舞台『そして僕は途方に暮れる』三浦大輔インタビュー 「ドラマチックよりリアリティ」を追求

エンタメ

2018/2/12

『裏切りの街』『何者』、そしてこの春、公開される衝撃作『娼年』と、近年は映画監督としても脚光を浴びる三浦大輔さん。鋭い感性とリアルを追求した演出で、注目を集め続けてきた演劇界の鬼才の、4年ぶりの書き下ろしとなる新作『そして僕は途方に暮れる』(主演:藤ヶ谷太輔)。自分のなかに、ずっと抱え持っていたというテーマに、大劇場で挑む、その境地を訊いた。

人は、人との関係性のなかで生きている。それが浮き彫りになればいいなと

――すべての人間関係を断ち切り、街の片隅で呆然と立ちすくむ、平凡な青年の逃亡記という構想は、いつ頃から立てていらしたのですか?

「いつからだっただろうと思ってしまうくらい、以前からずっと自分のなかにあったものでした。“逃げる”というテーマは『裏切りの街』とやや被っている感もあるのですが、男女関係に終始した同作での“逃げる”を、もっと普遍的に、そのつながりを友人、家族、先輩後輩にまで広げて描き、人は人との関係性のなかで生きているものだということが浮き彫りになればいいなと思いました」

――“逃げる”というところに、三浦さんの意識が向かうのはなぜなのでしょう?

「僕自身が逃げ体質なので(笑)。でも、後戻りするのが怖くて、逃げ切れないんです。もし、このまま逃げ切っちゃったら、どうなるのか――こうした想像のもとに脚本は書いています。“逃げる”という行為は刹那的だけれど、その繰り返しで、すべての人間関係を失っていったら、この世界でひとりになってしまったという実感の湧く瞬間はあるだろうか。それを描きたかったのと同時に、そこで自分がどうなるのかということを想像してみたかったんです」

――怒られたくない、話し合うのが面倒くさいという理由から相手との関係の修復を試みず、つい逃げ続けていってしまう主人公・菅原裕一の気持ちはどのように追っていかれたのでしょうか。

「ドラマチックより、リアリティを求めました。根拠のないところで心を動かされたり、つかみどころのないものが現実だったり、人だったりする――そのあやふやさを出せればと。逃げて、逃げて、菅原がどこへいくのか。サスペンスとまではいかないですけれど、そこはひとつ見る意味がある。そして、逃げ切って、ひとりになった末に彼が見る世界も。一方で、“逃げられている人”の気持ちも。そちらの視点でまた、観る方のなかに別の価値観が生まれたらいいですね」

今、一番興味があるのは、人の曖昧さ

――“菅原裕一”という主人公の名前は、過去の作品にも登場してきたものですね。

「僕のオリジナル作品の主人公は、すべて“菅原裕一”なんです。言ってしまうと、考えるのがめんどくさいからなんですが(笑)。恋人の里美も、母の智子も、友人の今井も、父の浩二も。みんな。でも、それを自分自身でどこか面白がっている節があって。“●代目・菅原裕一”みたいな(笑)。だいたい同じようなダメなやつです」

――ダメな人を主人公にするのはなぜなのでしょう?

「多分、そこにしか興味がないんでしょうね。ダメというか、今、一番興味があるのは、露悪的でもなく、偽善的でもない、人の曖昧さなんですよ。人って掴みどころのないものなので、それを善だったり、悪だったりに決めつけることに、僕は抵抗感があって。捉え方は、もっとぼんやりしたものでいいんじゃないかと。だから僕の芝居には、わかりやすい善人も悪人も出てこない。そこはいつも気をつけているところなんです。とっかかりとして、ダメなところが浮き彫りになり、話が進んでいくというものは多いんですけど」

――どういうふうに、この舞台を観てもらいたいですか?

「おそらく“こいつ、どうしようもないやつだな”と(笑)いう感情をもって観られると思うのですが、客観的に観たとき、自分もこういう状況はあるな、ちょっとボタンを掛け違えただけで、こんなふうになることは十分ありうるな、という共感を覚えていただけたら、うれしいですね。逃亡劇として、エンターテインメント的な要素もあるので、この主人公の成り行きを面白がっていただければと思います。逃げている人、逃げられている人の気持ちをぜひ体感してほしいですね」

取材・文:河村道子 写真:干川 修

舞台『そして僕は途方に暮れる』
作・演出/三浦大輔
出演/藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、江口のりこ、三村和敬、米村亮太朗、筒井真理子、板尾創路
【東京公演】3月6日(火)~4月1日(日) Bunkamuraシアターコクーン
【大阪公演】4月9日(月)~15日(日) 森ノ宮ピロティホール

 自堕落な生活を送っているフリーターの菅原裕一(藤ヶ谷太輔)。あるきっかけで、恋人・鈴木里美(前田敦子)、親友・今井伸二(中尾明慶)、バイト先の先輩、学生時代の後輩、姉・香、さらには母・智子を芋づる式に裏切り、その関係を修復しようともせず、あらゆる人間関係から逃げ続けることになっていく。もう後戻りはできない。そこで味わう、世界でひとりぼっちになってしまったという孤独の感慨。だが、偶然にも、家族から逃げていった父・浩二(板尾創路)に出会い、裕一のなかで何かが変わっていく——。近年は映画監督としても脚光を浴びる演劇界の鬼才、4年ぶりの書き下ろし公演。公式サイトはこちら