「笑顔が虫の裏側に似ている」と言われうまく笑えなくなった――母に捨てられ、父に殴られ、彼女に首を絞められた。壮絶な半生記でデビューする作家・爪切男インタビュー

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公開日:2018/1/20

 生まれてすぐに母親に捨てられた。幼少期は父の鉄拳制裁を受けながら、母乳の出ない祖母のおっぱいを吸って育った。高校時代はクラス一の美少女に「君の笑った顔、虫の裏側に似てるよね」と言われた。大人になって付き合った女性は新宿で唾を売って生活しており、同棲すると週3ペースで首を絞められた。

 一つ一つのエピソードが悲惨すぎるのに、その文章には笑いと優しさが満ち溢れている爪切男の初の著書『死にたい夜にかぎって』(扶桑社)が1月25日に発売となる。

 自分を殴り続けたアマレスのエリートの父にも「強く育てようとしてくれてありがとう」と感謝し、アスリート系風俗店で女の子とレスリングプレイを楽しんでしまう。同棲中の彼女に首を絞められていた時期は、絞められた回数に応じてスタンプを押すポイントカードを自作。苦しむどころか、「どうして俺の首を絞めてこないんだ!」と憤るようになってしまう……。

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 そんな彼の優しさとユーモアの根源はどこにあるのか。本人にインタビューを行った。

『死にたい夜にかぎって』(爪切男/扶桑社)

■「柔よく剛を制す」という言葉を知り鉄拳制裁する父にエアガンで対抗

――お母さんが家を出ていったのは何歳ぐらいのときですか。

爪切男 2歳か3歳の頃ですね。育ててくれたのはオヤジとおばあちゃんと、あと中学生の頃に死んじゃったおじいちゃんで。オレが物事を大げさに言うのはおじいちゃんの影響です。おじいちゃんは「米兵を1000人殺した」と言い張っていたんですけど、所属していたのは保健部隊なんですよ。

――それで1000人はさすがに嘘でしょうね。あと、お父さんはアマレスのエリートだったそうで。

爪切男 「ロス五輪の銀メダリストのライバルだった」と言っていました。家にもトロフィーがむちゃくちゃ飾ってありましたけど、ウチの家系を考えると話を盛っている可能性もあります。

――そんな格闘技のエリートが息子を鉄拳制裁していたというのは、本当にシャレにならない話だと思いました。

爪切男 「隣の家が羨ましい」とか、何かを「羨ましい」と言うとすぐ殴られていましたね。「現状を良くする工夫もせずに簡単に羨ましいと思うな」と親父には教えられて。おかげさまで、大人になった今は「イヤだ」とか「辛い」とか、ネガティブなことは考えない人間になりました。世間的にキツイと言われるような仕事でも、その中で何かひとつ楽しいことを見つければ「実際やってみるとそうでもないな」って思っちゃうので。

幼い頃、父親に焼却炉に閉じ込められた影響で閉所恐怖症になった爪さん。新幹線でも通路側の席でないと動悸が激しくなるそうで、常に虎の覆面を携帯することで平静を保っている。

――その鉄拳制裁をしてくるお父さんに、エアガンを撃って対抗する話も壮絶でした。

爪切男 じいちゃんが中国好きで、「柔よく剛を制す」って言葉とか、『三国志』の「○○の計」みたいな話を小さい頃から知っていたんです。そうやって頭を働かせれば強いヤツにも勝てるはず……と考えたら、「やっぱり銃だな」と。僕、ふだんは武士道についてよく語ってるんですけど、銃のほうが好きなんですよ。効率的だから。

