海外22カ国で翻訳、20世紀FOXが映画化権取得! 『シャッター ミー』タヘラ・マフィ インタビュー

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

25歳のイラン系アメリカ人女性作家が初めて書き下ろしたファンタジー小説が、本国アメリカ、アジア、中東、ヨーロッパ、ロシア、中国など世界中で話題となっている。環境破壊と異常気象で無惨に変わり果てた未来を舞台に、ある17歳の少女の愛と勇気と戦いを描いた『シャッター ミー』全3巻シリーズ。
予測不能な展開と新しい表現スタイルは日本でも旋風を巻き起こすだろう。

紙『シャッター ミー』①

advertisement

タヘラ・マフィ/著 金原瑞人、大谷真弓/訳 潮出版社 1785円

環境破壊と異常気象で無惨に変貌した地球では、必死で生き延びようとする人々の恐怖心につけこんで政権を握った再建党が利権を思うままにしていた。主人公のジュリエットは、相手に触れただけで死に至らしめることもある特殊能力を持って生まれたため、彼女を悪用しようとする再建党に目をつけられる。そこへ現れたジュリエットを命がけで守ろうとする若き勇士アダム。至高の愛を知った二人は、悪に打ち勝つことができるのか?

絶望的な世界で立ち上がる一人の少女
衝撃の3部作の第1巻が日本上陸!

タヘラ・マフィ

たへら・まふぃ●1988年アメリカ・コネチカット州生まれ。イラン系移民の両親の末っ子として生まれる。現在はカリフォルニア州オレンジ郡に住む。リベラルアーツ・カレッジを卒業し、その後世界中を旅する。『シャッター ミー』がデビュー作。
Matthew Furman/MergeLeft Reps, Inc.

 

 「監禁されて、264日目」「わたしがひとりぼっちで口をきいていない日数は、264日」「最後にだれかに触れたのは、6,336時間前」──。

 このようなモノローグではじまる物語の主人公は、17歳の少女ジュリエット。読み進めるうちに明らかになってくるのは、この小説の舞台が異常気象と環境破壊で人類も動植物も激減した世界だということ。彼女を監禁しているのはその世界を独裁支配している「再建党」で、狭い密室にはアダムという囚人仲間がいるということ。そして、ジュリエットが素手で相手に触れると死ぬこともある、恐るべき能力を持っていること──。

 謎に包まれた設定が想像を掻き立てる。さらに興味を引かれるのは、比喩や反復を多用して文をあえて線で消すなどした独特の言語表現だ。孤独と絶望感でいっぱいのジュリエットの心の声はあまりにもリアルで、ページから張りつめた空気が立ち上る。

 作者はこれがデビュー作となるイラン系アメリカ人のタヘラ・マフィ、25歳。「読む物がなければクーポンやレシートでも読む」ほど活字好きの彼女は、詩や哲学にも親しんだことのある根っからの文学少女だ。このデビュー作は言葉の可能性を探っている彼女の賭けでもあった。そうして誕生した『シャッター ミー』は初版17万部という異例の部数で発売され、またたくまに国境を越え、言語や宗教を超えて世界中の読者を虜にしたのだ。

 物語は序盤を過ぎると、ジュリエットとアダムの関係性が大きな意味を持ち始める。ジュリエットには、ある男の子を助けようとして素手で触ってしまい、図らずもその子の命を奪ってしまった過去があった。彼女の苦悩をまるで昔から理解していたかのように優しく接するアダム。やがて極限状態の二人は激しく求め合うようになり、言葉を尽くして描かれる心理描写が読者の心を激しく揺さぶる。さらに二人の間に秘められた過去も明らかに。そこへ冷酷非情な再建党の支配者で、完璧な容姿を持つウォーナーも登場し、ジュリエットの特殊能力を悪用しようと動きはじめる。そのウォーナーのジュリエットに対する歪んだ愛も見えてきて……。

 面白いのは、作者の元に「ウォーナーに同情してしまう」という読者からの声が寄せられていることだ。なぜそう思ってしまうのか、ぜひ読んで確かめていただきたい。
 両親にも世間にも疎まれ続け、生きる気力を失いかけていたジュリエット。果たして彼女はこの先、どんな行動を起こすのか?
 日本語版の第2巻は7月に発売予定。私たちの近い将来、現実に起こりそうな悲惨な世界で立ち上がる少女の行く末に、世界が注目している。
 

翻訳者の金原瑞人氏も絶賛!

今まで翻訳したことのない文章の面白さ
強烈なラブロマンスも読みどころ

 この小説の魅力はまず文体の面白さにあります。原書を読んだときは面食らったのですが、今まで経験したことのない独特の文章に魅了され、訳してみたい!と依頼を引き受けました。タヘラさんは詩的な表現が多く、そこが訳すうえで一番難しかった。でも言葉のインパクトを追いながら、言葉そのものに思いを馳せることで翻訳できました。
 それともうひとつ、「わたしは怪物だから」というように、主人公の心の声を線で消してあるのも斬新でした。アメリカで主流のCDブックにしたり映画化したりするとき、この線で消された部分はどうなるんだろう?と気になります。
 最近、英語圏ではヤングアダルト向けのディストピア小説が数多く出版されています。『シャッター ミー』もそのうちのひとつですが、アダムとジュリエットの初々しく強烈なラブロマンスもひとつの読みどころになっている。詩的表現、エンターテインメント性、大恋愛と、いろんな魅力を兼ね備えた稀に見る傑作だと思います。