キーワードは、妄想力。初のアルバムで、気づいたこと――和氣あず未『超革命的恋する日常』インタビュー

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公開日:2021/2/17

和氣あず未

 声優・和氣あず未が自身名義の音楽活動を開始したのは、2020年1月。残念ながら、ライブを伴う活動は現時点ではできていないものの、順調に3枚のシングルを発表。そのどれもが、音楽的な充実感を感じさせる内容で、「次はどのような楽曲を届けてくれるのか?」が楽しみな存在だ。そして完成した1stアルバム『超革命的恋する日常』(2月17日リリース)。往年の国内外のポップスに造詣がある方なら思わずのめりこんでしまうような、音楽的な仕掛けが楽しい1枚だが、何よりこのアルバムに心惹かれてしまうのは、「和氣あず未のクリエイティブ」が全編において存分に発揮されているから。『超革命的恋する日常』を語る上で外せないキーワードは、「妄想力」。想像する力をもって楽曲の世界を豊かに広げて、聴き手を巻き込んでいく「和氣あず未にしか歌えない楽曲」たちに、ぜひ触れてみてほしい。これは、ハマります。

基本的に何か想像をしたり、擬似体験をすることが好き

――1stアルバムの『超革命的恋する日常』、音楽的にあまりにも素晴らしいので、ずっとリピートしながら聴かせてもらってます。

和氣:わあ~、嬉しい(笑)。皆さまの協力が詰まったアルバムです。

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――和氣さん自身は、このアルバムにどんな手応えを感じてますか。

和氣:2ndシングルの“Hurry Love”のときに、「恋愛系の曲が好きです」といろんな場所で言っていたので、今回のアルバムにもそういう楽曲がメインで入っているんですけど、トキメキから、不安になって心がザワザワするような気持ちまで、いろんなジャンルの恋愛を描いた楽曲が詰まっています。曲を通して、自分自身も知らなかったことがあるんだなって、勉強になった1枚になりました。

――2ndシングルのリリース時期に、自分が経験したことがないようなことも曲に入っていて擬似体験ができる、という話をしていたじゃないですか。それって、想像力を使って曲の世界を表現する、ということでもあると思うんですけど、今回のアルバムの楽曲でも同様の体験をしたんですか。

和氣:わたしが普段からずっと妄想しているような内容の曲は、のほうにけっこう詰まっていて――。

――話をさえぎって申し訳ないんですけど、「妄想」って何ですか?

和氣:(笑)わたし、よく妄想するんです。とにかく、妄想することが好きで。もう、たぶん毎日ですけど、仕事に行く前とかも妄想しています。それは恋愛だけじゃなくて、いろんな妄想です。宝くじが当たったら、みたいな妄想から、恋愛なら「本当の運命の出会い」みたいなことを考えることが好きで。アルバムの中だと、わたしの妄想してきた恋愛が“素直になれたら”や“恋じゃないならなんなんだ”あたりの曲と近かったりするんですが、今までに妄想したことがなかった失恋や不安になる気持ちも、アルバムの中に入っていて。それは新しい挑戦でしたし、今まであまり想像していなかったことを表現していくのは、自分の中で難しい面もありました。

――仕事に行く前に妄想をするんですか。

和氣:えっ、皆さんはしないんですか(笑)。

――あまりしない(笑)。

和氣:そうなんですか(笑)。わたしは中学生の頃――小学校くらいかな? ひとり遊びが好きで、家にいてもひとりで「ごっこ遊び」をしてました。何か物を使って遊ぶというよりも、妄想の中で、たとえばここは無人島で、ここにはお魚がいて――みたいな妄想をすることが、昔から趣味でした。中学のときも、「高校生になったらこういう恋愛するのかな」みたいな妄想をも毎日していました(笑)。なので、基本的に何か想像をしたり、擬似体験をすることが好きなんだと思います。

――妄想をすることは、和氣さんに何をもたらしてくれてたんですか。

和氣:それが、何ももたらしてはくれてないんですよね(笑)。ほんとにもう、自己満足です。ただ、恋愛系の曲をいただいたときに、歌詞を見ただけでなんとなく自分の中で映像が作れてしまうので、今までいろいろ妄想をしてきた分、想像力につながっていたらいいな、と思います。

――まさに、楽曲の世界を和氣さんの想像力で作っているのがこのアルバムだと思いますし、これって完全に「和氣あず未のクリエイティブ」だと思うんです。「曲ごとに求められる表現を探し当てるのがすごく上手い人なんだな」って思いながらアルバムを聴いてたんですけど、そのルーツには妄想があった、と。

