『スキップとローファー』『ひらやすみ』作者、高松美咲×真造圭伍スペシャル対談――リスペクトし合う二人の共通点とは?

マンガ

更新日:2023/10/2

高松美咲先生、真造圭伍先生

共感度MAXのスクールライフ・コメディ『スキップとローファー』と、心癒される日常ドラマ『ひらやすみ』。同時期に最新刊が発売されたことを記念し、高松美咲先生と真造圭伍先生との対談を実施。『ひらやすみ』1巻が発売された際は高松美咲先生が帯コメントを提供し、また某雑誌のマンガ特集では真造圭伍先生が『スキップとローファー』への愛を語るなど、リスペクトし合う二人に互いの作品の魅力や制作エピソードについて語り合ってもらった。

取材・文=ちゃんめい 撮影=金澤正平

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「こういう作品を描きたい」「絵がうますぎる!」初めて読んだときの衝撃

高松美咲先生、真造圭伍先生

――お互いの作品を初めて読んだとき、どんな感想を抱きましたか?

真造圭伍(以下、真造):すごく素敵な優しいマンガで、僕もこういう作品を描きたいなと思いました。実は、妻の谷口菜津子さんから「面白いマンガがある」と色々な作品をおすすめされるのですが、『スキップとローファー』は読んだ瞬間にこれは良い! すごい! と感激したんです。それ以降は自分で買って読んでいます。

高松美咲(以下、高松):ありがとうございます。嬉しいです。私は、もうシンプルに絵がうますぎる! と思いました。背景もすごく細かいんですよね。真造先生はアシスタントさんを入れずに全部ご自身で描かれていますよね?

真造:そうですね。

高松:私は背景が全然描けないので、真造先生の絵のうまさがすごく羨ましいなと。あと、全部ご自身で描かれているからこその画面作りをされているなと思いました。例えば、よもぎさんが石川さんに物件案内をするこのシーン。新居だからフローリングがピカピカで、窓を開けると光が入ってくる……反射でフローリングの線が抜ける光の感じ。こういった空気感というのでしょうか。自分では絶対に思いつかないし、アシスタントさんに指示を出して描けるものでもないので、すごく参考になるなと思いながら読んでいます。

『ひらやすみ』3巻(P28より)

実はご近所?! モデルになった街を語る

――特に印象に残っているシーンを教えてください。

真造:3巻で美津未ちゃんと志摩くんが上野動物園でデートをする回が好きです。なんというか、上野の動物園感がすごく出ていますよね。今は無くなっちゃいましたが、このモノレールの描写とか。あと、取材のときにいっぱい歩いたんだろうなっていうのが伝わってきます。

高松:そうなんです。実際に1日歩き回ってみたらもう暑すぎて、これは元気に散策するのは無理だろうなと。だから美津未もちょっと体調崩し気味になるというか(笑)。そういえば、『スキップとローファー』と『ひらやすみ』って舞台になっている街が近いですよね。

『スキップとローファー』3巻(P74より)

真造:確かに。『ひらやすみ』は阿佐ヶ谷で、『スキップとローファー』は吉祥寺ですよね?

高松:井の頭沿線にある高校をモデルにしているのですが、そこの生徒たちが遊ぶ場所といえば吉祥寺だというので、そのあたりを参考にしています。『ひらやすみ』にも吉祥寺が登場しますよね。クリスマスの吉祥寺駅のディスプレイが同じで、同時期に同じ場所へ取材に行っていたんだろうなと思いながら読んでいました。

街と人、創作のはじまりはどっち?

高松美咲先生、真造圭伍先生

――お二人の作品には実在する街が登場しますが、街とキャラクターどちらが先に浮かんだのでしょうか。

高松:私はキャラクターですね。実は、『スキップとローファー』は東京に住んだことがないのに描き始めた作品なのですが、なんとそのままネームが通ってしまったんです。だから、1話で美津未が誤って通勤快速に乗車したり、駅構内で迷うというのも実際のところよくわからなくて……見通しが甘い状態でスタートしました。結局、これは住んでみないとわからないなと思って、3話くらい描き溜めてから自分も上京して今に至ります。真造先生は阿佐ヶ谷に住んだ経験があったんですか?

