椎名へきるインタビュー 声優・歌手としての軌跡を辿る【後編】

アニメ部

2014/5/4


声優デビュー22周年、歌手デビュー20周年を迎えた椎名へきるさん。前編では、声優としての過去や現在を振り返ると共に、時代ごとの感情などに語って頂いた。そして今回は、歌手としての一面を語っていただくと共に、プライベートの素顔についても伺った。

■歌手デビューから20年。椎名へきるが語る過去と現在

−−歌手デビュー20週年を迎え、変化を感じる部分はありますか?

椎名「基本的には変わっていません。色々なものに関わらせて頂いて、やってきたことについては何か残せてきたのかなと思います。ただ、自分の“芯”の部分については何ら変わっていないですね」

−−“芯”の部分とはどういったところですか?

椎名「具体的には、当たり前ですが仕事をきちんとやることです。また、お客さんに参加して頂けるライブやイベントについては、とにかく“楽しんでもらう”という部分です」

−−ステージから眺める中で、やはりファンの方々の変化も感じますか?

椎名「ずっといらっしゃって下さる方々はやはり分かります。みなさん盛り上がるときは盛り上がる、休むときは休むっていう緩急を捉えてらっしゃるなって。また、小さなお子さんとライブに来られたり、お子さんを抱えている方もいるので、そういった部分でも感じますね」

−−デビューから20年間、活動を支えるスタッフもずっと一緒だそうですね。

椎名「一緒になって作ってきた感覚です。私の意見に、スタッフやサポートメンバーからも『こうした方がいいんじゃないか』という提案が出てくる。どうしたら喜んでもらえるか、ライブを進めていけるかについて、みんな柔軟なので“A案、B案……”と、活発に議論しあえる仲間です。仕事としての線引きもきちんとしてくれるし、緊張感を持ちつつ自分の引き出しをすべて開けてくれるので、意見をぶつけ合うことはあっても、『これは絶対こうだ!』といってぶつかり合うことはないですね」

−−声優と歌手を両立した先駆けだと思うのですが、現在と過去の声優業界における変化はありますか?

椎名「間口が広がったと思います。デビュー当時は、ライブツアーと声のお仕事を両立するというのはなかなか認知されていなかったんですね。今、活躍されている方々が当たり前のようにやっていることが、当たり前ではなかったと思います」

−−前例がなく、ファンの方も初めは戸惑ったのではないかと。

椎名「そうですね。前例はありませんでしたし、歌手の世界にもピッタリと寄り添うやり方が初めてだったと思います。ただ、何をやっても意見は別れるところだと思うので、右を向けば左を向いたり、左を向けば右を向く人がいるというのは当たり前なのかなと思いますね」 
 

声優アーティストの先駆けとして、20年間という一つの歴史を語っていただいた。


■ 正直、体力が落ちました(笑)

−−歌手としてステージへ立つにあたり感じた変化はありますか?

椎名「正直、体力が落ちました(笑) 昔はもう、がむしゃらに体力勝負でやってました。息が切れようが何しようが、踊って歌ってみたいなエネルギーの使い方をしていましたね。デビュー当時から20代にかけては特に、自分なりに“エンターテイメントって何だろう?”と研究し続けていたんですけど、今は、歌に集中したいという気持ちが生まれてきました」 

−−いちばん印象深かったご自身のライブについてお聞かせ下さい。

椎名「やっぱり初めての日本武道館公演ですね。2日間連続でやらせていただいて。ホールツアーとは桁違いのスタッフの方々が、搬入やセッティングから、何から何までやってらっしゃる姿を見て、正直、冷や汗ものでした(笑)」

−−ご自身の中でプレッシャーは感じてらっしゃったんですか?

椎名「もちろんです。お客さんも桁違いだったので、私ひとりの肩に『関わって下さる方々の時間や思いがすべて乗っかっているんだ』っていう気持ちがあって、何が何でも成功させなければいけないという思いが強かったです」 

−−20年間ステージへ立ち続ける中で、ご自身に“慣れ”というのはありますか?

