主人公は自閉症の少年。児童書ミステリー『歩く。凸凹(でこぼこ)探偵チーム』の著者・佐々木志穂美さんインタビュー

文芸・カルチャー

更新日:2024/2/7

歩く。凸凹探偵チーム
歩く。凸凹探偵チーム』(佐々木 志穂美・よん/ KADOKAWA)

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みんなの凸凹(でこぼこ)を生かすと
真実が見えてくる。
――いっしょに歩こう。

 自閉症の主人公「アルク」と、そのいとこで親友でもある「理人」を中心に、個性的な子どもたちが活躍する“全員主役”のミステリー『歩く。凸凹探偵チーム』。

 作者は『目がみえない 耳もきこえない でもぼくは笑ってる 障がい児3兄弟物語』(角川つばさ文庫)や『障害児3兄弟と 父さんと母さんの 幸せな20年」(角川文庫)を執筆した佐々木志穂美さん。

 これまでのみずみずしく繊細なエッセイとはうってかわって、本作はスピード感と本格的なミステリーが楽しめるジュブナイル小説とのこと。作品に込めた想いについて佐々木さんにお話をうかがいました。

――主人公の1人、アルクくんは「自閉症」という設定ですね。この小説を書いたきっかけを教えて下さい。

佐々木志穂美さん(以下、佐々木):わたしの子どもたちには、障害があります。とくに三男は、自閉症の特性がつよくて、知的な遅れも大きいです。ですが、三男は、ときにスゴイ特技を発揮して、まわりを驚かせることがあります。

 たとえば、まだ文字もわからない年齢だったころ、みかけた看板をそのまま記憶していて、画用紙に描きはじめたり。旅行先で停めた車にもどろうとしていたら、手を引っぱって近道を教えてくれたこともあります。知らない土地なのに、ですよ? きっと息子の頭のなかには、道をうろうろしているうちに、空から見たその場所の地図のようなものが、できあがっていたんだと思うのです。

 息子のような「凸凹があるからこそ」の能力を友だちの輪のなかで活かしたら、どんなお話になるかなあ……という空想がスタートでした。その空想が、どんどんふくらんでいって。頭のなかで動きまわっているキャラクターたちを外に出してやりたくなって、この小説を書きました。

――自閉症のアルクくんと、いとこであり親友でもある理人くんが、とても新鮮なコンビですね。理人くんがアルクくんをサポートしているようでいて、じつはアルクくんの「気づき」が理人くんが推理をするときの大きなヒントになっていたり。

佐々木:わたしの子どもたちもそうですが、実際の自閉症の方たちは日々「自閉症ではない人に合わせた世界」のなかで、さまざまな苦労をしながら生きています。でもこの小説のなかでは、アルクの苦労する場面はそんなに多くありません。この表現でいいのかな?と迷ったシーンもありました。

 でも、アルクはアルク。理人という“いとこ兼親友”のそばでくらし、学校のなかで素敵な仲間たちと知り合っていっしょにすごし、いきいきと歩んでほしいと思ったんです。そしてそれはほかのキャラクターもそうだし、読者さんもいっしょ。みんな、なにかしらの生きにくさを抱えていると思うのですが、それを受容してそばにいる仲間がいれば乗り越えていきやすくなるってこと。そして自分もまた、だれかの凸凹を受け入れることが大事って気づいてほしかったんです。

 だけど、「そうすべきだから」じゃないです。いつのまにか友だちになっていた。いつのまにか「チームのなかの1人」になっていた。そういうのだったらいいな、と思って書きました。理人も「いとこだからアルクの面倒をみなきゃ」とか「アルクは障害があるから助けなきゃ」と思って、いっしょにいるのではないんです。ただ、いつのまにかおたがいに「唯一無二」の存在になっていたんだと思うのです。

「だれかといっしょにいることで心が落ち着く」ということって、ありますよね。理人とアルクも、探偵チームのみんなも、そういう仲間と出会えた。これを読むみなさんにも、そんな出会いがあったら……と思っています。

――新聞作りにまっしぐらのオヅくん、オシャレな変わり者・桐野さん、おうちがワケありっぽい五木くんなど、それぞれ凸凹のあるキャラクターが登場していますね。みんな、とってもかわいいです!

