『てさぐれ!』制作陣インタビュー第3弾。『てさ部』は日常系アニメなのか?

アニメ

更新日:2014/4/11


 声優養成所に通う高野麻里佳(こうのまりか)がお届けする、秋の新アニメ『てさぐれ!部活もの』(以下『てさぐれ!』)の制作陣インタビューシリーズもついに最終回。

 前回は監督の石舘光太郎さんの作品について、石舘さんご自身と音楽で関わってきた井上純一さんに話を伺いました。今回は引き続きおふたりに、最新作である『てさぐれ!』について気になることを、ぜ~んぶ聞いてみました!


独特の雰囲気とセンスが光る石舘監督

――まず最新作『てさぐれ!』のテーマを教えてください。

石舘:まず大きなところでは、今までよりももう一段階「アニメ」に近づけてより広いアニメファン層をターゲットにしよう、ということです。今までのCGでプレスコというフォーマットはそのままに「いかに日常アニメぶるか」ということですね(笑)。僕は『らき☆すた』とか『けいおん!』、『ゆるゆり』とかも好きでしたので。

――もしかしてキャストが4人になったのも……?

石舘:はい、日常系アニメのフリをするためです! 日常系アニメは4人じゃないといけないんです!!

――キャラクターの見た目がアニメチックになって“フリ”をするのに役立っていそうです。かなりキャッチーでかわいくなりました。

石舘:ですよね! 今回は日テレさんでやらせて頂けるし、予算が増えたことで、とにかく間口を広げることも目標にしているんです。新たに「Cinema 4D」というソフトを使っているのですが、セルルック(アニメのセル画のよう)にすることでだいぶ視聴者にとっての敷居は下がったと思います。

――そんな『てさぐれ!』の作品コンセプトを教えてください。

石舘:今回もとにかくスケジュールがバタバタだったのと、オリジナル作品で内容が固まるまでも苦労したので、僕らのその“手探っている様”をそのまま作品コンセプトにしたら面白そうだな、と思ってこういう方向性にしてみました。きっとキャストさんも収録で手探りになるでしょうし(笑)。製作チームとしても初めて一緒に仕事をする人たちが多くてバタバタしましたし、スタッフの人数も前より増えてまとめるのも大変ですし、モーションを付けてくれているMMDerさんたちも初めて使うソフトに苦労したでしょうし、とにかくみんながみんな手探りだったと思います。そんな中で「面白いものを作るんだ!」というキャスト&スタッフの熱意が、どうにか作品としてひとつになった、っていう感じです。毎度のことながら、今回も全てのキャストとスタッフにすごく感謝をしています。

――井上さんもバタバタで作業されていたのですか?

井上:いえ、石舘の作品は音楽が一番最初に作業が終わらなきゃいけないんです。なので、僕だけ2、3か月先に終わっていて。そこからは「あー、みんな大変そうだな。頑張って欲しいなー」みたいな気楽な立場でしたね。

――では初めて映像を観たのはオンエア時ですか?

井上:いえ、1話のオンエア5日前くらいに石舘の家で「現状の映像はこんな感じなんだ」と観せてもらいました。でも……今だから言うけど、「やばい。オンエアとかのレベルじゃない」と思って(笑)。でも石舘が一所懸命なのは知っているし、「これダメじゃない?」と言って、さらにパンクさせるなんて責任を僕は背負えないし。その場は「かわいいと思う」とか言って、家に帰ってひたすら「お願いだから第1話に間に合ってください」って神に祈りましたよ(笑)

石舘:あの時はセルルックじゃない、3Dモデルがむき出しの状態だったし、目の表情もその後に付けたんです。あれを真に受けているとは思わなかった(笑)

――『てさぐれ!』で好きな回はありますか?

石舘:あんまり詳しく言いたくはないのですが、第10話ですね。実は僕が以前関わった作品で、もし続編があったらこういうことをやりたいな、と思って書いていた脚本があったんです。残念ながら結局日の目を見なかったのですが。

井上:どんなの?