――(笑)。お父さんが『シティ・オブ・ゴッド』を見ると、エアガンで撃たれたトラウマが蘇る……っていう話がツボでした。

爪切男 『シティ・オブ・ゴッド』と『プライベート・ライアン』は、オレのことを思い出して見ていられないらしいです。辛すぎて(笑)。

爪さんにエアガンで撃たれた父親のトラウマ映画『シティ・オブ・ゴッド』。スラム街の子供が大人を銃で殺したりする壮絶なギャング映画だ。

――でも爪さんは、そんなお父さんのことを恨んでいなくて、むしろ本の中で感謝の気持ちを綴っているのがスゴいな……と。

爪切男 オヤジの鉄拳制裁に愛があったからだと思うんですよね。優しいだけの父親よりも、たまに殴って怒ってくるオヤジのほうが強い愛がある……ってことは実際あると思うんですよ。オレのオヤジの場合は、愛情のないパンチは一発もなかったと思うし、だから殴られるのも嫌じゃなかったです。あと、プロレスラーとか強い人に憧れがあったから、強いオヤジはカッコいいなと思っていました。強いと倒しがいもありますし。

■スペースローリングエルボーで借金取りを殺そうとした

――『死にたい夜にかぎって』の中に何度か出てきた「辛いことの中にも楽しいことは必ずある」というお父さんの言葉は、悲惨なエピソードも面白おかしく書いてしまう爪さんの文章に影響を与えているのかな……と感じました。

爪切男 その姿勢も父親とプロレスから教わったかなぁ。小学生の頃、家に来ていた借金取りをプロレスの技で殺そうとしたことがあったんですよ。その頃、テレビで武藤敬司が側転してからエルボーをする「スペースローリングエルボー」っていう技をやってて。それを喰らったアームレスリング世界チャンプのスコット・ノートンがのたうち回っていたんです。それを見て、「これだったら殺せる」と思って(笑)。学校で昼休みに練習を重ねて、「オレはスペースローリングエルボーで人を殺して少年院に行くかもしれない。ごめんなさい。今まで育ててくれてありがとう」っておばあちゃんに手紙も書きました。オヤジには何も書かなかったけど。それで借金取りに「死ねー!」って言ってエルボーをかましたんです。でも、普通に受け止められてボコられました(笑)。

プロレスにファンタジー的な要素があることを知っても、「それでもプロレスを嫌いになることはなく、今まで以上にプロレスといういかがわしい世界にのめり込みました」と爪さん。

■小松菜奈のような女の子に屋上で半年間ビンタされ続けた

――あと、高校生の頃にクラスでいちばん可愛かった女子に、「笑顔が虫の裏側に似ている」と言われたのも爪さんにはショッキングな体験だったそうですね。

爪切男 びっくりしましたね。うちは父親もおばあちゃんも、しんどいときこそ笑う家族だったんです。だからオレも頑張って、顔をクシャクシャにして笑うようにしていたんです。そうやって笑うことが自然にできるようになってきたな……と思っていた時期に、その一言で杭を打たれて。辛かったですね。彼女は映画『渇き。』の小松菜奈みたいな女の子で、みんなの前ではすげえ感じがいいのに、オレにはものすごい本気のビンタを喰らわせてきて。

――半年ほどの間、屋上に呼び出されてはビンタをされ続けた……という話ですね。彼女にそういう裏の一面があるということは、他のクラスメイトにはバレてなかったんですか?

爪切男 絶対バレていないです。あのコ、完璧でしたから。

――完璧を装っている人の暗部を引き出してしまう何かが、爪さんにあったんでしょうか?

爪切男 単純にヘラヘラしているのが嫌だったんじゃないですか? たぶん彼女は、自分の親の前でも演技しているコだから、オレが学校で楽しそうにしてんのがムカついたんだと思います。今も彼女は完璧な女性を演じつつ、不倫とかしてるんじゃないですかね。

(C) 2014「渇き。」製作委員会
2014年公開の映画『渇き。』。爪さんは高校時代、本作の小松菜奈のような女の子にビンタをされ続けていた。

――彼女とのその一件のあとは、うまく笑えなくなってしまったんですか?