真造:そうですね。『ひらやすみ』の連載が始まる前から阿佐ヶ谷のお隣、高円寺に住んでいて、いつか高円寺、阿佐ヶ谷を舞台にした作品を描きたいと思っていました。だから僕の場合は街が先ですね。

高松:阿佐ヶ谷って独特の下町っぽい空気感がありますよね。商店街もあるし、なんだか“人が住んでいる街”っていうイメージです。『ひらやすみ』では実在の町名が出ていますが、『スキップとローファー』は、本当の町名からちょっと外しているんですよ。例えば、美津未の地元・凧島町は実在しない町ですし……蛸島町はあるんですけどね。キャラクター優先で描くとなると、場所は多少自由な方が良いかなと思ってぼやかして描いています。

「嘘がない」好きなキャラクターの共通点

――お互いの作品で好きなキャラクターを教えてください。

高松:なつみちゃんが好きです。最初はぶすっとしていて、ヒロトくんにもキツめなことを言ったりして、それで自己嫌悪に陥ったり。人間らしくて可愛いですよね。あと、なつみちゃんて実は優しい子だなって。

真造:優しいのかな?(笑)

高松:表では良い顔して内心悪いことを考えている人もいるなかで、なつみちゃんはなんでもストレートにぶつけるじゃないですか? きっと発言以上の悪意は彼女の中に存在しないんだろうなと。そういう子の方が安心して喋れることもあるよなと思っていて、だからあかりさんがなつみちゃんを友達に選ぶ気持ちがすごくよくわかります。

『ひらやすみ』1巻(P116より)

真造:僕は氏家くんがめちゃくちゃ気になっています。実は僕の知り合いにすごく氏家くんっぽい人がいるんですよ。とにかく自分の意見がはっきりしていて、例えばご飯に誘われたときも「いや、帰ります」って。場の空気に流されないんですよね。なんだか頼もしさを感じますし、羨ましいなと。そういった“嘘がない”ところは、なつみちゃんと似たものを感じています。ちなみに、あかりさんのモデルは僕の大学時代の友人です。自分も大学生のときはなつみちゃんと同じようになかなか友達ができなかったのですが、最初にできた友達があかりちゃんみたいに物静かだけど芯のある人でした。その友人の感じを出したいなと思いながら、あかりさんを描いています。

『スキップとローファー』7巻(P130より)

美津未ちゃんは石田三成? ヒロトは悩み多き青年? キャラクター誕生秘話

真造圭伍先生

真造:キャラクターといえば、美津未ちゃんはどうやって生まれたんですか?

高松:司馬遼太郎先生の『関ヶ原』の石田三成から着想を得ました。石田三成って、すごく優秀なんですけど少し頭でっかちで不器用なんですよね。それゆえに、周囲から誤解されて疎ましく思われている。でも、島左近だけはそんな石田三成を可愛いと思っている……この人間描写というか、関係性がすごく可愛いなと思ったんです。

真造:あぁ! 島左近が志摩くん!

高松:そうなんです。でも、結局、石田三成ってめちゃくちゃ嫌われているので、それをそのまま連載でやるのはちょっとしんどそうだなと思ったんです。高校生モノで嫌われている主人公をひたすら見るのって辛いじゃないですか? だから石田三成をベースにしつつ、マイルドにしていって生まれたのが美津未ですね。志摩はもっと悪そうというか、ただれたシティボーイみたいにしようと思っていた時期もありました(笑)。『ひらやすみ』はどうですか?

真造:最初は、ヒロトはもっと悩みがある設定でしたね。だけど、担当さんに「徹底的に悩みがない方が良い」とアドバイスをいただいて。確かに言われてみれば、その方が描きやすいなと思って、全く悩みがないキャラクターに振り切りました。あと、おばあちゃんが初期は“優しいおばあちゃん”って感じだったのですが、ヒロトが優しいから被るかなと思って。キャラクターが被らないように意識した結果、偏屈な感じになりましたね。

高松:でも、偏屈な方が赤の他人に平屋を譲るって設定に説得力がありますよね。

志摩くんとヒロトが“元・俳優”である理由

高松美咲先生、真造圭伍先生

真造:そういえば志摩くんは元子役という設定ですが、なぜそうしたのかなって。やっぱりかっこいいからですか?

