大好きな兄ちゃんは「普通」じゃないらしい――人気俳優も絶賛、「人と違う」苦しさと素晴らしさを、小学5年生の目線で描く一作

文芸・カルチャー

公開日:2023/2/16

街に躍ねる
街に躍ねる』(川上佐都/ポプラ社)

 他の人と同じことが出来なくたっていいのだ、と思いたい。だけれども、現実には、私たちはいつだって人と比べてしまう。出来て当たり前のことが出来なければ不安だ。自分自身だってそうだが、たとえば、自分にとって身近な存在、大切な家族が、周囲の人と違って見えれば、どうして「普通」に出来ないのかと、勝手な焦りを感じてしまうだろう。

「第11回ポプラ社小説新人賞・特別賞」受賞作、『街に躍ねる』(川上佐都/ポプラ社)を読むと、「普通」とは何なのか、考えずにはいられなくなる。マンガ『スキップとローファー』の高松美咲さんによる装画が目をひくこの本は、小学5年生の視点で綴られていく。描かれるのは、周囲になじめず、「普通」という枠から外れた兄の姿。多様性を認めているはずの今という時代だからこそ、多くの人に読んでほしい物語だ。

 主人公は、小学5年生の晶。晶は、“兄ちゃん”、高校2年生の兄・達と仲良しだ。晶は学校から帰ると、兄ちゃんの部屋に行き、たくさんのことを教えてもらう。たとえば、晶が学校で嫌な思いをした時は、兄ちゃんは「今日の晶は、よく生きた」と声をかけてくれた。「期待というものは、無責任で厚かましい」「世間は、たくさんの人で出来ているが、人とは違う。血が通ってない」——兄ちゃんは物知りだし、絵も上手でいつでも絵を描いている。だけれども、周囲から見れば、兄ちゃんは「普通」ではないらしい。晶以外とのコミュニケーションが苦手で不登校の兄ちゃんは、集中すると、衝動的に、必要以上に動いてしまうのだ。

advertisement

ぼくは、部屋で教えてくれる兄ちゃんはもちろん、動いている兄ちゃんもすきだ。動くことが、兄ちゃんの脳にエネルギーを送っているような、そんな気がするから。

 晶は兄ちゃんを尊敬していたはずだ。だが、同級生や大家さんと関わるなかで、世間が兄ちゃんに向ける冷たい視線に気づかされると、少しずつ揺らいでいく。兄ちゃんは「かわいそう」なのだろうか。兄ちゃんのことは大好きなのに、「普通」になってほしいとも思ってしまう。そんな葛藤が、まだ何にも染まっていない純粋な視点で瑞々しく綴られ、私たちの心を痛いほど締め付けていく。兄ちゃんの良さが周囲に上手く伝わらないことに、晶同様、もどかしささえ感じてしまうことだろう。そして、そんな兄ちゃんの存在は、家族の在り方にも影響を及ぼしていく。

 容赦ない視線の中でも懸命に生きる兄弟の姿を描き出したこの物語は、「普通」でないことに悩む人やその家族たちはもちろんのこと、特に「兄」という何ものにも代えがたい存在をもつ人の心に響くに違いない。俳優の伊藤沙莉さんも本作を絶賛。こんな推薦コメントを寄せている。

普通とは、特別とは、大変とは、
人と意見や見方が違っても、自分がどう思うかを自分の中で大切にしたいと思った。

 この物語を読めば、何を大切にすべきか、他の人とどう接するべきかに気づかされるだろう。もしかしたら、普段の自分を反省させられる場面もあるかもしれない。もっと人に優しくしなくてはと思わされるかもしれない。読後、温かな気持ちに包まれるこの本は、きっとあなたにとっても特別な一冊となるに違いない。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい