高良健吾が5股のダメ男役に! 伊坂幸太郎作品、初の連続ドラマ化『バイバイ、ブラックバード』豪華座談会

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更新日:2018/2/13

『バイバイ、ブラックバード』は、五股のダメ男とその相棒の怪物女が「さよなら」の行脚を繰り広げる連作短編だ。主演の高良健吾と女性役に初挑戦した城田優、監督の森義隆、そして原作者の伊坂幸太郎が、同作への思いを4人で初めて語り合った。

★― 第1話の完成映像を拝見したんですが、楽しくて切なくて驚きもあってちょっと怖くて、いろいろな感情が詰め込まれた作品に仕上がっていました。みなさんは、ご覧になっていかがでしたか?

伊坂● 第1話も面白いですけど、全部観ると、もっといいですよ。

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城田● 第1話はほんの入口ですね。最初は〈星野〉という五股をかけていた、まぁ言ってしまえばクズみたいな男と、〈繭美〉という怪物みたいな女が出てきて「なんだ、こいつら!?」って衝撃が大きいと思うんですが、回を重ねていくうちに彼らの人となりが分かってきて、不思議と愛おしくなってくる。

高良● 僕もそう思います。2、3、4、5、6話と進んでいくうちに、〈星野〉と〈繭美〉の関係には、根っこの部分にものすごく大切なことがあるんじゃないかと感じるようになる。全部観終わった時に、うまく言葉にできないんですが、「すごいものを見た」って気がしたんです。第1話を観て感じた印象は確実に裏切られると思います。

森● かといって、第1話がつまらないわけではもちろんなくて(笑)。連作ならではの、お話が積み重なっていくことで出てくる面白さは大事にしました。

五股男のキャスティング 男が女を演じたマジック

★― 高良さん演じる〈星野〉は、多額の借金を抱えた結果、2~3週間後に〈あのバス〉に乗って地獄に近いどこかへ連れ去られることが決まっている。そのお目付役として「グループ」から送り込まれたのが、城田さん演じる〈繭美〉。なんと五股をかけている〈星野〉が、〈繭美〉を伴って、付き合っていた5人の女性ひとりひとりにさよならを告げに行きます。森監督にとって本作が伊坂ワールドの初映像化ですが、どんな意識で臨まれましたか?

森● もともと僕は伊坂作品のファンだったんです。ただ今までは、伊坂ワールドとはちょっとタイプが違うものを作ってきたんですね。もっと血の気が多いものというか……。

伊坂● 『ひゃくはち』とかですよね。大好きな映画です。

森● なので『バイバイ、ブラックバード』のような寓話的で少し不条理感もある世界観を自分がどう撮れるかなと、不安というよりワクワクする気持ちがありました。意識したことといえば、出てくる人全員の個性を、敬意を持って見つめること。本作に限らず、伊坂さんの小説はキャラクターがすごく魅力的なので、全員の個性をとにかく尊重して撮っていけば、おのずと伊坂ワールドになっていくんじゃないかと思ったんです。

★― 〈星野〉は五股男なんですが、どこか憎めない存在です。

伊坂● 五股って一般的にはよくないことだし、〈星野〉はひどい男だなと思いながら最初は観ているんですけど、高良さんのお芝居を観ているうちに不思議と、ぜんぜん悪く見えなくなってくるんですよ。「一対一」の関係がたまたま同時に5つあるだけ、に見えてくるんですよね。

高良● ひとりひとりと真剣に向き合いますからね。〈星野〉はたぶん、今この瞬間をちゃんと生きている人だと思うんです。今の自分の気持ちに誠実に対処していった結果、五股になってしまったんじゃないかな。

森● キャスティングの時に思ったのが、五股って言葉だけ聞くとあまりにスキャンダラスなので、性欲が見えない人のほうがいいのかなって。仮に高良が五股ってワイドショーで報道されても、「たぶん何か理由があるんだろうな」って思わせる雰囲気を持っているじゃないですか。城田の場合はもっとシンプルに、性欲を感じてしまうけど(笑)。

城田● その通り! 万が一、俺が〈星野〉を演っていたら大変なことになっていたと思います。

伊坂● 僕はあまりキャラクターのイメージとか思い浮かべずに書いちゃうんですが、〈星野〉はもっとふわふわした人というイメージではあったんですね。でも、高良さんのお芝居を観て納得しました。要するに、〈星野〉って本当に真面目な人間なんですよね。

