夢枕獏「たった一駅のあいだでも楽しむことができる」【日経 星新一賞審査員インタビュー】
理系的発想力で、読者の心だけでなく現実の科学をも刺激する物語を――。今年で7回目の開催となる日経「星新一賞」で、審査員をつとめる作家の夢枕獏さん。十代の頃から星新一作品を読み漁り、「星新一の未読の新刊が手元にあるという喜びは、何ものにもかえがたかった」という夢枕さんに、その魅力と応募作品に期待するものをうかがった。
――星新一作品に読み漁るほどハマった、その魅力を教えてください。
夢枕獏(以下、夢枕) 星さんは、作品を何度も何度も手直しし続けた方なんですよ。たとえば、「目覚ましが鳴った」という描写ひとつとっても、どんな時計なのか、スマホなのかで時代性が出るでしょう。そういったものを星さんはできる限り排除しようとされていた。時代に左右されず、いつまでも色あせない普遍性を作品にもたせようとされていたんですね。だから文章も特別こるわけではなく、さらさらと目で追っていけるほど、易しい。それでいて、いつの時代の人が読んでも新しい感覚を呼び覚まされる独自性があるんです。僕はやはり「ボッコちゃん」が好きで、1958年に発表された作品だけど、いま読んでも楽しい…