人生は“太巻き”みたい!?『生徒諸君!』と並ぶヒット作が約30年ぶりに帰ってきた!『Let’s豪徳寺! SECOND』 庄司陽子先生インタビュー

マンガ

更新日:2021/1/17

 大ヒット作『生徒諸君!』シリーズの作者、庄司陽子先生。彼女の描いたもうひとつの名作、『Let’s豪徳寺!』が、完結から約30年の年を経て、『Let’s豪徳寺! SECOND』(庄司陽子/双葉社)として帰ってきた!

Let's豪徳寺! SECOND
Let's豪徳寺! SECOND

『Let’s豪徳寺!』では、桁外れのお金持ちである豪徳寺家の娘たち、美姫・舞姫・咲姫が、型破りの恋を繰り広げてきた。そして『Let’s豪徳寺! SECOND』は、美姫の長女で、大学生になった姫子が主人公。母たちに負けず劣らず恋多き娘に成長した姫子は、2021年1月に発売される第2巻でも、幼馴染や大学教授、IT社長やミュージシャンなど、周囲の男性を振り回し、時に振り回されて、愛を学んでゆくのだが……。

 次々と巻き起こる恋の騒動のアイディアは、どのように生み出されているのだろう? 庄司先生が、今、描きたいマンガとは? お話をうかがった。

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読み切りマンガは、酸いも甘いも巻き込んだ「太巻き」のような人生の一部

──数ある作品の中で、『Let’s豪徳寺!』の続編を描いてみようと思われたきっかけは何でしょう?

庄司陽子(以下、庄司) 編集部の方から「描いてみないか」って言われたんですよ。私は『Let’s豪徳寺!』で描き終えたつもりでいたんだけど、考えてみれば、人生って「太巻き」みたいなものなんですよね。桜でんぶが恋愛やセックスで、玉子が赤ちゃん、きょうだいやいろんな人との関係も入っていて、それをまとめる海苔が家族。酸いも甘いもぜんぶ巻き込んで、一本になっているんですよ。

 読み切りのマンガは、キャラクターの太巻きみたいな人生の一部を切ったところでしかないけれど、私の中で、キャラクターは引き続き生きている。だから、その「続いている」キャラクターの人生について考えるのは、すごく楽しいことなんですよ。それは、私のマンガ論にも通ずることです。どんな読み切りの主人公にも、背景にはかならずおじいさまやおばあさま、戦争を知っている人たちがいて、主人公の人格を形成している、というね。

──『Let’s豪徳寺!』に登場するキャラクターの中でも、成長した姫子を主人公に選ばれたのはなぜですか?

庄司 『Let’s豪徳寺! SECOND』の1巻は、大奥様の13回忌からはじまるので、年齢的にちょうどいいなと思ったんです。姫子は、父親の愛に飢えているというか、ファザコンに近いところがあるんですよね。「愛を探そう」という目的意識で恋愛遍歴を重ね、その手応えは確かにエクスタシーという形で得られはしたけれど、なにか空洞が残っている。この先の展開は、姫子が「愛」にたどり着くまでの旅路です。

──『Let’s豪徳寺!』をお描きになっていた約30年前と、『Let’s豪徳寺! SECOND』を描かれている現在では、先生のお気持ちは違いますか?

庄司 かなり違いますね。『Let’s豪徳寺!』は、純粋に……単純に、と言うべきかな、楽しんで描いていました。だけど、『Let’s豪徳寺! SECOND』は、すごく真面目に描いています。完結から30年経っていますからね。私だって一応、大人になるのよ(笑)。

 反対に「変わらないな」と感じたのは、私とキャラクターの好奇心が、みんな強いままだったこと。その部分には、自分を反映しているんですね。そのおかげで、私も30年のあいだにはいろんな体験をしてきました。いま話すと、今後の展開のネタバレになるので言いませんが、変な人に言い寄られたこともあるしねえ……(笑)。そういう経験すべてが、作品に生きてくるんです。

──作品のアイディアは、どういうときに生まれてくるのでしょう?

庄司 それがね、突然降りてくるのよ。あわててメモを探しますよ(笑)。豪徳寺ならこんなことがあってもおもしろいんじゃないか、この一家はどんなふうに対処するんだろうって、想像しちゃうんですね。私、あそこまでお金持ちになったことがないから、想像するしかないんですけど(笑)。そうやって思いついたら、じゃあメインのキャラクターはこの子にしよう、前回のエンディングとこんなふうに重ねよう、とお話を引き継いでいく描き方をしています。

マンガ家になることは、見ているだけの“夢”ではなく、具体的な“現実”だった

──『Let’s豪徳寺!』に引き続き、『Let’s豪徳寺! SECOND』も、登場する女性陣のさまざまな恋愛を読めることが魅力のひとつですね。

庄司 恋愛とひとくちに言っても、いろんなところに惹かれる人がいますからね。手に惹かれる人もいれば、声に惹かれる人もいる。この子にはこんな恋、こんな相手というストーリーは、キャラクターが生んでくれます。この世にいない子を想像しているのではなく、自分の身近にいそうな子、いてもいい子を想像していますから、リアリティが出てくるんじゃないかな。そういう描き方をしているので、ファンタジーは描けませんね。地に足のついたマンガを描きたいんです。

──「マンガを描こう」と思われたきっかけはあったのでしょうか?