城田● それが滑稽で面白いなと思ったんですよ。真剣に喋っているんだけど、いやいやお前ちょっと、と。

伊坂● そうそう。第1話で苺狩りに行って「制限時間が30分なんておかしい!」って、受付の人に訴える。

高良● そのシーンは何回もやった記憶がありますね。監督からOKがなかなか出なくて。

森● でも、役作りがうまくなったと思いましたよ。高良とは『ひゃくはち』以来9年ぶりの現場だったんですが、当時は感性と勢いだけの役者で。今回は難しい役だし、どうなるかなと思っていたら、クランクインの時から「ああ、こう作ってきたか」と。僕の中ではしっくりいくものを見せてもらいました。

★― 一方の〈繭美〉は、傍若無人の乱暴者。こちらも役作りは大変だったんじゃないですか?

城田● めちゃくちゃ大変でしたね。なぜかというと、ワタクシ、女性を演じていまして(笑)。

森● 綺麗だなあって、撮りながら何回も思いましたよ。内面的な部分でも、役としては相当やりごたえがあったんじゃない?

城田● そうですね。繭美はマイ辞書を持ち歩いて「私の辞書にその言葉は無い!」って他人の価値観を撥ね付ける人だし、自分の中にいろんな答えを持っている人だから、誰かがあやふやなことを言ったらスパーンと斬ってしまえる。でも、他人の視点を受け入れて、潔く自分の考えを改める柔軟さもあるんですよ。要は、第5話で「女優女」と会ってから、〈星野〉に対する意識が変わる。その一点からすべてが巻き戻されて解釈し直される感覚は、自分で演じていた時もそうだし、できあがったものを観た時も面白かったですね。ただ、やっぱりどうしても拭えない不安がひとつだけあって、普通の人が見たらちゃんと女性に見えるんだろうか、と。

伊坂● 僕には最初から女性に見えたし美しいなって思いましたけど、「やっぱり男性だな」って感じる瞬間はある。逆にそれが良かったと思ったんですよ。城田さんのお芝居をずっと見ているうちに〈繭美〉が女性なのか男性なのか分からない、不思議な生き物に見えてくる。

森● あの役自体の幅として、両性具有っていう考え方もあるなって。もしかしたら性転換なのかもしれないっていうところまで含めていいと思っていたんですよ、僕の中では。

伊坂● 最後の最後、男同士の〝バディもの〟みたいになるじゃないですか。もし仮に〈繭美〉を女性に演じてもらったとしたら〝恋愛もの〟っぽくなっちゃうというか、読んでいる人はどこかで〈星野〉とのラブロマンス的な関係を期待してしまう。城田さんが演ってくれたおかげで、その部分はまったく抜きで、ただただ相棒を助けに行くみたいに見えるのが、僕としては本当に良かったです。

セリフはほぼ原作通り 一言一句、忠実に!

★― OLの廣瀬あかり。シングルマザーの霜月りさ子。元気娘の如月ユミ。病気の恐怖を抱えた神田那美子。トップ女優の有須睦子。〈星野〉と〈繭美〉が会いにゆく、5人の女性もみな個性的です。〈星野〉との思い出が語られる過程で、それぞれの胸の内にある悲しみがあぶり出され、ミステリー的な展開も発動しますね。

伊坂● 〈星野〉と〈繭美〉の存在って、ちょっとファンタジーっぽいんです。みんながそうだとコントみたいになっちゃうんだけど、女優さんがすごくリアルでいいお芝居をしているから、全体としてバランスが取れていますね。

城田● 毎回出てくる女の人たちが「五者五様」な個性の持ち主で、その人たちとの化学反応によって、僕たちの関係もまた変わる。うまく言えないんですけど、すごく人間らしくというか、だんだん温かくなっていくんですよ。……やっぱり、最後まで観てほしい!

★― 撮影現場はどんな雰囲気だったんですか?