和氣:そうですね(笑)。歌っているのは和氣あず未ではあるんですけど、どちらかといえば得意なのはポジティブで、「今、ときめいてます」みたいな曲で。でも、せっかく今回新しく10曲も録り下ろさせていただいて、今までのわたしっぽくない曲もあったりするんですけど、わたしのために用意していただいた曲なので、わたしが妄想しながら世界を作っていかないと、と思っていました。曲の主人公を作って、その子の世界を肉づけしていくイメージです。歌うのは自分だけど、もうひとりの主人公を頭の中で作って、その子のイメージで歌う感じです。声優業をやっていて、何かを演じることが好きなので、そういう歌い方になっているんだと思います。

――和氣さんが自身の名義で音楽活動を始めてすでに1年経っているわけですけど、初めて出すアルバムはどんな作品になるべきだと考えていたんですか。

和氣:今回のアルバムに入る10曲が全部新曲ということで、最初は不安もありました。すでに12曲も曲をいただいているのに、新しい10曲を録ったときに全部同じ感じになってしまってはつまらないですし、だからこそ1曲1曲を大切に歌わないといけないなって。和氣あず未らしくありながら、新しい発見もあるようなアルバムになればいいなって思っていました。

――タイトルの『超革命的恋する日常』も、だいぶインパクトがありますけども。勝手な想像なんですけど、このコンセプトでアルバム1枚を作るとなると、普通に照れるんじゃないですか(笑)。

和氣:照れはあります(笑)。照れも、恥ずかしさもあるとは思うんですけど、わたしはそれよりも楽しさを伝えたい気持ちがありました。ライブで人前で歌うのは照れてしまうかもしれないけど、わたしのイメージの中では、「とにかく皆さんにこの気持ちを早く伝えたい」という思いがあったので、照れより楽しさのほうが勝っていたかもしれないです。失恋の曲は全然楽しさはなかったですけど(笑)、お芝居をするような感じで、心情を乗せていきました。

――すでに12曲歌っていて、さらに今回10曲新録する中で、特に新鮮に感じた楽曲はありますか。

和氣:“Tuesday”です。これは、すごく不安になりました(笑)。歌詞も不安を感じさせる内容ではあるんですけど、わたし自身は妄想の中でも経験してこなかったような男女の擦れ違いが描かれていて、難しかったです。わたしが妄想してきたのはトキメキのような内容が多かったですけど、大人の恋愛観みたいなものはわたしの頭の中にはなかったので、今後はこういう大人っぽい曲もどんどん歌っていきたいなって思いました。

和氣あず未

感謝を伝えたいです。皆さんからもらってばかりなので、お返ししていきたい

――以前、和氣さんの音楽活動について話を聞かせてもらったときに、難問を出したんです。「和氣あず未の音楽とは?」を言葉にすると――。

和氣:難問ですね(笑)。

――(笑)そのときに「初々しい」っていう言葉が返ってきたんです。自分の音楽を表現するときに「初々しい」という言葉を使う人は初めてだったので、それが印象的でした。

和氣:恥ずかしい(笑)。今回は、今までに12曲もいただいているので、初々しいなんて言っていられないなあ、とは思うんですけど(笑)、初々しい部分も幅としては残しておきたい気持ちもあります。今回のアルバムでは、大人っぽいダークな気持ちを描いた曲も歌わせていただいているので、初々しさと大人っぽさ、両方があったらいいな、と思います。1stシングルや2ndシングルの頃は、これまでに自分が演じたキャラクターの声で歌ってしまったりすることも多くて、「自分の歌い方ってなんだろう?」と悩んでいました。その後レコーディングを重ねていくうちに、「自分だったらこう表現したいな」と考えたり、頭の中で主人公を作ってその人の歌にしよう、という考え方が3rdシングルやこのアルバムを作る中で決まっていったので、ブレがなくなってきたかな、と思います。

――和氣さんが感じている歌い手としての自身の強みってなんだと思いますか? 聴いている側としては、「この人、明確に強みあるなあ」と思いますけど。

和氣:そう言っていただけて、すごく嬉しいです。でも、自分の強みって何なんだろう? 聴いている人に、「理解できないわ」って思われたくないんです。一緒にときめいてほしいし、わたしが曲の中で擬似体験をしているように、皆さんにもほんとにドキドキしてほしいなって思っていて。皆さんにトキメキを伝えられればいいなあ、と思いながら歌っているので、共感してもらえる部分が強みになっていったらいいな、と思います。

――ではここで改めて、「和氣あず未の音楽とは?」をお尋ねしたいです。

和氣:「この曲と言えば和氣あず未だな」って思われるようになりたいです。わたしのために書き下ろしていただいた曲たちを、和氣あず未にしか歌えないなって思ってもらいたい気持ちがあるので、そういう音楽を作っていきたいです。

――初々しいに加えて、ここまでの音楽活動の中で何が身についたと思いますか。

和氣:初々しいプラス、主張していきたいです。「これは自分の曲だぞ」って主張したいです。初々しいときは、まだ迷いがあったと思いますし、今も歌うことに関して、「この曲はどうやって歌おうかな」って悩むことはありますけど、大きくブレることもないと思うので、もっと主張していきたいです。いただいている曲数がとにかく多くて、必然的に成長せざるを得ないところがありますし、毎回のレコーディングの現場で成長させていただいているなって感じています。