庄司 小さいころから、ひたすら人物の絵を描いていました。白い紙と引き換えに、描いた絵を人にあげていたんです。まだ白い紙が貴重な時代でね、裏の白いカレンダーの紙なんかを手に入れると、すっごく喜んじゃって。下敷きにもびっしり絵を描いて、先生に「クレンザーで洗ってこい!」って言われたこともありましたね(笑)。教科書の隅にもマンガが描き込んであったし、そうなるとテストの裏も白く見えてくるものだから、そこにも描いちゃう。これもやっぱり、あとで先生に怒られましたよ。でも、そのころは、マンガ家を職業にしようとは思っていなかったんです。

 マンガが自分の天職だと感じたのは、中学2年生のときでした。里中満智子さんが、16歳でデビューされて、「マンガ家って16歳でもなれるんだ!」と衝撃を受けたんですよ。その日を境に、私の中で「マンガ家になること」は、ただ見ているだけの“夢”ではなく、具体的な“現実”になったんです。それから、マンガ家になるための努力を山ほどしてきました。

──長くマンガをお描きになっていて、たとえば「この先の展開はどうしよう」などと、ストーリー展開が行き詰まることなどはないのですか?

庄司 そうですね……『Let’s豪徳寺! SECOND』で言えば、今展開している姫子のお話の、次の、次の子のお話がまとまっちゃったら、次は誰のお話にしようかということくらいは悩みます。けっこう先の展開ですから、ずっとマンガについて考えていることになりますね。そうでなくても、寝ているとき以外は、常にマンガのことを考えています。

 マンガの描き方やストーリーの運び方は、小説や映画に着想を得ることが多いんです。20代から40代までは、映画のカメラワークをコマ割りに使えないかと一日に2本ビデオを見たり、一日一冊本を読んだり、睡眠時間を犠牲にして自分なりの努力を続けました。連載をしながら一日一冊本を読むって、すっごく苦しいことなんですよ。当時は、3時間眠れたらいいほうだったかな。けれど、そのおかげで、なんでも描けるようになりました。日々の積み重ねって、大切ですね。

──息抜きの方法などがあれば、教えてください。

庄司 最近、散歩をはじめました。とにかく運動をしない人なので、裏の公園を一周するとだいたい2000歩になりますから、まずはそこからはじめています。以前は陶芸や書もやっていましたが、最近はもっぱらワンちゃんに癒されていますね。

──いろいろ挑戦なさっているのですね。そのような好奇心が、マンガのアイディアにつながるのでしょうか。

庄司 好奇心というか、すごくミーハーなんですよ。近ごろは、羽生結弦くんや錦織圭くんを見たいから、WOWOWやスカパー!に入って、テレビをつけっ放しにして寝ています。海外の試合だと、時差があるからずっとは見られないでしょう? つけっ放しにしておけば、夜中にトイレに起きたときなんかに、少しでも見られるかもしれないと思って(笑)。そうでもしないと、なにかを見落とした感じがして、自分で納得がいかないらしいんですよ。たとえ錦織圭が負けたとしても、WOWOWで別の試合の中継は続いている。その結果が知りたいんだと思いますね。

人生は「なんでもありあり」。明るいマンガで、ストレスを解消してほしい

──『Let’s豪徳寺!』シリーズは、豪徳寺家という家族を中心にしたお話です。家族とは、どのようなものだと思われますか?

庄司 家族って、情けでできているようなものですよね。まず、男と女がいて、「恋愛」をします。すると、恋愛の「愛」から「愛情」が生まれて、それが「情愛」に変化する。そして最後に、「情け」が残るといった感じでしょうか。

 大人になってくると、親を客観視できるようになりますから、親を親だと思わなくなるんですよ。母親も、ただの年を取った女の人として、その人の持っている価値観を観察できるようになるんです。母親だけでなく、私には姉が3人いるのですが、私を含めた4人の姉妹も、全員別の人間です。生き方がぜんぜん違うんですよ。そのことを意識して、家族だけは、最後までおたがいの味方でいなくちゃね。

──気になる展開が続く『Let’s豪徳寺! SECOND』ですが、今後、どんな作品にしていきたいと思われますか?

庄司 やっぱり、家族の集合体ですね。家族という太巻きが3つ、4つあって、それをまたひと回り大きい豪徳寺家が包んでいるというような、大太巻きです。「やっぱり豪徳寺だよね」と感じられるようなお話にしたいですね。

──『Let’s豪徳寺! SECOND』は、どんな人に読んでもらいたいと思われますか?

庄司 20代後半の人かな。一回くらいは失恋の経験もあって、次に踏み出す勇気が持てるかどうか、と思っているような人に読んでもらえたら、「いいんだ、やっちゃえ!」という気持ちになれると思います。マンガの上では、「人生はなんでもあり」ですよね。本当は、自分たちの人生だって、「なんでもありあり」でいいんです。そうする勇気さえあれば、この先も生きていけますよ。

 2020年はコロナの影響でなんとなく暗くなりがちだったから、今は明るいものを描きたいですね。人生70年として、生きているうちに一度は災難に遭うそうですよ。それが戦争だったという方もいらっしゃいますし、私たちにとってはコロナ禍なのかもしれません。だからこそ、明るいマンガを読んで「バカだなあ」って笑ったり、共感したり、どんな形でもいいから、ストレスを解消してほしい。そうすれば、乗り越えられない試練はありませんからね。

取材・文=三田ゆき