城田● 過去最高にキツい現場でした。セリフ量が尋常じゃなかったし、毎日必ず長ゼリフがあったんです。〈繭美〉はまくしたてるというか、相手をぶわーっと言葉で威圧する役なので、プレッシャーもハンパなかった。

森● 今回はジャンルでいうと会話劇。「セリフは一言一句、間違えるな。語尾も絶対変えるな。ワンシーンは必ず頭からおしりまで通します」と全員に伝えたうえで現場に入ってもらったんですね。

高良● 僕は今まで15年間俳優をやらせてもらってきて、一言一句、間違えずにやろうと思ったことって一度もなくて。無意識のうちにちょっとセリフを飛ばしたり、語尾を言い易いように変えてもOKになることが多かったんですね。でも、今回はとにかくセリフを守った。他にも、たとえば手元がぶらぶらするのが気になって、無意識のうちにポケットに手を入れちゃうことがあったんですが、それも絶対にしなかった。「無意識だから」で許されていた部分は、今回一切なくしました。自分にとって新しいし難しいアプローチを、20代最後のこの作品でできたことはすごく良かったと思っています。

城田● 寝ても覚めてもずっと台本と向き合う毎日でした。あんなボロボロになるまで台本を読み込んだことって今までない。最後のほうは〈繭美〉のように、終わった自分のセリフをマジックで消していった(笑)。

高良● 覚えやすいセリフと覚えにくいセリフってあって、『バイバイ、ブラックバード』はすごく覚えにくいセリフが多かったんです。

伊坂● 僕の本って、映像化の話が結構くるんですけど、実は映像には向いてないんじゃないかなって思うことが多いんですね。一番大きな理由は、やっぱりセリフなんですよ。僕が小説で書いているのは読むことを前提に書いたセリフだから、そのまま喋ると意外にスベったりする。僕のセリフを中途半端に大事にするあまり、映画としてうまくいってないなって思う時があったりしたんですね。でも今回は、そういう違和感が一切なかった。

城田● 

高良● 

森● おぉ〜!

伊坂● セリフやモノローグを、あえて口語には変えず、ほぼ原作のまま使っているじゃないですか。文章を読むみたいに喋ってくれている。ああ、これじゃないとダメなんだっていう、僕の作品を映像化するベストの解答を見た気がしました。

森● この作品を解釈した時に、本当に細かい部分のディテールが人生のヒントになっている感じを僕は受けて、それは口語に崩してしまうと伝わらないものになっていくんじゃないかなって思ったんです。これを役者にとって喋り易い、口語的な言葉に寄せていってしまうと、現実に着地しすぎて、宝物のように感じられるはずの言葉が薄まってしまう。伊坂さんのセリフを守ることで、この作品の持っている寓話的な、現実から1~2センチ浮いているみたいな浮遊感がキープできるんじゃないかという直感もあったんですよね。だから「セリフは一言一句守れ!」と。

高良● 自分にセリフを寄せるんじゃなくて、セリフのほうに自分たちを寄せていく感覚でしたね。そうすることで、伊坂さんが書かれた『バイバイ、ブラックバード』の世界観を表現しようと。

伊坂● そっか、そういう感覚で演ってくださっていたんですね。

全6話を通して浮かび上がらせたもの

★― 原作通り1話につき1人、そして最後の1話でこの物語にふさわしいピリオドが描かれる連作短編という形式は、連続ドラマという形式と相性がぴったりのように感じます。

伊坂● 「WOWOWで連続ドラマ化」っていうのは、それこそベストなのかなと。2時間の映画では短すぎるし、じゃあ地上波の連続ドラマはどうかっていうと、そんなに向いてないと思うんですよね。

森● 地上波の場合だと、答えばっかり探して観ちゃいますからね。〈星野〉を連れて行っちゃう「あのバス」って何?とか。

伊坂● そこを知りたい人には「ごめんね」としか言いようがない(笑)。小説を書いた時も、そこを詳しく描く気持ちはまったくありませんでした。

森● でも、正直そこって気にならないじゃないですか。伊坂さんの作品が面白いのは、答えがやってくるのを待つとかじゃなくて、その過程にある一行一行が楽しいからだと思うんです。僕たちもそういうドラマにしたかった。

城田● 連続ドラマの枠を超えていますよね。「映画×6本」みたいな感覚。僕は普段、自分が出た作品に対しては「観たい人が勝手に観ればいい」みたいなスタンスなんですね。でも『バイバイ~』は「ぜひ観てほしい」って感情になるんですよ。クランクインの前に監督から「城田と高良の代表作になるものを作るぜ」って檄をいただいていて、本当にそうなったし。もはや自分が出ているとか関係なく「作品としてめちゃくちゃ面白いから観てよ!」って。

