夢枕獏「たった一駅のあいだでも楽しむことができる」【日経 星新一賞審査員インタビュー】

文芸・カルチャー

2019/6/29

 理系的発想力で、読者の心だけでなく現実の科学をも刺激する物語を――。今年で7回目の開催となる日経「星新一賞」で、審査員をつとめる作家の夢枕獏さん。十代の頃から星新一作品を読み漁り、「星新一の未読の新刊が手元にあるという喜びは、何ものにもかえがたかった」という夢枕さんに、その魅力と応募作品に期待するものをうかがった。

――星新一作品に読み漁るほどハマった、その魅力を教えてください。

夢枕獏(以下、夢枕) 星さんは、作品を何度も何度も手直しし続けた方なんですよ。たとえば、「目覚ましが鳴った」という描写ひとつとっても、どんな時計なのか、スマホなのかで時代性が出るでしょう。そういったものを星さんはできる限り排除しようとされていた。時代に左右されず、いつまでも色あせない普遍性を作品にもたせようとされていたんですね。だから文章も特別こるわけではなく、さらさらと目で追っていけるほど、易しい。それでいて、いつの時代の人が読んでも新しい感覚を呼び覚まされる独自性があるんです。僕はやはり「ボッコちゃん」が好きで、1958年に発表された作品だけど、いま読んでも楽しい。ボッコちゃんという女性ロボットと、彼女を開発したバーのマスターやお客たちとの会話のやりとりが好きですね。

――星さんがつくりあげた「ショートショート」というジャンルの面白さは、どういうところにあるのでしょう。

夢枕 やはり、いつでも読めていつでもやめることができる点ですね。たとえば電車に乗るとき、たった一駅のあいだでも楽しむことができる。通勤時間が5分でも30分でも関係なく、本を開けばすぐ物語に入ることができて、駅に着いて閉じるときには満足した気持ちになれますから。

――応募される作品には、どんなものを期待しますか。

夢枕 星新一にとらわれないってことですね。星さんの真似をしたような作品は読めばわかりますし、やはり評価が厳しくなる。自分独自の面白さを追求していただきたいと思います。ただ、矛盾するようですが、星新一のように書こうとしても、実は書けないんです。どんな文章を書いても、自分らしさというのは滲み出てしまうものだから。それこそが個性です。そして個性というのは、書けば書くほどあらわになってくるもの。最初は真似でもいいからとにかくたくさん書いてみて、その中からこれぞというものを応募作として送っていただきたいと思います。

 星さんが生涯に書いた作品は1000以上。「星さんらしさ」もまた、数多の作品の積み重ねで生み出されたものだ。ぜひとも、習作を重ねて自分らしい珠玉の一編を応募してみてほしい。

取材・文=立花もも

星新一賞公式サイト