新海誠×醍醐虎汰朗×森七菜『小説 天気の子』刊行記念スペシャルトークショー開催! 創作秘話や現場の裏話も語られたトークの内容とは……?

文芸・カルチャー

公開日:2019/9/11

 ついに観客動員900万人を超えた新海誠監督の最新作『天気の子』。9月7日(土)に開催された『小説 天気の子』刊行記念スペシャルトークショーに訪れたのは、抽選で選ばれたファン約100名。東北や九州からわざわざこの日のためにやってきた人も。

 新海誠監督と、メインキャストを務めた醍醐虎汰朗さん、森七菜さんの3人が登壇した同イベントに、ダ・ヴィンチニュースもお邪魔させていただきました。和やかに盛り上がったイベント内容をレポートします!

小説の執筆秘話と、アフレコ現場の裏話

――映画『天気の子』は興行収入120億円を突破し、観客動員も900万人を超えたとか。新海監督ご自身が執筆された『小説 天気の子』も初版50万部という異例のスタートを切りながら、発売5日で重版決定、2週間で60万部を突破するという勢いで、今年度最高の文庫売り上げとなっています。映画も小説もまちがいなく今年一番の話題作となりましたが、お気持ちはいかがですか?

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新海 誠(以下、新海) 皆さんにご覧いただいたおかげなので本当にありがたいんですが、『君の名は。』が幸運にもものすごくヒットしたので、KADOKAWAや東宝の見込みはもう少し上をめざしているんじゃないかなと思っていて……(笑)。今いただいている数字で僕が喜んでいいのかという気持ちはずっとあって。自分の仕事を100%果たせたのか、次なる課題はなにか、など、数字を聞くたびに思うんですよね。とはいえ、こうしたイベントに参加するたび数字が大きくなっていっていることはもちろん嬉しいですね。お二人はいかがですか?

醍醐虎汰朗(以下、醍醐) 映画には出演しましたけど、小説に関わったわけではないので、僕はイチ読者として読ませていただきました。僕、活字が苦手で、ふだんは全然、小説を読まないんですよ。でも、スラスラ読めたのは初めてでしたし、キャラクターの心情が深く書かれていて「あのときこう思っていたんだ」って発見がありましたし、映画を観てから読むのはもちろんですが、小説を読んでから観るとまた違う感じ方ができるんじゃないかなと思いました。

森 七菜(以下、森) 私は、怖かったです。新海さんには、言葉にできないことはないんじゃないかって思ったりして。「まるで」が出てきたときの楽しみが半端ないんですよね。次に何がくるの⁉って。

新海 比喩が続きますからね。まるで光の水たまりのように、みたいな。

醍醐 僕、メモってきましたもん。新海さんの頭のなかはどうなっているんだろうって思わされた文章を。

――小説では、主役の帆高とヒロインの陽菜はもちろんですが、須賀と夏美の細かい心情も描かれていました。セリフだけで進行する脚本とはまた書き方が変わってくると思うんですが、小説におけるキャラクター設定は、どのようにされているんですか?

 小説を書くにあたって、キャラクター設定を改めて考えるわけではないんです。いちばん最初に脚本が完成して、そこからビデオコンテという仮の絵と仮の声をあてた映画の設計図を作り、それができてから絵を描く作業に入ります。その絵を大勢のスタッフと一緒に描いている最中に、ぼくはときどき日曜日は小説を書く、みたいなスタイルだったので、小説を書く段階では、キャラクターもストーリーも決まっていました。

 でも、どういう文章にしようかというのは、ずいぶんと迷いました。とくに陽菜と帆高が「天気で稼ごう!」と晴れ女ビジネスをたちあげるあたりは、映画では音楽と絵の力で乗り切っているところがあるので、文章でどう書けばいいのだろう、と。帆高の主観では「陽菜さんが祈ったら晴れた」と書くしかない。陽菜の主観に変えても「私が祈ったら空が晴れた」と書くしかない。さんざん考えた末、あそこでたくさん出てくるコスプレイヤーや競馬好きのおじさん、園児といった、「陽菜に“晴れ”を依頼する人」たちの視点で書いてみようと思いました。彼らにまず、晴れ女の力を疑わせよう。でも目の前で陽菜が祈ったら晴れる。「俺だって最初は信じてなかったけど、お守りだってみんな買うじゃない?」みたいなところから入れば、文章の力だけでも、読者が“晴れ女の実在する小説世界”に自然と入っていってくれるかな、と。

 ただ、この場面だけいろんな人の視点が入ってくるのではバランスが悪いから、帆高だけではなく、須賀や夏美の語りも入れて、全体に複数の視点人物を登場させようと決めました。

――アフレコを聞いてから書くことも多かったと思うんですが、書いているうちにキャラクターが声に引っ張られる、みたいなことはなかったんですか?

