パンチラに込められたメッセージ。圧倒的なリアリティで描く、劇場版『Wake Up,Girls!』の魅力

アニメ

公開日:2014/1/14

 2014年1月10日、あの山本寛監督の手によって生み出された新しいアイドルアニメ『Wake Up,Girls!』の放送がついにスタートしました。そしてTVシリーズ放送開始と同日から、TVアニメの前日譚を描いた劇場版『Wake Up,Girls! 七人のアイドル』も公開されています。


 宮城県仙台市で活動する弱小芸能プロダクション、グリーンリーヴズ・エンターテイメント。その社長である丹下順子が起死回生の策として考えたのが、アイドルグループの結成だった。グリーンリーヴズに務めるマネージャー松田耕平は、社長とともにスカウト活動やオーディションで6人の女の子をグループメンバーとして選んでいく。だが、松田にはあとひとり、どうしてもグループに加えたい女の子がいた。それは、大人気アイドルグループの元センターであり、ある事情からアイドルを辞め仙台へやってきた島田真夢。しかし真夢は、松田の勧誘を「もうアイドルをする気はない」と断り続けていた――。

 このあらすじのように、アイドルグループのWake Up,Girls!(以下WUG)が結成するまでのストーリーが展開する『Wake Up,Girls! 七人のアイドル』。この作品は、劇場公開と同時に、ニコニコ生放送で世界108カ国、地域に向けて本編すべてをサイマル配信するという劇場映画初の試みも行われています。そこで、観るかどうか迷っている人のために、その見どころや魅力をお伝えします!


●キャラクター描写、背景、設定の緻密さから生まれるリアリティ

 映画では、キャラクターたちの動きが自然な形で描写され、観ている人間が作品へ没入しやすいように誘導してくれています。特にアイドルたちの描写は仕草のひとつひとつから実に丁寧に描かれていて、本当にこういうアイドルがいるのでは?とまで感じるほど。

 当然ではありますが、舞台となる宮城県仙台市の街中の景観も非常にしっかりと描き込まれおり、地元をよく知る人ならよくぞここまでと思うレベル。過剰なまでに描き込まれたその様子は、映画にしっかりとした一本の芯を通す重要な要素になっています。

 本作の根幹となっているのは、この圧倒的なまでのリアリティ。仙台の街並みだけでなく、彼女たちの制服(一部山形の制服もありますが)に至るまで、現実を忠実に再現することで、ライバルや比較対象とされているアイドルアニメとの明確な“差別化”を行っています。キャラクターに個性がない、見分けがつかないと一部で囁かれていますが、普通の人はそこまで個性で特徴的な容姿を持ち合わせていないものです。ある意味、個性的で特殊で異能の力を持っているキャラクターが登場するのが、“当たり前”だと思っている昨今のアニメに対するアンチテーゼではないでしょうか。

 また、社長がお金を持ち逃げするというシリアスな展開からスタートしますが、地方では産業の空洞化や若年労働者の県外流出及び高齢化の影響が顕著で、倒産、夜逃げ、自殺が日常茶飯事にあります。アニメにシリアスはいらないとするファンもいるかと思いますが、リアルを追及するには、この疲弊した地方の現状を表現することは避けて通れません。確かに夢を与えるアイドルには似つかわしくないテーマかもしれません。しかし、そんな地方から明日への希望を与えるアイドルが登場し、徐々に周りを巻き込んで活気をみせる“シンデレラストーリー”のために必要な設定ではないかと思います。


●“デビューしたてのアイドルたちを応援する”という体験

 これこそが『Wake Up,Girls! 七人のアイドル』という映画の最大の特徴と言っていいでしょう。前述したとおり、映画はWUGが結成するまでの話を描いているのですが、この過程をしっかり描写しているのが素晴らしいです。オーディションやスカウトでメンバーが徐々に集まり、レッスンに励み、スーパーの駐車場や駅前でのドサ回りをこなし、デビューCDが作られ……と、生まれたてのアイドルグループが活動を始めていく姿をじっくり描写することで、映画を観ている人間が“グループ結成からアイドルたちをずっと見守ってきたファン”として物語に入り込めるように作られています。

 また、全員が全員、ボジティブな理由からメンバーに加わっていない経緯も、先述のリアリティだけでなく、弱さや、悔しさ、過去を乗り越え、いまを変えたいと願う想いがバネとなり、大きく羽ばたくための伸びしろを与えています。そこには仙台を舞台に選び、震災の影響を受けた東北の人々に希望を与えたいと願った監督のメッセージが込められており、マイナスからのスタート(苦難)を乗り越え、力を合わせて明るい未来を切り開こう!と、グループ結成の経緯を通じて間接的に伝えています。