石舘:観てないっけ? …と…のやつ。

井上:あれか。「…がかわいそう」ってやつね。

――まったく『てさぐれ!』の話に聞こえません(笑)

石舘:『てさぐれ!』はまだ僕の作品をご覧いただいていない方々に対して、間口を広く、敷居を低く、笑いの方向性を分かりやすくして、このラジオのような不思議なアニメを楽しんでいただきたいということを一番の目標にしているんですが、それだけではなく、僕のこれまでの作品のファンの方に対しても楽しめる要素を盛り込みたいと思いまして。明坂さんと西さんの競演をはじめ、そんな要素をちょこちょこと入れています。なのでその第10話の脚本は、もしその作品の続編を僕が作っていたとしたらこんなふうになっていたのかなー、という見方で楽しむことも出来るかな?と思って採用しました。


爆笑話の連続に監督の石舘さんものけぞる。右は音楽担当の井上さん。

――今回、制作にあたって特に意識されたはありましたか?

石舘:僕のこれまでの作品は何でもありなゲリラのような戦い方と言いますか、CG ということで映像的にも、笑いの方向性としてもかなり視聴者を選ぶものでした。アニメの隙間産業としてすごく「狭い」コアなファンを「深く」捕まえよう、という戦い方ですね。今回はそれが相応しくないということで、いろいろと悩みました。

――そ、それは大変そうですね。

石舘:ですが、そこから「これまでのフォーマットで、いかに普通のアニメのフリをするか」という、作品そのものの大テーマに繋がる戦い方が生まれました。本来は出来の悪い生徒なのに、それが優等生のフリをすればするほどその“ほころび”が面白くなるという構造ですね。なので、『てさぐれ!』の面白さをひとことで言うなら「もしも『gdgd妖精s』が優等生ぶって日常アニメのフリをしてみたら」という、コントをさらにコントにしたような構造なんです(笑)。加えて、毎回ラジオを付けて30分枠のように楽しめるというのは今回の新しい武器ですね。通して視聴すると、本編、アドリブパート、ラジオと同じ番組の中で次第に砕けていって、いつのまにかどんどんキャラクターや声優さんに愛着が湧く構造になっているんじゃないかと思います。

――声優さんはアドリブパートにラジオに、と大変そうですね。

石舘:そうですね。今回はラジオも含めて4回の収録で全部録りました。なので、キャストのみなさんは休憩時間にほとんど喋っていないくらいの状態でした。最終日は#4までのオーディオコメンタリーも録りましたし。しかも今回、オーディオコメンタリーは初見のものと2回目に観たものの2種類を録っています。その日はもうみんな本当に疲れきっていて、2回目なんてロクに喋らないコメンタリーになりましたど(笑)これはBlu-ray特典で聴けるので、そんな全然しゃべらないコメンタリーをぜひ聴いてほしいです。

井上:ただのボリュームの小さい本編だよね(笑)

――次に音楽の話を伺います。オープニング曲『Stand Up!!!!』はどういう経緯で作られたのでしょうか。

井上:最初に「“アニメオープニングあるある”をそのまま曲にしてくれ」と言われました。それで色々なアニメのオープニングをチェックして“あるある”を羅列したのですが、いざ曲を作ってみるとTVサイズ45秒という尺がとにかくキツくって。これまでで一番短いんです。なので苦肉の策で最初と最後はセリフ調にして詰め込みました。でも、そうしてできた「タイトルロゴがドーン」が思った以上にネットで反響を呼んで驚きです。それでも結局8秒くらいオーバーして、53秒になったんですけどね。

――フル版が収録されたCDもリリースされました。

井上:2番以降は1番とはまたちょっと違う事を表現していたり、僕の個人的な苦悩が入っていたりで、何でもアリになっています。ただフルで聴いて初めて真の魅力がわかってもらえると思うので、ぜひ聴いてほしいです。
石舘:『てさぐれ!』のコンセプトのひとつが「ありがちなことを突き詰めて新しいものを作る」ということだったので。やっぱりCGアニメということもあって『てさぐれ!』をまったく観てくれない人はまだまだたくさんいると思うんです。そういう人にもこの曲から興味を持ってもらえたら、と思ってこのコンセプトを伝えました。ぜひ友達とのカラオケで歌ってほしいです。

――エンディング『12ヶ月』に関しては?