森● 最初に高良が言っていた「言葉にしづらいけどすごいもの」って、僕もね、撮り終わった後に「ある」と思ったんですよ。これは伊坂作品のすごいところでもあるんですけど、きめ細かな積み重ねで、最後に浮き上がってくるものが確かに何かある。それが何なのかは、僕もいまだに言語化できていないんです。ただ、僕たちも全6話のドラマを通して、何かを浮かび上がらせることができたなっていう実感はあります。

城田● 僕個人としては、この作品を観終えると「人間っていいな」って感覚になるんですよ。

伊坂● ありがたいですね。僕もすごくいい作品になったと思うんですよ。僕の本が好きな人は観たほうがいいよって思うし、「がっかりするってことはまずないよ」と言いたいです。

城田● それ、やらせていただいた立場からしたら、最高の言葉です。

伊坂● 原作をまったく知らない人が観たとしても「すごいものを観ちゃった」と思う気がするんですよ。だから、今日は同じことばっかり言っていますけど、とにかく観てほしい!

高良● 何を話しても、そうなっちゃいますよね(笑)。

取材・文:吉田大助 写真:干川 修

 

伊坂幸太郎
いさか・こうたろう●1971年、千葉県出身。2000年に『オーデュボンの祈り』で新潮ミステリー倶楽部賞を受賞しデビュー。08年『ゴールデンスランバー』で本屋大賞を受賞。近刊は『ホワイトラビット』『クリスマスを探偵と』など。

森義隆
もり・よしたか●1979年生まれ、埼玉県出身。2008年に高校野球を題材に採った『ひゃくはち』で映画監督デビュー。同作で、新藤兼人賞銀賞、ヨコハマ映画祭新人監督賞を受賞。12年公開の監督作『宇宙兄弟』が大ヒット。その他の監督作に『聖の青春』など。

高良健吾
こうら・けんご●1987年生まれ、熊本県出身。2005年『ごくせん』でドラマデビュー、06年『ハリヨの夏』で映画デビュー。主な映画主演作に『白夜行』『横道世之介』『悼む人』『月と雷』など。森監督作品への出演は『ひゃくはち』(08年)以来、2度目となる。
ヘアメイク:竹下フミ(竹下本舗) スタイリング:渡辺慎也 (Koa Hole inc) 衣装協力:ブルゾン 5万9000円、パンツ 2万9000円(ともに mando/STUDIO FABWORK TEL03-6438-9575)、ポロシャツ 1万4000円(KAIKO/STUDIO FABWORK TEL03-6438-9575) その他スタイリスト私物 ※価格は税別

城田優
しろた・ゆう●1985年生まれ、東京都出身。2003年、ミュージカル『美少女戦士セーラームーン』で俳優デビュー。10年、文化庁芸術祭「演劇部門」新人賞ほか受賞歴多数。2月より、ミュージカル『ブロードウェイと銃弾』に出演。映画の公開待機作に『羊と鋼の森』(6月予定)。
ヘアメイク:竹下フミ(竹下本舗) スタイリング:黒田 領 衣装協力:ジャケット5万6000円、Tシャツ2万9000円、パンツ3万8000円(すべてザ ヴィリジアン TEL03-5447-2100) その他スタイリスト私物 ※価格は税別

ドラマ放送情報

ドラマ『バイバイ、ブラックバード』
ドラマ『バイバイ、ブラックバード』

『連続ドラマW バイバイ、ブラックバード』(全6話)
2月17日(土)より、毎週土曜22:00〜WOWOWにて放送 *第1話無料放送
監督:森 義隆 脚本:鈴木謙一 出演:高良健吾、城田 優/[登場順]石橋杏奈、板谷由夏、前田敦子、臼田あさ美、関 めぐみ/松村雄基、丸山智己、岡村いずみ、斎藤洋介、あがた森魚、戸塚祥太(A.B.C-Z 友情出演)
多額の借金を抱えた五股男・星野(高良)は、「あのバス」に乗ってどこか遠くへ連れていかれることが決まっていた。組織から見張り役として送り込まれたのは、怪物女の繭美(城田)。自分を待たないよう、付き合っていた5人の女たちにお別れを告げたい……。全5人で1話につき1人。では、最終話の第6話で描かれるものは?