妖怪BLの魅力とは?“無自覚魔性系”カッパ少年の沼にハマる人続出! 『カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語』インタビュー

マンガ

更新日:2024/2/24

 お人好しでウブなカッパの少年紅介は思春期真っ盛り。奥手な幼馴染の恋を仲立ちしたり、川で溺れる大蛇を助けたり、カエルに変えられたカッパにキスして呪いを解いたり…。田舎町で繰り広げられる妖怪たちの恋物語を描いた『カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語』(KADOKAWA)。個性豊かなキャラクターたちと昭和の香り漂う独特な世界観にハマる人続出! Xでも大反響の同作はどのように生まれたのか? 作者のIkeda Akuriさんにお話を伺いました。

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

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――妖怪BLとしてSNSで話題です。色彩や絵柄によるノスタルジックな雰囲気も人気の理由だと思いますが、なぜ昭和を舞台にしようと思ったのでしょう?

Ikeda Akuriさん(以下、Ikeda):数年前から70年代のファッションや髪型にハマり、よく描いていました。ドラマや映画の影響で70~80年代の海外ロックに、同時代の日本ロックや歌謡曲にも興味を持ちはじめ、アイドルの衣装もいいなあなどと調べているうちに、気づけば昭和という時代そのものにハマっていました。思い返せば、幼い頃から手塚治虫先生のマンガを読んでいたので、昭和という時代を身近に感じるところがあったのかもしれません。

――Ikedaさんの描く昭和の学生BLも読んでみたい気がするのですが、なぜ主人公はカッパに?

Ikeda:同じ頃、展示用に女カッパの絵を描く機会があって、そういえば、お酒の「黄桜」の女カッパもなんとなく気になっていたな……と思い出したんです。調べてみたら、いま私たちに馴染みのある黄桜カッパは小島功先生の手によるものですが、初代を描いていた清水崑先生の存在を知り、その柔らかく暖かみのある線で描かれる可愛いカッパたちに魅了され、気づけば虜になっていました。

 70年代のカルチャーとカッパ、そのときの私が大好きだった2つをかけあわせて生まれたのが紅介。海外のミュージシャンに憧れるカッパの少年です。普段から人外をモチーフに描くことが多いのですが、そのときはどうしてもカッパが描きたかったんです。

――父は日本のカッパで母はイギリスから来た人魚、というのもおもしろいですよね。一口にカッパといってもいろいろいるよなあ、というこの物語の広がりが、その設定だけで伝わってきます。

Ikeda:紅介の造形は、70~80年代が舞台の洋画や海外ドラマに出てくるティーンエイジャーを参考にしました。みんなデニムに細身のトップスをあわせて、長髪でおしゃれ。映画や音楽、スポーツなどに夢中で今を楽しんでいるようにみえるけれど、それぞれに悩みを抱えているんです。歌手のフランス・ギャルや女優のゴールディ・ホーン、70年代ごろの女性モデルたちの雰囲気やファッションも参考にしました。金髪そばかすにしたのは、昭和の少女マンガに出てくる美少年に多いような気がしたからですね。そうなると母親も70年代の女優っぽい美人がいいよなと思い、自然とイギリス出身の人魚に。

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

――その背景が、たたずまいから浮かび上がってくるから、こんなにも読んでいて懐かしい気持ちになるのかもしれませんね。

Ikeda:とはいえ舞台は昭和の日本、それも田舎なので、中身は普通の男の子です。放屁も立ちションもするし、心根は基本的に純粋。魔性っぽく描く手もあったのですが、それだと物語を動かしづらいなあと思った……のですが、「無自覚魔性系」というコメントをいただき「やっぱりそうか!」と思いました(笑)。

――だいぶ魔性だと思います(笑)。でも本人に誰かを惑わすつもりはなくて、みんなが自然と惑わされていつのまにか魅了されてしまうのが、いいんですよね。

Ikeda:個人的には、白蛇シュージを助ける出会いのエピソードには紅介っぽさが詰まっていると思っています。シュージに恩返しを強制するシーンは特に描いていて楽しかったです。

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

――シュージだけでなく、紅介以外のキャラクターも魅力的です。個人的にはツンデレの不良カッパ・ジョージもいいですが、紅介と絶対に恋愛関係にならない幼なじみ・羅門も好きです。どのように生まれたのでしょう。

Ikeda:ジョージは、恋愛マンガによく出てくる不良キャラクターというイメージですね。最初はカッパの町にあるキュウリ加工工場の工場長の息子という設定だったんですよ。ナルシストのドラ息子で紅介にちょっかいをかける、みたいな。昭和といえば正義のガキ大将、そして主人公のライバルでヒロインに片想いする存在がいるといいよな、と。服装や髪型は70年代のミュージシャンたちを参考にしています。ジョージも、初登場のエピソードがお気に入りです。

――カエルに変化させられているのを、やっぱり紅介に助けられるという。そういうギャップもまた昭和のお約束でいいですよね。

Ikeda:紅介も、カエルのジョージなら可愛いと思っていそうですよね(笑)。羅門さんは70年代に結成されたパンク・ロック・バンド「ラモーンズ」がモデルです。最初は、カッコいいけどちょっと残念なところもある近所のお兄さんポジションにしようかと思っていましたが、描いてみるとちょっとどころじゃなくなりました。見た目はいいのに年下にいじられまくったり怖がりだったり……それでも紅介からは慕われているので、いちおう、いいお兄さんなのかも?(笑)

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

――ご自身で特にお気に入りのキャラクターはいますか?

