インパルス・板倉俊之「『桃太郎』って疑問だらけじゃないですか?」童話モチーフの最新小説で描きたかったこと《インタビュー》
公開日:2021/2/10
ドワンゴのオリジナルブランドである「IIV(トゥーファイブ)」から、初の紙書籍が発売されることになった。それを手掛けるのは、人気芸人であり小説家としての顔も持つ板倉俊之さん。これまでにハードボイルドな作品を発表してきた板倉さんの最新作は、なんと「童話」がモチーフ。一体どんな作品になっているのか、板倉さんにお話を伺った。
疑問を補完したかった
誰もが知る童話が新たな発想で生まれ変わった。作者は芸人、そして小説家としても活躍する板倉俊之さんだ。
板倉さんの小説家デビューは2009年のこと。「射殺許可法」という法案が制定された日本を舞台にした『トリガー』を刊行し、話題を集めた。以降、コンスタントに作品を発表し、今年1月、満を持して5作目の小説を上梓した。それが『鬼の御伽』だ。本作には、板倉さんがオリジナル要素を加えた「桃太郎」と「泣いた赤鬼」の2編が、それぞれ「パーフェクト太郎」「新訳 泣いた赤鬼」と名を変え収録されている。
「『パーフェクト太郎』はテレビ番組の企画で思いついた物語だったんです。そもそも、『桃太郎』って疑問だらけじゃないですか? 犬や猿をお供にするくらいなら、狼と熊のほうが強いですし。どうして鬼が存在するのかも解明されませんよね。そういう引っかかるところをすべて補完した物語を書いたらどうなるんだろう、と思ったのが出発点です。それを朗読劇で発表したことがあったんですけど、そのタイミングで『書籍を出しませんか?』とお声がけいただいて。それなら手元にある『パーフェクト太郎』を本にしようと思ったんです。ただ、それだけでは分量が足りない。そこでもう1編、『新訳 泣いた赤鬼』も書き下ろすことになりました」
板倉さんがアレンジした2編は、どちらもスピード感溢れるアクションと、鬼や人間の背負う業が描かれる。「パーフェクト太郎」の鬼ヶ島での死闘は手に汗握る迫力、「新訳 泣いた赤鬼」では妖魔と人間が繰り広げるバトルに想像力が掻き立てられる。
「アクションシーンが好きなので、ついつい書き込んでしまいました。小説のなかでバトルが起きたとき、どうして勝てたのか論理的に知りたくなってしまうんです。劣勢だった主人公が根性だけで立ち上がって勝利を収めるような展開を読むと、どうしても納得できなくて。だから今回は、勝利までの道筋をきちんと説明しました。書いていてニヤニヤしましたし、気持ちよかったですね」
小説には夢がある
また、どちらの物語にもどんでん返しが用意されている。最後まで読んだときにあっと驚く仕掛けが待ち受けているのだ。
「小説家の道尾秀介さんを一番尊敬しているんです。どの作品を読んでも『騙されたー!』ってなるじゃないですか。さすがにもうひっくり返せないだろうと思っていても、必ず驚かせてくれる。その影響もあるのか、やっぱりサプライズがある作品に惹かれるんです。『鬼の御伽』もそれは意識しましたし、これまで書いてきた作品には多少なりともそういう仕掛けを入れてきたつもりですね」
今後も自分のペースで小説は書いていきたいという。
「小説ってすごく夢があるんですよ。真っ白な原稿に文字を書いていくだけで、それを読んだ人がいろんな感情になったり、景色を見たりする。それゆえに、読み手に依存するところもあって、読み手がこちらに委ねてくれているのか、あるいは戦いを挑んでくるのかで読後感も変わる。それも含めて夢があるし、面白いですよね。でも……決して甘くない世界です。『トリガー』も『蟻地獄』もコミカライズされたことで広まりましたけど、小説界は修羅の道ですね。それでも、今後も書き続けるつもりです。今回は浅田先生がイラストを描いてくださることになって、執筆中はそれに励まされました。楽しみだなぁって。想像以上にカッコよく仕上げてくださったし。これからもそういう喜びがあるかもしれませんから、いろんな題材の作品を書いていきたいと思います」
板倉俊之
いたくら・としゆき●1978年、埼玉県生まれ。98年に堤下敦さんとお笑いコンビ「インパルス」を結成する。2009年には『トリガー』で小説家デビュー。同作はコミカライズもされた。以降、『蟻地獄』『機動戦士ガンダム ブレイジングシャドウ』『月の炎』と意欲的に小説を発表。
取材・文:五十嵐 大 写真:川口宗道
イラスト:浅田弘幸
ヘアメイク:小林慶人(Tron Tokyo inc.)