爪切男 笑うことは笑うんですけど、なんか心に引っかかるものはありますよね。笑顔が虫の裏側って言われてますから(笑)。「しんどいことがあっても、思い切り笑えば何とかなる」と思って生きてきたので、「これからは辛いときどうしよう……」というのもあって。あの頃は人生でも一番辛かったかもしれないです。

――『死にたい夜にかぎって』を読むと、その後も女性に振り回される人生を送っていますが、女性には尊敬や憧れがありつつも、今もどこか恐怖も感じているわけですか。

爪切男 いまだにありますね。6年間付き合っていたアスカという女のコにも、「あなたはたぶん7割くらいしか女性のことを信じていないと思う」ってよく言われてて。でも彼女と別れた後、母と再会することができたので、女性との向き合い方も以前とは大きく変わったかもしれません。

■私は太陽。私が太陽ならお前は月。月は死ななくてはならない。お前を殺す。

――お母さんとの再会については、同人誌の『なし水』に詳しく書かれていますよね。そのときは、お母さん、おばあちゃんと歓喜の抱擁をしつつも、実はお母さんはバッグに出刃包丁を隠し持っていて、「母は僕がダメな息子だった時は出刃包丁で天誅を下し、婆ちゃんも殺し、自分も死ぬつもりだったのだと気付いた」と爪さんは書いていて。「いかにも爪さんのお母さんっぽいエピソード!」と思いました。

爪切男 そうですね。30年離れていても、あの人にはあの人なりの武士道があったわけで。でも、オレも仮に襲われたとしても、そう簡単にはやられなかったと思います。

30年ぶりに再会した母親からは、生まれて初めてのお年玉のほか、112枚の湿布をもらったそうだ。

――「私は太陽。私が太陽ならお前は月。月は死ななくてはならない。お前を殺す」というメールがお母さんから届いた……という話にも笑ってしまいました。

爪切男 そのメール、最初は「今日は月がきれいだね」「私は太陽。私が太陽ならお前は月」みたいなことが書いてあって、「なんか詩人みたいなことを言ってるなぁ」と思ってたんですよ。それで画面をスクロールしていったら、「お前を殺す」って。メールを見た電車の中でずっと笑ってました(笑)。あと、会ったときもいろいろ変だったんですよ。別れ際に「お前に見せたいものがある」と言われて、何かと思ったら携帯の画面を見せてきて、「この『DD北斗の拳』は面白いんだよ。『北斗の拳』のキャラクターが二頭身になっててさ、バイトとかするスピンオフ漫画だよ」って。30年ぶりに会った息子と、別れ際の会話が『DD北斗の拳』って、ほんとヤバいなって。「ダウンロードするまで許さない」と言われたんで、その場でダウンロードしました(笑)。

■彼女も自分も映画はフェリーニの『道』 マンガは『激烈バカ』が好きだった

 このような自らの生い立ちも綴った爪切男の初の著書『死にたい夜にかぎって』。同書の中盤以降は、6年間を共に暮らした女性・アスカさんとの思い出が中心となる。

 ネットのチャットで出会った爪さんとアスカさんは、2人とも映画はフェリーニの『道』、マンガは斉藤富士夫のギャグ漫画『激烈バカ』が好き。趣味もバッチリ合ったことで、2人は付き合い、同棲するようになった。しかしアスカさんはしだいに心の調子を崩していく。爪さんは文章の仕事で、アスカさんは音楽活動で身を立てたいと思っていたが、2人ともそこに本腰を入れることなく、傷を舐め合うような関係になってしまったという。

爪切男 ホント、傷の舐め合いでしたね。オレも文章のことで、やろうと思えばできることがあったはずなのに、アスカを言い訳に別の仕事をしていただけでしたから。「彼女のためにオレが働かなきゃ」と、やりたいことをしないのをアスカのせいにしていました。端から見たら「彼女のために頑張ってる彼氏さん」にも映るし、それに酔っていたところもあると思います。

――アスカさんも爪さんといることで、「今のまま変わらずにいられる」みたいな部分があったんでしょうか。

爪切男 本人は「まあ、一緒にいてムチャクチャ楽だったよ」と言っていましたね。金銭的な面で(笑)。アスカの借金も、オレが肩代わりしていましたから。アスカにも「悪いな」って気持ちがあったらしいですけど、「最後はやっぱり“楽”が勝つ」って言ってました。でもアスカにも、「こんな楽な状態で作る曲が、一体どこまで人に響くんだろう」という悩みはあったらしいです。

