に言わないで、表向きには「ファン思い」「やりたいことがあるから」と言っている。でもオンラインサロンをやっている芸人、ネタおもんないんですよ。ただ、めっちゃ給料がいいんですよね…。漫才とかTVとかを凌駕するくらい金がいいらしく、僕も羨ましいんですけど…でも、閉鎖空間でやっているオンラインサロンは嫌いなんで、オープンに堂々とやる(スパチャで高額をもらう)、というボケにしています。

森永:オンラインサロンも、実はカルトなんですよね。

粗品:そう、あれカルトでしょ。あれはカルトでしょ! 森永さんはオンラインサロンやってないんですか?

森永:やってないですね。私はSNSも一切やっていないんですよ。

粗品:やったら燃え死にますよ…

――粗品さんがスパチャでもっと稼ぐために、森永さんから何かアドバイスがあれば教えてください。

森永:粗品さんをスパチャで支えている層は割と若い層が多いと思うんですよね。だからもっと年齢層の上のお爺さんやお婆さんにもファン層を広げればいいんじゃないですかね。

粗品:確かに…具体的にどうしたらいいんですかね?

森永:年齢層ごとのネタを作るというのはどうですかね?

粗品:なるほどね。考えときます。

森永卓郎さん、粗品さん

 森永卓郎さんの新著『ザイム真理教――それは信者8000万人の巨大カルト』(フォレスト出版)が発売された。本書の中では、いかに消費増税が悪であるか、それを財務省がどのように推進しているのかが語られている。

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