 この“結成したてのアイドル”という要素をさらに引き立てているのが、声を担当する声優陣です。オーディションに集まった2000人の中から選ばれた声優たちは、まさに劇中のWUGと同じ“スタートの第一歩を歩き始めたアイドル”そのもの。演技が拙い部分は確かにあるのですが、それがまた新人アイドルという空気を生み出すのに一役買っています。なぜ監督は有名声優をヒロインに起用しなかったのか?その理由も明確です。もちろん、有名声優を起用すれば、キャラクター認知だけでなく、声による個性も出しやすく、声優個人が持っている人気を作品人気に転換することも可能です。そんないいこと尽くめの有名声優の起用を行わず(サブヒロインは有名どころですが)、新人たちを起用した理由、それは声優人気という“外的要因”に頼らず、自らが生み出した真の意味で新しいキャラクターに接して、認知して、好きになって欲しいという想いからでしょう。劇中でも、事務所の社長がメンバー全員に○女なの?と問いかけるシーンがありますが、それもメンバーが何色にも染まっていない、真っ白なキャンバスのようなキャラクターであることを証明するための演出だと考えています。

 アイドルたちが必死に頑張る様子はアニメと声の両面で絶妙にリンクしていて、観ているとどんどん彼女たちを応援したくなることでしょう。筆者は、アイドルを扱った作品は受け手に「この子たちを応援していきたい!」と思わせることができるかが最大のポイントになると思っているのですが、この点において、演技が稚拙で多少の棒演技な彼女たちも含めて、『Wake Up,Girls! 七人のアイドル』は満点を上げたいレベルです。


●全力の想いが込められたライブシーン

 映画のクライマックス、WUGはある理由から、制服のままでライブに参加することになります。下着が見えそうな衣装を着る場合は見せパンを履くのがアイドルの常ですが、それを用意する時間もない……。しかしWUGのメンバーは、そんな状況でも構わず、決意を持ってライブへと挑んでいきます。

 映画のクライマックスであると同時に、彼女たちの想いのクライマックスも描いているこのライブシーンは、まさに圧巻の出来です。昨今のアニメでは頻繁にアイドルやバンドのライブシーンが登場し、その作画や演出が話題になりますが、そういった他作品と比べると、WUGのライブシーンはかなり地味です。派手な演出もなければ、豪快な声援もありません。ただひたすら、全力で歌い踊るWUGを丁寧に描いているだけ。しかし、だからこそ、彼女たちアイドル7人の姿をここまで見てきた人間には、心に響く本当に素晴らしいライブになります。前述の“デビューしたてのアイドルグループを見守る”という心境を、ここでもうまく盛り上げています。デビュー曲が流れだし、WUGが本当の意味で動きだすあの瞬間のゾクゾク感はぜひ味わってほしいです。

 最後に、TVアニメ1話でもこのライブシーンは少しだけ登場しています。このシーンについて、ネットなどでは“パンチラ描写の強調が不愉快”、“アニメファンに媚びている”などといろいろ言われているようです。でも、実はこのパンチラにも、彼女たちの決意を表すという意味が込められています。山本監督はリップサービスで、パンチラは必然と答えるかもしれません。しかし、「あれはただのサービスシーンではない」というのは、映画を観た人なら全員が声を大にして主張したいところでしょう。アイドルは偶像であり、偶像ではない。山本監督の描きたかったアイドル像はまさにここに集約されています。初ライブでパンチラを余儀なくされたメンバーたち。どん底に近いマイナスからのスタート、そして、そこから這い上がってゆく仕事を選べないリアルなアイドルたち。その象徴がパンチラなのかもしれません。

 このように劇場版である『Wake Up,Girls! 七人のアイドル』は、『Wake Up,Girls!』というアニメを全力で楽しむ上で欠かすことのできない作品です。この映画を観ると観ないとでは、TVアニメはもちろん、劇中のアイドルたちに対するイメージもガラッと変わってきます。もし少しでもこの作品に興味をもったのなら、ぜひ作品を鑑賞して、WUGの精一杯のファーストライブを見届けてあげてください。彼女たちの本当の魅力に気づくことができるはずです。

(文=ひろきら)