世界一短い詩と小説がコラボした「物語の宝石箱」が生まれた舞台裏とは?【堀本裕樹さん×田丸雅智さん対談】

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/11

『俳句でつくる小説工房』(堀本裕樹、田丸雅智/双葉社)

 俳人・堀本裕樹さんとショートショート作家・田丸雅智さんがコラボレーションした本『俳句でつくる小説工房』(堀本裕樹、田丸雅智/双葉社)が10月18日に刊行されました。同書は一般公募された俳句を堀本さんが選び、その句をもとに田丸さんがショートショートを書くという史上初の試み。言葉の匠ふたりのセンスと想像力が絶妙にマッチングした“物語の宝石箱”はどのように生まれたのか? その舞台裏を語っていただきました!

堀本裕樹(以下堀本) もともとこの企画は「俳句をもとにショートショートを書いてみたい」という田丸さんのアイデアが出発点でしたよね。

田丸雅智(以下田丸) さいわい堀本さんも乗り気になってくださって。読者参加型にしたほうが盛りあがるよね、というのは編集さんを交えた打ち合わせで出てきた話ですね。たしか満場一致で決まった覚えがあります。

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堀本 それで2016年の2月から双葉社のWebマガジン『カラフル』で企画がスタートしたんですが、初回は不安でしたよ。ちゃんと投稿作が集まるのか。集まったとしてもその中からいい作品を選べるのか。だから無事「特選」1句と「秀逸」3句を出せてほっとしましたね。第一回の特選に「春灯ほんまのことはいはんとき」という句を選んだ段階で、これはいけるという手応えを感じました。

田丸 僕もやっぱり不安はありました。俳句からショートショートを作ったことはあったとはいえ、それで連載するのは初めての経験でしたから。

■季語「蛙」から思い浮かべるイメージは?

堀本 初回のお題は「蛙」「春風」で、田丸さんはそこから「弾き蛙」「地蔵顔の男」という2つのショートショートを作られました。両方とも秀逸に選んだ句がもとですね。

田丸 特選の句もすごくいいと思ったんですが、僕の中ではなかなかショートショートへ発展させることができませんでした。句としていいなと思うのと、作品に昇華できるのはまた別問題みたいですね。蛙や地蔵という具体的なものが出てくる句のほうが、足がかりがあって作りやすかったのかもしれません。

堀本 その2句が田丸さんの琴線に触れたということじゃないでしょうか。毎回入選上位の4句の中から書いてもらうことにした理由はそこなんです。選択の幅があったほうが、田丸さんの琴線に触れるものが出てくるだろうなと。

田丸 そうそう。あくまでぼくの琴線に触れた句なので、人によってインスパイアされる部分は違ってくるだろうなと思いますね。

堀本 「弾き蛙」では蛙の鳴き声が郷愁をそそるアイテムとして描かれていますよね。ぼくも田舎育ちで蛙の声を聞いて育ったから、田丸さんの感覚はよく分かる。蛙という季語から思い浮かべたイメージが近いんだろうなと、作品を読んでいて感じました。

田丸 今回は俳句の季語に触れたこともあって、ノスタルジックな作品が多くなりました。デビュー作の『夢巻』や代表的な作品集『海色の壜(びん)』などの収録作にあるように、もともと自然や土着的なものをモチーフにすることが好きなんですが、今回、久しぶりに原点回帰できたような感じがしています。

堀本 ピースの又吉直樹さんも、季語を読むと子ども時代を思い出す、と言っていました。

田丸 その感じはよく分かります。季語ってすごいですね。先人たちのエッセンスが詰まっていて、読んでいるとイメージがぐんぐん膨らむ。

■読み手に想像をゆだねる『俳句でつくる小説工房』のおもしろさ

堀本 選んだ4句に毎回選評を書かせてもらったんだけど、読み方を限定するような文にはしないよう気をつけました。こういう風にも読めますよという示唆はするんだけど、こうだとは決めつけない。

田丸 堀本さんの選評にはすごく助けられました。選評によって「この句にはまだ先があるよ」と毎回教えてもらった感じですよね。

堀本 嬉しいですね。ぼくの選評が種になってそこから一編のショートショートが生まれる。それこそコラボだと思います。

田丸 いちばん影響を受けたのは「写真の友」という作品を書いた時です。もとになったのは「逝きし友の家族と賀状続きたる」という句で、このままでも素晴らしいんですが、「親友が亡くなったからといって、その周りの縁が切れてしまうわけではない。むしろ、深まることだってあるだろう」という堀本さんの選評がまた心に刺さったんです。句と選評から抱いたイメージをそのまま小説にすることができて、自分でも気に入っている作品です。

堀本 「写真の友」は泣けますよね。それとこの本の売りは田丸さんに毎回、創作秘話を書いてもらったこと。これはWeb連載の時にはなかったポイント。田丸さんの発想の方法が覗けるので、ショートショートを書いてみたい人には参考になるはず。

田丸 俳句から何かインスパイアされた時の参考になればいいなと思っています。田丸というのはこういう風にアウトプットしたのか、自分ならどうするだろう、と。それはショートショートじゃなくても、絵でも音楽でも構わない。自由に広がっていけば、また新たな連鎖が生まれるわけで、すごくうれしいですね。

■俳句の固定観念は忘れて、もっと自由な気持ちで触れてほしい

堀本 この本はリレーなんですね。まず読者の皆さんの投稿があって、僕から田丸さんへ、そして裏方のスタッフも含めて、みんな見事にバトンをつなげてくれた。こうして一冊の本になって感慨深いですよ。

田丸 締め切りをどうするというスケジュール的なことも含めて(笑)、本当にうまくつながりましたよね。コラボだからか、自分の本なのに読み返しているとワクワクする。自信をもって送り出せる本に仕上がりました。

堀本 これをきっかけに俳句とショートショートがもっと広まればいい。もし俳句ってこういうものという固定観念を持っている人がいたら、一度それを忘れて自由な気持ちで接してみてほしいと思います。

田丸 ジャンルって本来自由なものなのに、ついこうあるべきというルールに縛られちゃう。俳句とショートショートでこういうことができるんだ、と驚いてもらえたら嬉しいですね。

堀本 この本を手にした俳句好きは必然的にショートショートに触れることになるし、その逆も当然起こる。俳句とショートショート、お互いフットワークの軽いジャンルだし、その相乗効果からもっと面白いことがおきればいいなと期待しています。

田丸 もちろん俳句もショートショートも知らない人も大歓迎です。新しい人がどんどん流れこんでくるのが理想的ですよね。何気なくこの本を手にとった人の内側で、何かが動き出せば大成功だなと思います。

取材・文=朝宮運河 写真=山本哲也