Ikeda:雑貨屋「珍甲堂」店主のカズオさんは地味にお気に入りです。こちらもヒッピーや70年代のミュージシャンのビジュアルを参考にして作りました。今のところ変なものを売るだけの変なおじさんですが、素顔が彫りの深いイケメンというどうでもいい設定があったりするのでまた出したいです!

――本作の魅力は、純粋な紅介が恋や人間関係を通じてさまざまな感情を知っていくところにもある気がします。人の心は思い通りにならないし、生まれ育った背景や性格によって、常識も愛のかたちも変わっていくのだということが、さまざまな種族の妖怪たちを通じて描かれていて。

Ikeda:すみません、そこまで深く考えていなかったです…! 絵やマンガを描くときにあんまり理屈で考えすぎると、できあがったものが変な感じになってしまうんですよね。ただ、自由な思想やおおらかな社会というのは現実ではなかなか実現が難しいので、せめて作品のなかでは自由でいたいという気持ちは強いかもしれません。性別や常識など関係なく、そこにただ愛があるだけでいいんじゃないだろうか、と。

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

カッパ少年紅介 昭和妖怪恋物語

――読者が自由に感じとるのがいい作品という気もします。特に、紅介が恋をしたハラッパ兄さんをめぐる兄妹のエピソードは、幸せってなんだろうと考えさせられもしました。

Ikeda:あの兄妹は厳しい環境のなかお互いを助け合って生きてきたので絆はあるのですが、愛に関することになるとちょっとサイコっぽくなってしまうんですよね。特に兄は作中で一番すごいかも……。

――そんななか、自分を愛して、同じように他者も愛する紅介をみていると、自分もこんなふうに慈しみを持ちたい、と思わされます。他者と関わるということは、多かれ少なかれ傷を負うからこそ、今ある「好き」をちゃんと大事にしたいな、と。紅介という主人公だからこそ描けるもの、はありますか?

Ikeda:紅介自身は、ポジティブで明るい性格にみえても、まだまだ未熟な子供なんですよね。だからたぶん、彼におっしゃるような内容のことを問うても「気取らず自然体でいればいいんじゃね? 知らんけど!!」とか言ってそうです(笑)。私自身も、お話ししたようにあんまり深く考え込まないようにしているので、好きなものを詰め込んで描けるのが嬉しいです。昭和を舞台にしたおかげでパンタロンやもっさり長髪を描けているのも嬉しいですし、身体のラインを描くのが好きなので、服を着ていなくてもいいカッパを主人公にしたのはとてもよかったな、と。まあ、全裸カッパはいつでも描けるわけじゃないので、調整が難しいのですが……。

――ちなみに、Webマンガだからこそできること、というのはあるでしょうか。

Ikeda:マンガの連載自体が初めてなのでまだまだ勉強中です……! もともと裸や裸に近い女性を描きまくっていたので、ついセクシーな格好をさせてしまいがちなのですが、SNSは規制が厳しいので気をつけなくてはいけないなと思っています。センシティブ扱いで隠されてしまうと、多くの人に読んでもらえなくなってしまうので。SNSではみなさんがコメントを寄せてくださるので励みになりますし、描いた自分しか分からないような細かい文字まで気づいてもらえると嬉しくなります。羅門酒店の謎の清酒とか、レコードの文字とか、何気にこだわっているので。カエルが大絶賛されたときは、やっぱりマスコット系キャラは強いなと思いました。赤ちゃんのプヨプヨした肉感を参考に描いたら、自分の赤ちゃんに似てるというコメントが何件かあって癒されました(笑)。

――ご自身が特に好きなSNSマンガはありますか?

Ikeda:ナガノ先生の「ちいかわ」ですね。可愛いだけじゃないと分かった瞬間、ゾッとして好きになりました。可愛い世界観を崩しすぎない絶妙な塩梅がすごいと思っています。あとシンプルだけど確実においしさを表現している食レポマンガも大好きです。

――お話を聞いていると、たくさんのインプットのうえで作品を描かれていると感じます。先ほど手塚治虫さんの名前が出ましたが、影響を受けたマンガ家さんはいるでしょうか。

Ikeda:手塚治虫先生は作品に可愛い人外キャラがたくさん出てくるので、そこに何かしらのフェチを感じとっていたのかもしれないと思います。あとはつげ義春先生と水木しげる先生からも特に影響を受けていますね。つげ先生といえば『ねじ式』で、私ももちろん好きですが、貸本マンガ時代の短編集は、ちょっと落ち込んでしまうくらい悲しかったり切なかったりするところが大好きです。水木先生のマンガについては、一言じゃまとめきれません……。凄まじい描き込みとキャラ造形の可愛さのギャップがすごい。

 あとは、高野文子先生の作品も大好きです。特にアラサー独身女性の生活を淡々と描いた『るきさん』。バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)作家のペネロープ・バジュー先生とケラスコエット先生の作品もよく読み返しています。バジュー先生の「キュロテ」シリーズは、世界中の女性偉人の生涯を描いた短編集なのですが、各女性の世界を変えたエピソードを色鮮やかな色彩とキュートな絵柄で綴っていて何度読んでも飽きないし元気をもらえるんです。

――紅介からもみんな元気をもらっていると思うので、はやく2巻が読みたいです……!

Ikeda:ありがとうございます。どうしても描きたい話とキャラクターがいるので、とりあえずはそちらを優先しつつ、そのキャラクターとの交流を通じて紅介がどう変化していくのか、私自身も楽しみです。あとはカズオさんとかナマズヒゲ先生とか、周りの脇役の話も描いていきたいですね。

取材・文=立花もも

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