糖質制限の過剰ブームは間違いだらけ? 過去4回「糖質オフ」を特集した『Tarzan』編集長に聞いた!【前編】

ライフスタイル

2017/10/26

大田原透編集長(銀座にあるマガジンハウス編集部にて)

 糖質制限ブームはブームを超えて定着した感があるが、糖を摂りすぎてもダメ、減らしすぎてもダメ、短期間はいいが長期間はよくないのでは? など、ルールや議論も多く誤解も多い。雑誌『Tarzan』もなかなか正しく理解されない糖質制限について過去に数回特集を組んできた。そもそも糖質制限はなぜこれほどブームになり、誤解したまま取り組むとどんな弊害を招くのだろうか?  糖質制限を取材してきた雑誌メディアとしての見解を、『Tarzan』編集長の大田原透さんにお話を伺った。

■『Tarzan』が過去4回、特集してきた「糖質オフ」の系譜とは?

――『Tarzan』は過去に何回か糖質制限を特集しています。日本における糖質制限ブームはいつ頃からはじまり、『Tarzan』ではそれをどのように捉えて、どんな切り口で取り上げてきたのでしょうか。

大田原透編集長(以下、大田原) 最初に『Tarzan』が糖質制限に関する記事を掲載したのは2012年2月23日号です。同年1月に「糖尿病に低炭水化物食は是か非か?」というテーマで糖尿病の専門医たちによる公開ディベートが開催されて、当時すでに糖質制限食を実践していたライターさんが取材したことがきっかけでした。

 主催は日本病態栄養学会年次学術集会で、座長は当時、東京大学医学部附属病院長で日本糖尿病学会理事長だった門脇孝先生、肯定派は糖質制限食提唱者で日本糖質制限医療推進協会理事長の江部康二先生、否定派は日本臨床栄養協会理事の久保明先生でした。我々が知る限り、専門医が学会で糖質制限食の是非をまともに討論したのは、日本ではこのときがはじめてだったと思います。

 そのレポート記事を読んで、これはダイエットや健康に関心がある一般の人たちにもすぐに広がるだろうと思い、同年10月11日号で『正しい糖質制限ダイエット 糖質制限が、「体型」と「常識」を変える。』という特集を出しました。医学系雑誌ではない一般誌で、はじめて糖質制限を特集したわけです。このときは、夕食のみ糖質制限する初級から、食材選びも糖質制限を考慮する中級、朝昼晩3食とも糖質制限食を取り入れる上級と、段階別の導入方法を紹介しました。海外ではすでに糖質制限ブームは定着していましたので、アメリカのローカーボ商品やヨーロッパの実例なども紹介しました。

 以降、他のメディアもこぞって糖質制限を取り上げるようになってきたのですが、『Tarzan』は糖質制限だけを支持しているわけではないので、2013年6月27日号で、『糖質制限 VS カロリー制限 最新ダイエット対決』というテーマで特集したんですね。糖質制限とカロリー制限を並列に扱って、朝・昼・夕食、OK&NGフード、運動、食べ比べ、リバウンド、脂質代謝、脳機能、安全性など14のテーマごとに両者を比較しました。ダイエットしたいならあなたはどちらがいいですか?という観点で、それぞれのメリットを紹介したわけです。

 2015年にはかなりメジャーになっていた糖質制限ですが、ちゃんと理解できていない人がまだまだ多い状況でした。そこで、2015年9月24日号の『糖質OFF徹底ガイド』特集で、現在、主流となっているライトな「ロカボ」を取り上げて、長く正しく続けられる糖質制限を徹底的に解説したんです。同じ頃、日本で「ロカボ」を提唱した北里大学北里研究所病院糖尿病センター長の山田悟先生が「ロカボ」キャンペーンを推進したことで、穏やかな糖質制限が広まっていきました。

■「糖」を敵視しすぎ? 女性はもともと効果が出にくい?

写真:Pixta

――何回も特集する必要性を感じるほど、糖質制限の正しい理解というのは、なかなか浸透しなかったわけですね。

大田原 そうです。ところが過剰なブームはとどまるところを知らず、糖を敵視すぎる傾向が強くなっていったんですね。もともと運動しない人が、糖質を極端に制限することで体力も筋肉も落ちてしまって、ますます動かなくなるという悪循環に陥っているケースもあるようです。しかも、もともと効果が出にくい若い女性まで糖質制限する例も増えてきたので、2017年3月23日号で改めて糖の必要性と上手な摂取方法を問う『気になる糖との賢いつきあい方』という特集を組みました。

 さすがに5回目の特集なので、そろそろちゃんと理解しましょうよという思いで、「自分に適した正しい糖質制限のやり方、ちゃんと理解してる?」という問いかけをしたわけです。

――過去には、「~だけダイエット」やタニタ食堂のレシピ本など数々のダイエットブームがありましたが、糖質制限が流行を超えて外食産業や一般の人にまで定着するほどになったのはなぜだと思いますか。

大田原 糖質制限は、医師が提唱して糖尿病患者の効果があるとされたもので、他の“なんとかダイエット”とは全然別物です。ただ、短期間の糖質制限は効果があると認めている専門家は多いけれども、長期でやったときの弊害はないのか? という点など、まだ議論がわかれているようですね。

 それでも、実践した人たちの多くが効果を実感していますし、「糖ってなんだろう?」と考えることが自分の生活のなかでの気づきにもつながって、食生活を見直す人が増えたんでしょうね。あとはやっぱりライザップの影響も大きいと思います。低糖質と筋力トレーニングによって、わずか2ヶ月間で体を変えることを目標に、トレーナーと顧客と一体となって「結果にコミット」した実例が豊富ですから。著名人の体験談も糖質制限ブームに拍車をかけたと思います。

――ブームって怖いですよね。聞きかじった情報だけを鵜呑みにして、自分にはどういう導入方法が合っているのかよく調べもせずに真似する人が出てくるので、挫折したり、リバウンドしたりするケースも増えます。

大田原 糖質制限に関しては、正直ここまでブームになるとは思ってなかったんですね。『Tarzan』はダイエットそのものに、そこまで興味があるわけじゃないんですよ。大切なのはその先で、「痩せたその体で何をするんですか?」を問うことが我々の役割なんです。運動を習慣化するなどして人生をアクティブに楽しみたい人のための雑誌で、ダイエットが自己目的化している人を応援している雑誌ではありませんから。

 たとえば英米文学を読みたいと思っている人が、文法と単語をずっと覚えていても楽しくないですよね。特にダイエットに関しては、手段と目的をはき違えている人が多いように感じます。ダイエットしたあとの出口の行き先がしっかりある人は、食事制限も運動ももっと楽しめるはずなんですよね。

【後編】糖質制限しながら“かさまし”する「ボリュメトリクス食」とは? 『Tarzan』編集長に聞いた!

取材・文=樺山美夏