高松:環境による性格の違いを出したかったんです。人の性格って、田舎っぽい、都会ならではとか、もちろんベースの性格はあれど環境要因もあると思っていて。例えば、美津未の場合は田舎出身で人口密度が低い分、一人あたりのスペースが結構ゆったりしているんですよね。電車で大きなくしゃみをしても人が少ないから、都会の満員電車と違って別に睨まれることも嫌な顔をされることがない。そういう環境で育ったせいか、行動や発言にためらいがなくて、それがある意味“空気の読めなさ”に繋がることもある。

 一方で、都会出身の人はすごく空気が読めるし、気が遣う人が多いなと思うんです。そういう都会ならではの性格を表現したいと考えたときに、子役をやるような人は気を遣うタイミングも多いだろうし、大人びているかな? って。ちょうどぴったりだなと思ったんです。ヒロトくんも元俳優ですよね?

真造:実はもともと俳優ものを描きたかったんですよ。俳優さんにもたくさん取材をさせていただいたのですが、うまくいかなくって。それで、せっかくだからヒロトを俳優にしたという裏話があります。

高松:たとえボツになったとしても、当時の取材内容が後の作品に活きることってありますよね。

真造:わかります。『ひらやすみ』を思いつく前に、担当さんと釣り堀へ行ったことがあって。その時は何も描けなかったけど、結局こうして今の作品に活きていますし。

「許容し合う」互いの作品から感じる共通テーマ

高松美咲先生、真造圭伍先生

――両作品とも魅力的なキャラクターが数多く登場し、さらにそれぞれの感情をとても丁寧に描いていらっしゃいます。キャラクターを生み出す際に意識しているポイントはありますか?

真造:先ほど話したように、とにかくキャラクターが被らないように意識しています。例えば、ヒロトがすごく優しくて全てを受け入れるような性格だから、なっちゃんは真逆にする。そうすることで、それぞれのキャラクターが際立つかなと。

 他にも、ヒロトがのんびり屋さんだから、そんな彼が恋をするよもぎさんはせっかちな性格にしてみたり……将棋みたいに足していくというか、常に真逆のキャラクターを出していく感じですね。

高松:どのキャラクターもちゃんと“ダメさ”を持っていますよね。

真造:『スキップとローファー』は、一瞬「このキャラ嫌な人かな」って思うんだけど、その後に「実は……」っていう。読み進めていくうちに、そのキャラクターの本当の姿というか、本心が見える作りになっているじゃないですか。それがすごく良いなって思うんです。

 例えば、誠が気になる先輩と神保町でデートをする回。この先輩、誠に気がないのかな? と思いきや、実は内心では誠のことを可愛いと思っていたと。最後にグッとくる作りですよね。

高松:なんだかお互いの作品の共通テーマとして“許容し合う”みたいなものがあると思うんですよね。嫌なところ、ダメなところも含めて人間! みたいな。必ずしも人間の嫌なところを描く必要はないし、『スキップとローファー』みたいなほのぼの系は全員良い子にしても作品としてはある程度成立すると思うんです。

 でも、もしも全キャラクターが良い子だったら、読者さんがこの輪に入れない……感情移入できないんじゃないかな? って。だから、多少つらい展開になったとしても、人間誰しも持っている感情を正直に作品に出した方が“優しい”のではないかなと。そう思いながら描いています。

作品に投影されている“自分”とは

高松美咲先生

真造:『スキップとローファー』を読んでいて思ったのは、どこからどこまでが高松先生のリアル体験なのかな? と。例えば、美津未ちゃんのように進学校に通われていたのかな? とか。

高松:全然ですよ! 進学校ではありませんでしたし、授業中は寝てるか絵を描いているか。だから、こんなにも高偏差値の高校を描くのは恐縮です(笑)。

真造:でも、すごく具体的な描かれ方をしていますよね。文化祭の演劇しかり、すごく細かいので、高校時代は実際にこんな体験をされていたのかな? と思ってしまうくらい。

高松:学校行事は取材をもとにしたり、自分の憧れを詰め込んだりしながら描いています。ただ、感情の描写については自分がこれまでの人生で経験したことがベースになっています。ミカちゃんが「自分って嫌な人間だな」って内省する部分や、誠の自信のなさはまさに自分の体験談ですね。真造先生は、作品にご自身の体験を反映することってありますか?

