隔壁を乗り越えた先にある違う世界 それを見てみたいと思うんです

新刊著者インタビュー

公開日:2014/3/6

取材相手の話を聞くことで繋がった現代科学の点と点

 圧倒的なリアリティに支えられたフィクションを支えるのは、各分野の専門家に直接インタビューし、取材を重ねていくという手法だ。

「原発事故が実際に起こってしまったいま、一番問題なのはアフターケアをどうするかという点です。色々と調べていくと、その内どうやらこの辺りを調べたら役立つ情報が出てきそうだという見当がついてきます。そして、目処が立ったらきちんと専門家のお話を聞いてみる。自分の得た情報が本当なのか、確認しなければなりませんから」

 話を聞く専門家は一人ではない。アンテナに引っかかり、価値ありと判断したものは何でも調べてみる。

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「どんな分野であれ、一定の業績を上げている方は、それぞれ自分の言葉というものをお持ちです。学術誌を読んでも理解できなかったことだって、実際に会ってお話すると、するりとわかることがある。また、専門的な話だけでなく、人間的なエピソード─たとえばその方の立ち居振る舞いや子供の頃の思い出話などが、登場人物の造形やストーリーの参考になることもままあります。そうやって話を聞くうちに、いろんな情報が結びついて、やがて一つの物語になっていくんです」

 今回の作品でも、一見全く関係なさそうに見えるエピソードが、ページが進むにつれ次々と繋がっていく。
 その鮮やかな手並みにカタルシスを感じる読者も少なくないことだろう。
 一方、人として断ち切ることができない生まれ育った土地への郷愁や、狭い世界で生きざるを得ない人々の愛憎劇など、登場人物の心情につい共感してしまうシーンも少なくない。

「一定程度時事に則した小説である以上、後代の人に、当時はこういう時代だったのだという事はわかってほしいから、時代性が良くわかるような構成にしています。個人的な主観は超えたところで、実際の状況はこうだったのだというのを書かなければいけません。イデオロギーや意見にも左右されることなく、客観的に」

 生物は恒常性を保たなければ命を守れないが、突然変異が起こらなければ進化できない。それは社会も同じこと。自分たちを守る壁を壊すことでしか、次に進めないケースもある。
 本作が店頭に並ぶ3月には、新たな進路を前に希望と不安に揺れる向きも少なくないことだろう。

「この物語は、自分の殻を破りたいときの参考になるかもしれません。今は、何かをしようと思ったら、誰もが自分で情報を見つけられる時代です。それにアクセスする手段は整っているんですから。登場人物たちの行動から、考え方をちょっと変えて、新しい方向を探す方法論を見つけてもらえるとうれしいですね」

取材・文=門賀美央子 写真=川口宗道

紙『深海のアトム』

服部真澄 KADOKAWA 角川書店 1700円(税別)

カイは住んでいる村に嫌気がさし、海で行方をくらましてサバイバル生活をすることに。そんな折に見つけた奇妙な海の生物が彼を波乱の運命に巻き込んでいく。一方、原発誘致に揺れる村ではある陰謀が進んでいたが、突如起こった大地震で全ては思わぬ方向に進み始める。破壊の先に見える希望を大きなスケールで描いたエンターテイメント小説。