新海 小説を書き始める段階で、帆高と陽菜の声は決まっていたので、最初から二人の声のイメージで書いていましたね。ただ、脚本を書きあげたあとにもらったRADWIMPSの歌の歌詞や、アフレコをする二人の態度から、教えてもらうことがたくさんあったんです。脚本に書いたセリフや行動に込められた意味や、思いの深さを。だから、映画よりももうちょっと、二人とも全力で走っている感じが出ていると思います。

小説の名ゼリフを、醍醐&森がファンの前で再現!

 和やかな雰囲気のなかで進んだトークイベントは、お待ちかね、醍醐さんと森さんによりセリフ再現に。まずは、アフレコ現場で気合を入れるため、二人がいつもやっていたという「どこ見てんのよ!」「どこも見てねーよ!」の掛け合いに会場は歓喜に包まれた。いわく、森さんが急にセリフを仕掛け、醍醐さんが応えることで、キャラクターが“入って”いることを確認するのだとか。

 しっかり帆高と陽菜に“なった”ところで、お二人がそれぞれ気に入っているセリフを紹介。まずは携帯にメモしてきたという醍醐さんは「どうせだったら皆さんにここでしか聞けないものを聞いていただきたいなと思ったのと、これ言ってくれたらすごいかわいいだろうなと思って」と、小説にしか描かれていない陽菜のセリフをセレクト。

「名付けて――ええと、ごま油香る豆苗ポテチャーハン、あーんど、ばりばり食感チキンサラダですっ!」

 新海さんのリクエストで、続く帆高のセリフも入れて、「あ! ねぎねぎ!」までの一連の流れを(森さんが噛んでしまうハプニングがありつつも)完全に再現。会場は拍手に包まれた。

 続いて森さんがお気に入りの場面を口にし、手元の文庫で該当箇所を探し始めると、会場から「199ページの4行目!」と声があがる。会場にあたたかな一体感が生まれたところで、醍醐さんが小説版のモノローグを再現する。それは帆高と陽菜と凪が、3人でホテルの一室に泊まる夜のシーン。

〈陽菜さんからは僕と同じシャンプーの香りがして、僕はそれだけでなんだか誇らしい気持ちになれてしまっている。〉

 映画にはない文章を、二人がどう声にしたのか想像しながら、参加できなかったファンの方々も小説を楽しんでみてほしい。

読者からの質問に、意外な事実判明⁉

 そしてイベントの後半は、集まったお客さんからの質問に、目の前で新海さんが答えてくださるスペシャルな質問コーナー。質問者の目を見ながら、誠実に回答する新海さんの姿が印象的でした。そのQ &Aのごく一部をここにご紹介します。

Q キャラクターの名前は、どのようにつけられていますか?

新海 あまり深く考えていないことが多いですが、帆高は島の子なので、高く帆をはって遠くまで行きたい男の子、というイメージでつけました。あと僕、男の子の主人公の名前で好きな響きがあって「た」や「か」が多いんですよ。『言の葉の庭』は「たかお」だったし『君の名は。』は「たき」。『秒速5センチメートル』は「たかき」ですよね。陽菜は、おひさまのあたる場所。夏美は、夏休み映画の美人キャラということで。

醍醐 ええーーーー!!!(観客席もどよめく)

Q こういう表現をしたい、こういうセリフを言わせたい、という監督の意図に反して、主人公が本当はこう言いたいんじゃないかというのを感じたときは、どちらを優先していますか。

新海 登場人物が勝手に動き始めちゃうって、作家の方が言うことがありますよね。まるで人格を持ったかのように動き出して、予定していたことと違う方向に物語が転がってしまう、と。僕はあんまりそういう経験がないんですよ。映画制作って、小説やマンガ、歌と違ってあんまりライブ感がないんです。自分から湧きあがってきたものが、そのままキャラクターに生かせるわけではない。集団作業ですし、2時間のなかでパズルのようにきれいにパーツが組み合わさっていないと、なかなか成立しないので、自分の気持ちをはみ出てキャラクターが動き出しちゃう瞬間があったとしても、もしかしたら僕は、映画として整合性がつくように引き戻すほうに頭が働いてしまうのかもしれないです。

 でも、行動は変わらないけど、セリフが変わることはあります。具体例が浮かばないのですが……帆高ってよく叫ぶじゃないですか。日本映画ってよく叫ぶ、と揶揄されがちなので、あんまり彼に叫ばせると作品としてうまくいかないかなと思っていたんですけど、でもビデオコンテを描きながら彼の声をあてていると、どうしてもここで叫ばないと彼の感情がおさまらない、というところがある。突き抜けるような感情がそこまでの流れで組み立てられてきているし、RADWIMPSの音楽に負けないようにするためにはここで叫ばせなきゃいけない、と、言葉やトーンが変わっていくことはありました。

 

 お三方が、観客とときどき言葉をかわしあう距離の近さで、和気あいあいとした雰囲気のなかで幕を閉じた同イベント。小説をまだ読んでいない人もぜひ、映画をより深く味わうためにも手にとってみてほしい。

取材・文=立花もも 写真=内海裕之