――音楽活動を始める前と今とで、和氣さん自身のどこが変わったと思いますか。

和氣:音楽の楽しさです。わたし、昔から歌がすごく苦手で、音楽の授業もほんとにイヤでした。目立ちたくないし、人前で歌うのも恥ずかしいと思っていて。声優になってから、人前で歌う機会もあったんですけど、歌うとしてもキャラクターとして歌うから、「和氣あず未を隠せる」と思っていたんです。ステージに立っているのは和氣あず未でも、観てくださる方はキャラクターとして見てくれるから、自分自身は隠せているし大丈夫!と思っていました。だから、アーティストデビューして、昨年の1月に皆さんの前で歌ったときは、もうド緊張でした。まわりに他のメンバーやキャラクターもいないし、何に頼っていけばいいんだろう?って不安に感じていたんですけど、スタッフさんや応援してくださっている方。まわりの方がいい方ばかりで。だから、音楽に対して、別の人格で歌わなくても楽しいなって思えるようになりました。1stシングルのリリースイベントのときに、たくさんの人が観に来てくださったことで、音楽が楽しいなって思うようになったと思います。

――今は自分を隠したいとは思わない、と。

和氣:まあ、わたし自身は恥ずかしがり屋さんなので(笑)、できることなら隠したいなって思っちゃうんです。ミュージックビデオも、自分で観るのが恥ずかしいとは思ってしまうんですけど、以前よりは自分自身を出せているんじゃないかなって思います。堂々と、皆さんに見てもらいたいって思うようになりました。

――1stアルバムを聴くと、今後の和氣さんの音楽活動がとても楽しみになるんですけど、和氣さんはご自身の未来に何を期待していますか。

和氣:去年、本当は1stライブの予定があったんですけど、この情勢なので、できなくなってしまって。だけど、いつかはやりたいなって思っています。

――恥ずかしいのに?

和氣:恥ずかしいのに(笑)。でも、たぶんステージに立ってしまえば、モードに入れるので、恥ずかしさはないと思うんです。ド緊張はすると思うけど、恥ずかしさよりも楽しさが勝つと思います。アルバムも含めて、せっかく22曲もある中で、まだ1stシングルのイベントしかできていなくて、皆さんの前で歌えていない曲がたくさんあるので、22曲全部お届けしたいくらいの気持ちでいます。それに向けて、今から頑張りたいと思いますし、CDを聴いて満足していただけるのもすごく嬉しいですけど、実際に会いに行って生で聴いてみたいなって思われたいし、そういうアーティストになりたいです。楽しみに待ってくださっている方もいるので、その方々の期待を裏切らないようにたくさん練習して、堂々とステージに立てたらいいですね。

――楽しみに待ってくれている人は、和氣さんにとってどういう存在ですか。

和氣:ほんとに素敵な人たちだなあ、と思っています。皆さんがわたしのことを調べてくれて、時間を割いたり、地方から東京に毎週来てくれたりすることが本当にありがたいですし、力になっています。もちろん、SNSやお手紙で「いつも応援してます」って言ってくださるのも、すごく嬉しいです、ステージに立つと、目の前の人たちからの温かい視線が、本当に励みになります。それを改めて感じたのが1stシングルのイベントで、皆さんのおかげでわたしの音楽への考え方も変わったりしたので、本当に素敵な方ばかりで、自分は恵まれているなって思います。皆さんからしたら、「自分は何人かいるファンの中のひとりだから、支えになっていないかもしれない」なんて思っているかもしれないですけど、わたしにとっては皆さんひとりひとりがありがたい存在で、すごく励みになっています。

――その気持ちを、ぜひ歌で伝えたいですね。

和氣:感謝を伝えたいです。皆さんからもらってばかりなので、お返ししていきたいです。

――みんなの期待に応えていくために、どんな自分でいたいと思いますか。

和氣:まっすぐな人間でいたいです(笑)。すごくシンプルですけど。みんなのイメージをいい意味で壊したいと思うこともありますけど、今の基本の自分は変えずに、もっと広い世界を見に行きたいです。あとは、中途半端にならないようにいろんなことに手を出していきたい気持ちもあります。もっといろんなわたしを、皆さんに見せていきたいです。

――「いろんなわたしを見せたい」。最高の宣言ですね(笑)。

和氣:あっ、「わたしを見せたい」っていう言い方はちょっとイヤかも(笑)。でも、いろんなわたしを知ってほしいです。そう思えるのも、まわりの方のおかげです。アーティストデビューをしていなかったら、わたし自身は変わっていなかったと思います。裏でこっそりアフレコをしているのが好きだったわたしを、皆さんが表に引っ張ってきてくださったので、期待に応えたいなって思います。

取材・文=清水大輔