若林拓也「“役者”というものが持つ、無限大の可能性に向かって走り続けていきたい」

あの人と本の話 and more

2019/8/8

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、この夏、話題の社会派詐欺エンターテインメント、ドラマ『スカム』で、オレオレ詐欺に手を染めた若者・剛力を演じている若林拓也さん。連続ドラマ出演2作目にしてストーリーの重要な役を演じる役者としての意気込み、そして自身の核がつくられたという、海外で過ごした10代の頃のお話を伺った。

若林拓也さん
若林拓也
わかばやし・たくや●1997年、アメリカ・カリフォルニア州生まれ。俳優、モデル。2016年より『MEN’S NON-NO』の専属モデルとして活躍。ショートWEBムービー『玉城ティナは夢想する』、ソフトバンクCM、ドラマ『新しい王様』などに出演。ドラマ『初めて恋をした日に読む話』の木佐役で話題に。

「夏になると、晴海ふ頭沖で開催される東京湾大華火祭をモチーフにした、この本の一編が映像とともに浮かんでくるんです」

 それは、若林さんがおすすめ本として選んでくれた一冊、石田衣良『4TEEN【フォーティーン】』のなかの「大華火の夜に」という一編。中学2年生の男子4人組が花火を“S席”で見るために忍び込んだ工場にいたのは理由ありの先客。その人物との交流が綴られていく切ない物語だ。

「世代もまったく違う、面識のない人に対し、まるでひとりの友人のように寄り添う4人のやさしさが、空にあがる花火の描写とともに、心に残像を結んでいくお話です。立ち入り禁止の場所に潜り込んだり、夏休みに、してはいけないことをしている子どもたちの感じもすごく良くて」

「ごく普通の中学2年生の日常を描いているのに、どこかトリップするような要素も含まれているところにワクワクする」。この一冊から感じられるというそれは、若林さんの14歳の頃の記憶とも重なっている。10代前半を過ごしたイギリスでの日々は、もちろん“日常”ではあったけれど、日本から遠く離れた異国の地は、多感な時期の自身にとって、“トリップ”でもあった。

「イギリスでは、この4人に似たような遊び方をしていました。どんどん戸外へと出かけていって。友だちの家にみんなで泊まり、友だちの両親が寝たあと、みんなでこっそり夜の公園に行ったりもしました(笑)。僕はインターナショナルスクールに通っていたので、友だちが多国籍で、親友はイスラエルの子だった。ツルんでいた仲間には、スイスやサウジアラビアから来ていた子もいたし、現地のイギリスの子たちも。会話は英語でしていたのですが、イントネーションがそれぞれ驚くほど異なっていたように、その国の人なりの気質のようなものも各々顕著に表れていた。心のやわらかな人生の時期、そうしたいろんな人と関われたこと、いろんな考え方を知ることができた経験は僕の核になっています」

 それは俳優としてデビューした今、“役”に活かされているに違いない。現在、放映中の連続ドラマ『スカム』で演じているのは、オレオレ詐欺に手を染めた、キレやすい若者・剛力。

「役者になりたいという志を持ったときから、日本の闇を描き出す社会派の作品で演じてみたいという想いを抱いていました。自分自身では絶対経験しないようなことをしてしまう人物を。連続ドラマ2作目の出演作にして、そうした役をいただき、僕は本当に幸せ者です。高齢者に詐欺を働く剛力を演じるにあたっては、その喋り方や佇まいから役づくりをしていきました。彼は絶対にしてはいけないことをしている。けれどそうした行動をとらざるを得なかった人間の生き方にも思いを巡らせながら」

 社会派ではあるけれど、エンターテインメントでもある本作は、主演の杉野遥亮を中心とした“チーム男子”の面も楽しむことができる。

「共演者の方々ともすごく距離が近くなった、心から“楽しい”と思える撮影現場でした。そして僕にとって“すべてが吸収”の場だった。先輩方の芝居を見て、もっともっと技量を磨き、引き出しを多くしていかなければ、という目標を明確に心に刻むことができました」

 ドラマも佳境を迎え、ストーリーはどんどん加速していく。そしてキレ役・剛力はどんどんキレていく……。

「ある人物を追いかけ回したり、ちょっと過激な喧嘩のシーンがあったり。けれど殴りながら、剛力のなかにある痛みを感じたんですよね。そこで痛みを感じるということが、剛力という人物の芯にあるものだと気づきました。そして、犯罪者を演じたことによって、日本社会の闇というものを肌で感じることができた。本作は、10年前に世間を騒がせた事件がモチーフになっていますが、いくら時間が経過しても、そうしたことが起きた社会を忘れてはいけないなと」

 エンターテインメントは、楽しさとともにメッセージも提示する。過去にあった不祥事や不幸を“繰り返すな”という警告を秘めながら。そしてそれを体現していくのが役者という仕事だ。

「本当にその通りです。役者という仕事は無限大の可能性を秘めている。そこに向かって、これからも走り続けていきたいと思います」

 ドラマ「スカム」はMBSで毎週日曜深夜、TBSで毎週火曜日深夜放送中。

(取材・文:河村道子 写真:山口宏之)

 

ドラマ『スカム』

ドラマ『スカム』

原案:鈴木大介(『老人喰い』筑摩書房)演出:小林勇貴 出演:杉野遥亮、前野朋哉、山本舞香、戸塚純貴、福山翔大、水間ロン、若林拓也ほか MBS毎日曜24:50~、TBS毎火曜25:28〜放送
●2009年、リーマンショックによる失職で、オレオレ詐欺に手を染めることになった若者たち。その顛末を描く社会派詐欺エンターテインメント。
(c)スカム製作委員会・MBS