門脇麦さんが選んだ1冊は?「本当につらい時は誰かに頼ってもいい。そう考えられることがひと筋の光」

あの人と本の話 and more

公開日:2023/9/13

 ※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2023年10月号からの転載になります。

門脇麦さん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、門脇麦さん。

(取材・文=齋藤春子 写真=TOWA)

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 小学校から高校まで「むさぼるように本を読んでいた」と語る門脇麦さん。

「ずっと本を読んできたことは、今の仕事にも役立っています。作家さんの文才の深みを読んで吸収したことで、たくさんの言葉が自分の血肉になったというか。結局、自分の血肉になっている言葉しか発した時にも真実味を帯びないと思っています」

 西加奈子作品は「ほぼすべて読んでいます」というほど長年のファン。

「西さんの本は、登場人物のごく私的な内容が書かれているのに、話が太くて、本の中の世界が広い。人生の熱量を感じられて、エッジも効いてる、絶妙なバランスが好きです」

『夜が明ける』は2021年に5年ぶりの長編として刊行された作品。

「世の中には『しょうがないよな』ってことがいっぱいあるじゃないですか。でもその『しょうがない』がどんどん積もると、やがて自分のキャパシティを超えて、人は潰れちゃう気がします。主人公の“俺”も、友達の“アキ”も『しょうがない』が骨身に染みてる。本当にずっと重い話なので、読んでるとすごくつらいんですけど、でも本当に大変な時は誰かに頼ってもいいし、誰かは助けてくれるよって、ほんのひと筋の救いがあることを感じた作品です」

 読了後、タイトルの意味に想いを巡らせてしまう小説だが、主演映画『ほつれる』も、タイトルの意味を考えずにはいられない作品だ。

「この映画に共感しても、たぶんみんな『私、共感できる』とは言いたくないと思うんです。でもどこかヒリッとしたり、もやもやする感じはわからなくないはず。それは場面が違っても、みんなが人生でやってきた何かしらの後ろめたいことが映画に描かれているからだと思います」

 淡々とした描写に、まったく先の読めないスリリングさを秘めた脚本は、加藤拓也監督のオリジナルだ。

「監督の台本はアドリブが一切なくて、セリフの最初の『あ、』から全部決まっています。ここまで緻密でリアルな会話が台本の時点で成立してる作品はあまりないので、その繊細さに興奮しました。エンターテインメント的な起承転結で見せるのではなく、ただただ会話の力で84分間を集中させてしまう。私としては、観た人がこの映画を好きじゃなくてもいいんです。だって私も綿子のこと好きじゃないし(笑)。でも、にわかな集中と緊張感で観せ続けられてしまうこと。それ自体が面白いので、味わって欲しいです」

ヘアメイク:中山友恵 スタイリング:伊藤信子 衣装協力:トップス1万5400円(Herin.CYE)、中に着たリブニット2万2000円(ENFÖLD/ともにバロックジャパンリミテッド TEL03-6730-9191)

かどわき・むぎ●1992年生まれ、東京都出身。2011年のデビュー以来多数の映画、ドラマ、舞台に出演。近年の出演作は映画『天間荘の三姉妹』『渇水』、ドラマ『リバーサルオーケストラ』『ながたんと青と-いちかの料理帖-』など。11月より舞台『ねじまき鳥クロニクル』に出演予定。

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映画『ほつれる』

映画『ほつれる』

監督・脚本:加藤拓也 出演:門脇 麦、田村健太郎、染谷将太、黒木 華ほか 9月8日(金)新宿ピカデリーほか全国公開 配給:ビターズ・エンド
●第30回読売演劇大賞優秀演出家賞、第67回岸田國士戯曲賞を受賞した気鋭の演出家・加藤拓也のオリジナル脚本による監督作。夫・文則と冷え切った関係の綿子は、友人の紹介で知り合った恋人・木村と曖昧な関係を続けていた。しかし、ある日木村は綿子の目の前で交通事故に遭い、帰らぬ人となってしまう。
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