自分なら、どんな世界を想像するか…「ショートショート」と「ふしぎな言葉」で空想を楽しむには?【太田忠司 × 田丸雅智 × 秦佐和子】

文芸・カルチャー

公開日:2018/12/2

 あなたなら、名画からどのような物語を想像するだろうか。『ショートショート美術館 名作絵画の光と闇』(文藝春秋)は、太田忠司さんと田丸雅智さんが10枚の絵をお題として競作に挑んだショートショート集。この発売を記念して、11月18日(日)、トークイベント「ショートショートとふしぎな言葉をみんなで楽しもう!」が行われた。第1部では、太田さんと田丸さんが対談でこの本の誕生秘話を披露。第2部では声優の秦佐和子さんも合流し、「ふしぎな言葉錬成機」で生まれた「ふしぎな言葉」を元として、会場一体となって、空想を楽しむ、笑いの絶えないイベントとなった。

■小説の世界は“パイの奪い合い”ではなく、“パイの広げ合い”

田丸雅智氏(以下、田丸):そもそも『ショートショート美術館 名作絵画の光と闇』の企画は、2015年に太田さんから「競作をやりませんか」とお声がけいただいたのがはじまりでした。

太田忠司氏(以下、太田):1981年〜85年にかけて『ショートショートランド』というショートショート専門誌があって、その中の企画に「対決シリーズ」というのがあったんです。ひとつのテーマについてふたりの作家がショートショートを競作するもので、自分もいつかこんな形で誰かと競作ができたらと思っていました。

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田丸:元々、太田さんと初めてお会いしたのは、僕がまだアマチュアだった2010年頃。太田さんが出演していたトークショーに僕が観客として行った時のことです。トークショーの後に少しだけお話しする機会があって「ショートショートを書いているアマチュアです」と言ったら、太田さんが「君も早くこっち側においでよ」って言ってくださったんですよね。それは今でも本当に忘れられないし、あんなにうれしかった言葉はなくて。今回、大ベテランの太田さんと競作をさせていただけるなんてこんな光栄なことはないと思っています。

太田:申し訳ないことに言った側は忘れてしまっているのですが(笑)。僕は今でもそういう人がいたら、同じように言うと思います。この世界は“パイの奪い合い”じゃないんです。“パイの広げ合い”なんです。誰かがいいものを書いて注目されると周りにも書く機会が生まれるから、若い人たちにはどんどん来てほしいなと思っています。

■“違和感”を感じる世界と自分との差異に物語ができる

田丸:今回、競作をするにあたって、お題となる絵画を10枚選びました。まず僕と太田さんでそれぞれ10枚ずつの絵を選んで、それを交換してお互いの選んだ絵の中から5枚ずつを選んで、10枚に絞るという方法で選んだのですが、自分が選んだ絵を渡したはずなのに、選ばれた絵を見て、まったくノープランだったものもありました。太田さんは振り返ってみて、着想に苦労した絵はありましたか。

太田:俵屋宗達の「風神雷神図屏風」は難しかったですね。絵にもうストーリーが描かれていますからね。そこからまた自分なりのストーリーを作るっていうのがすごく難しくて、この絵が挿絵になるようなものを書こうと思いました。

田丸:太田さんが「風神雷神」を元に書かれた「世紀の一戦」はその手があったかと思わされました。プロレスの話ですからね。思わず笑っちゃうくらいコミカルな作品です。ちなみに僕は「風神雷神コンテスト」という作品で、ミス風神・ミス雷神コンテストがあるっていう話を書きました。他の作品で苦労されたものはありましたか?

太田:正直いって、もう見た瞬間にお話ができていた絵を渡したっていう感じですね。

田丸:え、ずるいじゃないですか(笑)。

太田:絵自体にアイデアがある作品では、そのアイデアを元にして自分はどうやってひねるかという発想をしました。僕の着想の原点は違和感。何かおかしいな、変だなって思った時に、変だと思う景色と変だなと思っている自分との差異、その間に物語があると思っているんですよね。そこをうまく結び付けられたら物語になりそうだなと。

 たとえば、ゴッホの「夜のカフェテラス」では、「語らい」という作品を書いたんですが、この絵を見た時に、人がいないんですよね。なんで見えないんだろう。ということは、見えない人なのかもしれない…というところから発想していきました。

田丸:違和感というのは確かにそうかもしれません。僕は「夜のカフェテラス」では、「灯りのカフェ」という作品で、灯りを摘んでお茶にできるカフェがあるというのを書きました。この絵って黄色がすごく際立っていて、いつまでも見てられるような光を感じるんですよね。輝いているお茶がティーポットで入れられているイメージを思い浮かべて、違和感かつ類似のイメージから着想していきました。

■創作は誰にでもできる!「ふしぎな言葉錬成機」を使ってみよう

田丸:創作っていうと、難しいもののように感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、空想とか妄想って誰でもやっていいものですし、創作も誰でもやっていいものなんですよね。普段、僕はショートショートの書き方講座を全国各地でやっているんですが、そのメソッドがショートショートガーデンのサイトに掲載されています(https://short-short.garden/P-lecture)。「ふしぎな言葉錬成機」では、実際にふしぎな言葉が作れるので、ふしぎな言葉を元に少し想像を膨らませてみましょう。

●ふしぎな言葉1 :「締め切り間際の観覧車」

秦佐和子氏(以下、秦):いろんな作家先生が観覧車でぐるぐる回っているイメージが浮かびますね。

太田:缶詰部屋を観覧車にしてぐるぐる回して降ろさせない。で、書き終わった人だけ降りることができる。いつまでも降りない観覧車がある。そこが伝説の観覧車。大作家が名作を書いているはずなんだけど、未だに何年も降りてこない。廃園になったボロボロの遊園地を出版社が買い取って、そこの観覧車を動かしているんですよ。

:じゃあ観覧車だけじゃなくて、コーヒーカップで回っている作家さんもいるんでしょうか。

田丸:なるほど。作家以外にも画家とかミュージシャンとかもいそうですよね。思わぬ名作が生まれるかもしれないですよね。

●ふしぎな言葉2 :「ちゃんこの具にある跳び箱」

太田:どこかの地方に跳び箱っていう食材があるんでしょうね。「跳び箱ってなんだよ」「跳び箱は跳び箱だよ。白くってさ…」「はんぺんみたいな?」「はんぺんじゃないんだよ」みたいな話をしたりして…。

:跳び箱って名前だから飛ぶんじゃないですかね。魚とかいれると、跳び箱で飛んで出て行ってしまったり。ときどき飛べないのがいて、上に乗っちゃっているのがいたり…。

田丸:ちゃんこっていうと、おすもうさんが食べるイメージがあるじゃないですか。お腹が角ばってる力士がいて、「なんだあれ?」って思っていると、実は未消化の跳び箱が入っていたっていうのもあるかもしれないですね。

 こんな風に、繰り返しになりますが、空想とか妄想って誰でもやっていいものですし、創作も誰でもやっていいものなんですよ。創作に親しみながら、また、創作しなくても、創作物に親しんでもらえたらと思っています。

 空想や妄想ほど、楽しいものはない。太田さんと田丸さんの競作を楽しむだけでなく、「自分なら、どんな世界を想像するか…」と一緒になって物語を考えてみると、ますます楽しめそう。さあ、あなたも太田さんと田丸さんの競作本を読みながら、想像の世界を広げてみよう! 新たな傑作を生み出すのは、もしかしたら、あなたなのかもしれない。

文=アサトーミナミ