――爪さんと別れた後、彼女はインディーズでCDをリリースし、爪さんも文章の仕事で注目されはじめたんですよね。

爪切男 そう考えると、別れてよかったと思えますよね。どちらかが潰れていたら辛かったですけど、オレもアスカも頑張れてるから。2人で過ごした6年間はホントに時間の無駄遣いでしたけど、「すげえ無駄な時間に思えても、人生にとって必要な無駄遣いの時間だったな」と後から気づけました。

爪さんも参加し、2014年の同人誌即売会・文学フリマで発売された『なし水』。2017年に10万部を超えるヒットとなった『夫のちんぽが入らない』の著者・こだまさんは、同書の元になる話をここに寄稿していた。

■同棲中の彼女にたびたび首を絞められ、家にある刃物はすべて捨てた

――同棲していた時期、心に不調をきたしたアスカさんは爪さんの首を絞めたりと、壮絶な生活を送っていたようですね。

爪切男 本では面白おかしく書いていますけど、実際は怖かったですよ。最初、寝ているときに首を絞められたときは「幽霊かな?」と思ったんですよ。オレは昔から幽霊が好きで、母親がいなくてさみしい思いをしていたので、「可愛い女の幽霊でもとりついてくれたら、いつも一緒にいられるのになぁ」って憧れていました。それで何かに首を絞められる感触を感じて、「ああ、ようやく幽霊と出会えるぞ」と期待していたのに、目を開けたらアスカだったから。「ふざけんなよ!」って掌底入れました(笑)。アスカとは恵比寿の路上で殴り合ったこともありましたねぇ。

――そんな関係になっても彼女と別れずに生活できて、その時期のことを書籍として発表できたのは、やはり爪さんがお父さんから教わった「辛いことの中にも楽しいことは必ずある」「しんどいときこそ笑う」という姿勢のおかげなのかな……と本を読んでいて思いました。

爪切男 「首絞められるのがイヤだから別れよう」なんて言うの、かわいそうですからね。かといって両手縛って寝させるわけにもいかないし、「何とかできないかな」と思ってたんですよ。実際、刃物は全部捨てて、定規とかマッチとか、やりようによっては人を殺せる道具は全部捨てました。でもアスカはタバコを吸うから、ライターだけは持たせないといけなくて、「寝てる間に燃やされるんじゃないか」とそれだけは心配でした(笑)。

「女は花。男は花瓶」と女性を敬愛する爪さんが、もっとも愛する女性が小野真弓。年明けの瞬間は、今年一年の自分、親族、友人の無病息災を祈りながら「小野真弓」とつぶやく儀式を毎年行っているそう。なお爪さんの初の著書の発売日には、小野真弓も久々の写真集を発売するシンクロニシティが!

■どんなにヒドいことをする人でも「何かいいところがあるはず」と期待してしまう

――爪さんは辛そうな人を放っておけないタイプなんでしょうね。

爪切男 ヒドいことをする人でも、「こんな人でも何か1つは良いところがあるだろう」みたいな期待を持っちゃうんです。それがアスカの場合は「本当にすげえいい顔で笑う」って部分で。それはオレが「笑った顔が虫の裏側に似てる」と言われて、自信が持てていない部分だったんですよ。でも最初に会ったときは「ヤバい女だ」って思いましたよ。その頃の彼女は、自分の唾を男達に売った金でメシを食ってたんですから(笑)。でもホントにいい顔で笑うし、「作っている曲を聞かせて」って頼んだら、恥ずかしそうにモジモジするし。それでカワイイなと思って、自分から付き合ってほしいと頼んだんです。

――本の中では、出会い系サイトで知り合った車椅子の女性との初体験の話も書かれていますよね。彼女が打ち明けた話も、2人のやりとりも壮絶でした。爪さんはそうやって「自分よりも辛い思いをしている人がいる」と身をもって知ってきたからこそ、人に優しくできるのかなと思いました。