佐々木:正直、わたしが「作ったキャラクター」というより「勝手に動きだした子たち」です。自分でも「ああ~この子のこういうところ、すごく面倒くさい(笑)。だけどこういうところ、にくめないなあ」とか思って書いてました。それぞれの個性に心を持っていかれました。

 いろんな子たちが登場しているので、読者のみなさんが「これ、自分に似ているかも」って感情移入できる子が見つかるとうれしいなあ。読んだ子が、自分でなにかを乗り越えるための元気がわいてきたらうれしいなあって思います。

 ちなみに、うちの次男、友だちがいないんです。「友だちがいない」っていうと、すごくかわいそうな子って思われるかもしれないけど、本人はまるきり平気なんですよね。桐野さんは、そういう次男のことを思いだしながら書きました。「友だちがいないことって、なーんにも悪いことじゃないよ」って言いたかったし、「だけどもしも自分にちょうどいい距離感の友だちができたなら、それはそれで楽しいぞ」ってことも伝えたかったです。

――1つめのナゾでは理人くんが探偵役で、アルクくんとオヅくんが助手なのかな?と思いましたが。ストーリーが進み、キャラクターが増えるにつれて「全員主役」になっていくんですね。みんなの意外な一面が出てきたり、お友だちの突飛な行動にびっくりしながら、みんなでフォローに走ったり。奇想天外でした。

佐々木:ナゾが6つ入っていて、それぞれ季節がちがいます。時間が経つにつれてキャラクターたちの関係も微妙に変わっていきます。読んだみんなが、どのナゾがおもしろかったか、どのシーンにドキドキしたか、聞かせてもらうのが楽しみです。

――本作は児童書でありながらも本格的なミステリーが楽しめるとのことですが。佐々木さんはミステリー作品がお好きなんでしょうか。ご自分で書くにあたり、いかがでしたか?

佐々木:ミステリー、大好きです。読み終えたとき、伏線がみんなつながった感じがある作品が好きで。読み返しながら、わあああああってなる感覚が好きなんです。でも読むのが好きというのと、書けるかどうかは別問題でした(笑)。大人にしかわからないようなネタを使わず、わかりやすい表現で、なおかつちゃんとミステリーになって……と考えはじめたものの、これで矛盾はないのかと、うんうんうなりました。担当さんに読んでもらって、やっと自信を持って、みなさんに読んでいただけるようになりました。

 自分がナゾを作っておきながら、探偵チームといっしょにそれを解いている気分で。想像のなかでチームの子たちといっしょに走りまわりながら書いていたので、すごく楽しかったです。

――「歩く。凸凹~」のつづき、中学になった探偵チームのお話も準備されているそうですね。

佐々木:はい。中学生になったチームのこと、考えつづけている今日このごろです。探偵チームがいっしょにすごす、最後の3年間なんです。なかよくなった7人ですが、きっと高校生になったらそれぞれに合った場へと歩んでいくでしょう。

 中学校はその前準備の時期。自分がこの先なにをしたいのか、自分はなにが一番好きなのか、いろんなことを考える時間になるんじゃないかな? きっとオヅは新聞係としてつっぱしり、桐野は桐野のペースでつっぱしり、それにみんな振りまわされるのかも? それぞれの友情のありかたの変化なども、書いていけたらと思っています。アルクにも、きっと大きな変化がありますよ。

――最後に、読者へのメッセージをお願いします。

佐々木:個性豊かな7人に会ってみてください。あなたは、どの子が一番好きですか? 感想をぜひ聞きたいです。お待ちしています!

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