椎名「やっぱり1回ごとが勝負なので、ないですね。それに、人間って“いつ死ぬか分からない”ですよね。今日は元気でも、明日死んでしまうかもしれない。それなら悔いを残さないようにやろうと考えています」

−−仕事は“常に全力で”という気持ちが、椎名さんの中に大きく根づいているんですね。

椎名「そうですね。例えば、今の私に『10年前の椎名へきるをやれ』って言っても絶対できないと思うんですよね。だから、年代ごとの私にできることを全力で残していければいいなと考えています」

−−いまだにご自身で成長を感じる部分はありますか?

椎名「毎日あります。たぶん、自分の中で“満足する”ことがないんです。例えばツアーだと、終わってからの達成感はあるんですよ。ただそのあとに、足りなかった部分を振り返ります。じゃあ、いつ自分は“理想的な自分”になれるんだろうとも思うんですけど、そこまではまだ遠く見えて、体には達成感が残っても、頭では追いつかない状況がずっと続いている感じです」 
 

貪欲に“成長”を求め続ける椎名さん。ステージへ駆ける情熱をひしひしと感じさせられる


■日記を書き続けている

−−ご自身の気持ちを何か書き綴ったりしてますか?

椎名「デビュー前、日本ナレーション演技研究所に所属していたんですけど、その当時からずっと日記を書き続けています。自分ができなかったこととか、満足できなかったことなどを書き続けています。今も書く機会は少なくなったけど、続けています」

−−たまに読み返しますか?

椎名「そうですね。今見ると、冷静になれる部分もあるんです。瞬間ごとの思いの丈を綴っていて、客観的に見てみると『なんでこんなことで泣いていたんだろう』とか振り返るときもあります。捨てるに捨てられないので、いつかまとめて燃やしてしまおうと思っています(笑)」

−−過去の自分と向き合うような感覚ですね。

椎名「自分自身を振り返るのはもちろん、自分にどれだけの人が関わってきたかというのも分かるんですよ。例えば、ライブなどに関わって下さった方々、地方ツアーで立ち寄ったお店のご主人からホオズキを頂いたりしたこととか、ちょっとした喜びや、さりげなくて忘れてしまいそうな記憶が蘇ってくるうれしさもありますね」

−−話は変わりますが、お休みの日はどういった過ごし方をされているんですか?

椎名「本を読むか映画を見るか、演劇も好きなので芝居や歌舞伎など、ジャンルを問わず足を運んでいますね。あと、美術館も好きなのでよく行きます」

−−日頃はライブなどで活発に動かれているイメージがあるんですが、美術館というとそれこそ“静”として真逆なイメージもありますね。

椎名「自分の知らないモノが山ほど置いてあるのでおもしろいんですよね。自分の生きている時代なんて、本当にちっぽけだと思うんです。でも、美術館に行くと何千年も前のものが自分に語りかけてくるような感覚をおぼえるんですね。命の神秘性や生命のすごさ、時代の流れの中で『私たちは大きな流れの一部でしかないんだな』って思ったり、そこからさらに、千年後の日本を想像したりするんです」

−−インテリアなど、ご自宅でのこだわりはありますか?

椎名「木でできたものをできるだけ置くようにしています。木目が見えたり、つぎはぎではなく天然素材をありのままに使ったものが好きです。あと、メーカーにもこだわりますね。例えば、30年後に机が壊れてしまった場合、同じ色合いや材質、手ざわりのものが選べるようなところにしようと。だから、古くから製造工程や使う素材が変わらないメーカーを選ぶようには心がけています」  

−−歌手デビューから20年、最後にファンの方へメッセージを頂けますか。

椎名「今年が歌手デビュー20周年なので、ぜひいっしょにお祝いしていただけるとうれしいです」

さて、前編・後編にわたり椎名へきるさんのデビュー当時からを詳細に語っていただいた。現在は、声優がキャラソンやライブ活動をどちらも両立させるスタイルが確立されているが、椎名へきるさんは間違いなく、その先駆け的な存在だろう。インタビュー中、随所に感じられたのは、客観的に自身の状況を把握しながら、貪欲に“プロ”としての成長を願う姿勢だ。声優として22年経った今も、更なる高みへと進み続けている。

今後も椎名さんの活動から目が離せない。

(撮影=山本哲也、文=カネコシュウヘイ)