真造:ヒロトがやたら人に道を聞かれたり、高齢の方に話しかけられたり。あと、タイプの女性を目の前にすると緊張して話せなくなるとか……これは実体験というか、そのまんま自分です。あと、恥ずかしいことを思い出したとき猫の名前を叫んでしまうのも(笑)。

初めて読んだマンガは? 二人のマンガ遍歴をひもとく

――そういえば、『ひらやすみ』のなつみちゃんの本棚には『スキップとローファー』が並んでいて、この対談のずっと前から奇跡の共演を果たしていますよね。

高松:読んですぐに気づきました。和山やま先生の『女の園の星』と並んでいて、「この本棚、わかる!」って思いましたね。

真造:高松先生のマンガ遍歴を知りたいです。初めて読んだマンガってなんですか?

高松:ひかわ博一先生の『星のカービィ デデデでプププなものがたり』の9巻です。単行本の表紙でいつもカービィがド派手な服を着ているんですが、9巻ではデカい下駄を履いて、扇子をバッと広げていて……それが子供心に「可愛い!」ってときめいてしまってもうジャケ買いでした(笑)。

真造:「コロコロコミック」ですよね。僕も毎回買って読んでいました。樫本学ヴ先生の『学級王ヤマザキ』世代です。あと、「コロコロコミック」はゲームの情報が結構厚くて。特に「風のクロノア」シリーズが好きだったので、いろんな情報をかき集めてはイラストにしていました。他にどんな作品を読まれてきたんですか?

高松:兄の影響で「週刊少年ジャンプ」を読んだり、友達と「りぼん」「ちゃお」を交換こして読んだり……本当にメジャーどころを通ってきました。でも、自然と青年誌寄りの作品が好きになっていきましたね。

真造:僕も兄がいるので、昔は兄が買ってきたマンガを片っ端から読んでいました。『GTO』『ジョジョの奇妙な冒険』、思春期の頃は『ラブひな』も読みましたね。『GTO』が大好きだから、最初はそれっぽいマンガを描いていたし、『ONE PIECE』にハマったときはすごいジャンプっぽいマンガを描くようになって……。その後に松本大洋さんの作品と出会ったことをきっかけに青年誌寄りの作品をいっぱい読むようになりました。

高松:松本大洋先生への憧れは『センチメンタル無反応 真造圭伍短編集』に収録されている「松本大洋になりたかったよ」でも描かれていましたよね。

真造:そうです。松本大洋先生や黒田硫黄先生がきっかけで「アフタヌーン」に憧れて、四季賞(アフタヌーン主催の新人賞)に投稿するようになりました。

「久々の長編エピソード」「いいと思えるものが描けた」最新刊の見どころ

高松美咲先生、真造圭伍先生

――お互いの作品の魅力や創作裏話について語り合っていただきましたが、実際に対談してみていかがでしたか?

高松:『スキップとローファー』も『ひらやすみ』も今までの王道を見返す……いわゆる“意地悪”とか“イケメン”に描かれてきた子たちをもう一度見つめ直そう。そんなテーマ性が共通してあるように感じました。

真造:そうですね。なんか今、『ひらやすみ』を描いていてすごく楽しいんですよ。自由に描けるというか、この感じを描きたい! がキャラクターにスッと落とし込めるんです。

高松:『ひらやすみ』や『スキップとローファー』みたいな素朴な話ができるのは、紙媒体ならではですよね。それこそ最近ではWEBTOONが流行っていて、これからもWEBの勢いがどんどん増していくと思うのですが、媒体の特性上、1話でセンセーショナルなことが起きなきゃいけないとか、派手な復讐劇やわかりやすいキャラクターが求められるじゃないですか?

 一方で、紙だと打ち切りの可能性もあるけれど、3巻までは連載させてもらえるから、1話で無理に派手なことをしなくても、1巻単位で読んでもらえる……。だから、こういう人間描写をしっかりと描けるのは紙媒体だからこそだと思います。

――最後に最新刊の見どころを教えてください。

高松:『スキップとローファー』9巻は夏休み編です。見どころは、みんなで小旅行へ行くところですね。文化祭編以来の長編エピソードになっています。

真造:夏! 良いですよね。『ひらやすみ』も本誌で夏に突入しました。冬になると、夏の感覚を忘れちゃうから、このタイミングで夏を描けて良かったです。

高松:『ひらやすみ』6巻の表紙はヒロトくんとよもぎさん! 可愛い雰囲気ですね。

真造:そうなんです。この二人にちょっと進展があったり、あとヒロトが俳優として映画撮影に臨んだり、なっちゃんがマンガのスランプに陥ったり……。『ひらやすみ』6巻は、すごく大変だったけれど、自分の中でいいと思えるものが描けました。ぜひそれぞれの物語に注目してほしいです。

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