石舘:部活ものということでタイトル通り12ヶ月間をテーマに、先輩と後輩の関係性や、毎年受け継がれていくものというものを真面目に扱っています。本編はあんな内容なんですけど(笑)

井上:こちらはガチのバラードですね。実は『Stand Up!!!!』もですが、曲を書いた時にはキャストさんがまだ決まっていませんでした。でも『12ヶ月』はAメロはすごく低いしサビは裏声を使うし、今まで書いた曲の中で一番音域が広くなってしまったので、歌いこなせる人が来てくれるか不安でした。ただ幸いにも、しっかり歌えるのを知っている明坂さんが選ばれたので、大事なところは彼女にお任せしようと思っていましたね。

石舘:西さんが、しっとりした曲もちゃんと歌えたのもうれしい誤算だったよね。

井上:「期待していなかった」と言うとすごく失礼ですが(笑)。『直球表題ロボットアニメ』(以下『直ロボ』)では西さんには弾けたキャラソンを歌って頂いたので、そういうイメージしかありませんでした。でも収録では全員にフルで歌ってもらいましたが、西さんが思った以上にいい色を出していて驚きました。あと曲の最後で、部長から新入生へのバトンタッチを表現するために西さんから大橋さんにつなぐことにこだわりました。これもフル版を聴いて頂ければわかりますが、間違って泣いてくれる人もいるかもしれません(笑)


井上さんも当時の話を再現するのがうまい

――これまでの作品ではオープニングやエンディングが途中で大きく変化しましたが、今回もそうした仕掛けはありますか?

石舘:したいところですけどね。オープニングはアニメーション監督のたつき君が「余力があれば変えたい」とは言っていました。ただ、そちらに彼を取られると本編でまばたきの回数が減っちゃうので(笑)

――まだ決まっていないんですね(笑)

井上:当初、2番の最後は「どうやら2番も使うらしいからみんな整列」という歌詞で収録しました。でもそれだと絶対にオープニングを変更する必要があるから、「2番も使うかもしれないって言うからみんな整列」に変更して収録し直し、保険をかけました(笑)

――とても楽しみです。では、これまでロボットものや部活ものを扱ってきましたが、次にやりたいことはありますか?

石舘:んー、海外で受け入れられる作品ですかね。今までのものはどうしても日本語や日本文化がわからないと面白さが伝わらないんですよ。CGキャラのアドリブでの会話劇で、向こうでも評判のいい日本の伝統文化のフリをしたもの……今回みたいな比較的リアル頭身のセルルックで妖怪や日本の神様をモチーフにすれば観てもらえるかもしれませんね。

――最後に今後の野望を教えてください。

石舘:ひとことで言えば、アニメ界の「関ジャニ∞」を目指しています。ジャニーズファンってそれぞれに一推しがいてライバルグループにはちょっとした対抗心があるって聞いたんですけど、どのグループのファンも二番目に好きなのは関ジャニ∞だそうで。そのみんなの二推しというポジションを確立した結果、関ジャニ∞は不動の地位を築いたと伺いました。それを知って「目指すところはこれだ!」と思って。作風的に決してクールで1番のアニメにはなれないけど、みんなが「あれも面白いよね」と挙げてくれるような作品を作りたいですね。あっ、いやいや、もちろん関ジャニ∞を一推しにしてらっしゃる方もたくさんいらっしゃるとは思いますけどね!こんな言い方すると、関ジャニ∞ファンに怒られるかもしれませんけど(笑)


最後まで笑顔の高野。今回も非常に勉強になったようだ。

 3回にわたってお送りした『てさぐれ!』制作者インタビュー、いかがでしたか? かなり独自路線を走っている石舘作品ですが、その裏ではこんな苦労があるんだ、と私も感慨深くなりました。でも、ちょっと次回作では挑戦してみたいかも……。そんな制作陣の思いを知ったうえで『てさぐれ!』を観ると、さらに楽しそうですね!

(インタビュアー=高野麻里佳、編集=はるのおと、撮影=橋本商店)

てさぐれ!部活もの

・てさぐれ!部活もの アニメ公式HP
http://www.ntv.co.jp/tesabu/

・「てさぐれ!部活もの」公式 Twitter
https://twitter.com/tesabu

・公式ニコニコチャンネル
http://ch.nicovideo.jp/tesabu

■インタビュアー紹介

<高野麻里佳>

2月22日生まれのA型。マウスプロモーション附属養成所に所属。代々木アニメーション卒。憧れの声優は大谷育江さん。

・高野麻里佳 twitter
https://twitter.com/marika_0222

©てさぐれ!製作委員会