爪切男 自分と関わってきた人達が、辛い思いをしているとは思わないですけどね。それを決めるのはその人たち自身なので。オレは単純に、こんな自分とちゃんと接してくれる人に対して、興味があるだけだと思います。あと、どんな分野のことでも、上には上がいると思っているし、自分よりすごい人へのリスペクトは持っていますね。「プロレスの知識、すごいですね」とよく言われるんですけど、後楽園に行くと、テレビがモノクロの時代からプロレスを見ていて、今も年間100試合を見ているじいさんがいたりするんです。だから自分はちっぽけな存在だと常に思っています。その精神も、オヤジから教えてもらったかもしれないですね。オヤジはアマチュアレスリングのエリートでしたが、オリンピックには出られなかった人ですから。

爪さんの敬愛する武藤敬司のフィギュア。人生の大切なことは父親とプロレスから教わった。

――お父さんは息子に鉄拳制裁をしていても、人をリスペクトする精神は持っている人だったんですね。

爪切男 (笑)。持ってましたね。よくオヤジには「簡単に一番にはなれない。一番を目指すなら命をかけなければいけない」と言われていました。そんなオヤジも、当て逃げ事件起こして逮捕されてからは、パチンコ屋によくいる爺さんみたいな人になっちゃって。まぁ今のオヤジの方がオレは好きなんですけどね。

■余生はパグと一緒に幸せに過ごしたい

――本の中には、お父さんに焼却炉に閉じ込められて以降、閉所恐怖症になってしまった話もありました。それでもお父さんを恨んでいないのは本当にスゴいと思います。

爪切男 瞬間的にキレることはあっても、恨んでいる人は1人もいないかもしれないです。自分では特に意識をしたことはなかったですけど、付き合っていたアスカが「誰かを恨んで生きている人は嫌い」って言っていて。その言葉もなんか嬉しかったですね。今も嫌いな人はいないかなぁ。あ、でも、犬とか動物を虐待している人は嫌いだな。犬も動物も大事にしてほしいと思います。

――本の中でも「いつか飼いたい」って書いていましたよね。

爪切男 犬を飼うことが人生のゴールですね。飼うからには、「責任を持って育てられる環境を整えてから」と思っているので、ペット可の物件に引っ越してパグを飼いたいです。パグに「オレの飼い主はブサイクだなぁ」とか思われたいですね。それでオレも「お前の方がブサイクだろ!」とか言いながら頬ずりをして、パグの顔のしわや目の下の臭いニオイを嗅ぎたい。オレは匂いフェチなので。

パグを飼うことと、彼女を作ってケンタッキーを食べに行くこと。それが今の爪さんの夢。

――こうやって1冊の本を書き上げたことで、自分の中に何か変化はありましたか?

爪切男 一番長く付き合ったアスカとのことをまとめられてよかったです。当時は自分で正しいと思っていたことが、いろいろと間違っていたことも分かったし、生き別れの母親とも会うことができた。女性に関する因縁に一区切りついた感覚はありますね。だからこの先、女の人と付き合うことができるとしたら、どういう感じで付き合うのかなって、それがすごく楽しみです。クリスマスにケンタッキーを食べたりとか、ディズニーランド行ったりしてみたいですね。一度やったら二度としないかもしれないけど。

――ほかにこの先やりたいことはありますか?

爪切男 人生でしんどいときは、プロレスに救われて何とか生きてこられたので、プロレスに恩返しをしていきたいです。昔からずっと好きな武藤敬司さんのためなら、オレはもう歩けなくなってもいいので、自分の両膝の皿を匿名で寄付できますよ。武藤さんは気持ち悪いと言うでしょうけど。

取材・文=古澤誠一郎

爪切男(つめ・きりお)
1979年生まれ。派遣社員。ブログ『小野真弓と今年中にラウンドワンに行きたい』が人気。2014年、『夫のちんぽが入らない』の主婦こだまとともに同人誌即売会・文学フリマに参加し、『なし水』に寄稿した短編『鳳凰かあさん』がそこそこ話題に。現在、『日刊SPA!』で連載中。同連載を大幅に加筆・修正したうえで改題した本書『死にたい夜にかぎって』がデビュー作となる。