毎週更新! みんなで語る『バック・アロウ』特集⑤――中島かずき(シリーズ構成・脚本)インタビュー【後編】

アニメ

公開日:2021/2/16

バック・アロウ
TVアニメ『バック・アロウ』 TOKYO MXほかにて毎週金曜24:00より放送中 (C)谷口悟朗・中島かずき・ANIPLEX/バック・アロウ製作委員会

 信念が世界を変える! 壁に囲まれた世界リンガリンドに、謎の男バック・アロウが落ちてきた。壁の外から来たというその男をめぐり、リンガリンドの人々が動きはじめる――。『コードギアス 反逆のルルーシュ』を手掛けた谷口悟朗監督、『プロメア』や『キルラキル』の脚本を手掛け劇団新感線の座付き作家としても知られる脚本家・中島かずき、『サクラ大戦』シリーズや『ONE PIECE』の楽曲を手掛ける田中公平が組む、オリジナルTVアニメ作品『バック・アロウ』が放送中だ。

 信念が具現化する巨大メカ・ブライハイトを駆使して、壁の外へ帰ろうとするバック・アロウ。その彼をめぐってリンガリンドの国々は、さまざまな策謀をめぐらしていく。ものすごいテンポ感とともに、壮大な世界が紡がれていく「物語とアニメの快楽」に満ちた、この作品が描こうとしているものは――? オリジナルアニメ作品ならではの「先が読めない面白さ」を伝えるべく、『バック・アロウ』のスタッフ&メインキャストのインタビューを、毎週更新でお届けしていきたい。

 本作のシリーズ構成・脚本の中島かずきは、前編のインタビューで「第5話でセットアップができる」と語っていた。主人公バック・アロウとエッジャ村の仲間たちが城塞戦艦グランエッジャに乗り、壁の向こう側を目指す。そこにレッカ凱帝国の天命宮大長官シュウ・ビが合流。大国レッカ凱帝国やリュート卿和国から注目される中、彼らの旅が始まる。はたして第6話以降に、どんな冒険が待っているのか。これからの展開を語ってもらった。

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谷口さんと組むと、通奏低音のように低温狂気がずっと流れていく

――第5話で、とうとうレッカ凱帝国の天命宮大長官シュウ・ビがグランエッジャに合流しました。第6話では、シュウを警戒すべく、お調子者のビット・ナミタルが軍師管理大元帥に就任します。お調子者のビットを、上手く乗せて操っていくシュウとの関係が面白いですね。

中島:まさかシュウとビットが上司と部下みたいな関係になるとは思わなかったでしょ?(笑)。ビット役の小野賢章くんがすごく上手く演じてくれているんです。好感が持てるお調子者ってすごく難しいと思うんですけど、賢章くんがシュウの口車に乗せられるお調子者を、すごく好感が持てる感じで演じているんですよね。ビットを軍師管理大元帥としてシュウの上官にした、というのは、確か脚本を書いている最中に会話の流れから思いついたんですけど、今回の発明のひとつかもしれません。

――第6話以降、バック・アロウたちを乗せた城艦グランエッジャは、壁に囲まれた世界リンガリンドをめぐります。第6話で訪れた場所は……「美少年牧場」! このとんでもない牧場は、中島さんのアイデアなのでしょうか。

中島:「美少年牧場」は僕のアイデアだったと思います。今回扱っている「美少年」という言葉は、一般的な意味とはちょっと違っています。その意味は本編で説明していますが、ちょっと悲劇的かもしれません。彼らのまわりでキラキラ光っているのは美少年粒子です。この世界には信念子という粒子があります。美少年たちには美少年粒子という信念子の一種がこぼれ出ているんです。それがキラキラと発光するんですね。

――美少年のまわりでキラキラした光が輝くのは、ただの演出じゃなかったということですね!

中島:あれが美少年粒子です。ちゃんとロジックの裏打ちがあるキラキラなんですよ。美少年を集めているセバーン・ウィルストンという男は、この美少年粒子を感知して、集めているんです。

――美少年には美少年粒子が発せられていて、それが少女漫画のようにキラキラと光る。なんだか不思議な説得力があるところが、中島脚本の魅力ですね。

中島:悲劇的な美少年たちが、その運命に立ち向かい、今後どうなるかも楽しみにしてください。

――各話を振り返ると、第1話はとてもインパクトのある内容になっていました。壁に囲まれた世界リンガリンドに、壁の外から落ちてきた男が、落ちた村のために戦う。そのきっかけがパンツを借りたから……。中島さんと谷口監督が組むと、こんな作品になるんだなと驚きました。

中島:第1話で落ちてきた主人公を村人が食べようとするのは、谷口さんのアイデアで、そこで村人たちが謎の踊りを踊るのも、谷口さんのアイデア。主人公がずっとパンツにこだわっているのは、僕のアイデア。「逃げる相手は容赦はしねえ」という信念の賞金稼ぎに襲われて、主人公があえて逃げ出す、というのは谷口さんのアイデア。たぶん、僕と谷口さんの考える「馬鹿馬鹿しさ」がそれぞれ違っていて、それがひとつの作品に入っているんです。第1話がオンエアされたあとの視聴者のみなさんの反応は「中島の作品だ」「中島テイストが強い」という意見が多かったんだけど、第2話、第3話は「谷口の作品だ」「谷口テイストが強い」という意見が多かった気がします。なんなんでしょうね、この反応の違いは……。

――ふたりのアイデア、作風やテイストが化学反応を起こして、新しいものになっている感じがありますね。

中島:『キルラキル』は頭のネジが外れたキャラクターたちがぶつかり合う作品でしたけど、自分としては『バック・アロウ』は極めてまともな主人公たちを書いているつもりなんです。でも、世間一般から見ると、やっぱりおかしな部分がいっぱいあるんでしょうね。美少年牧場とか、そういうものはあまり他にないんでしょう。低温やけどのような、「低温狂気」みたいなものが、『バック・アロウ』にはあるんでしょうね。

――各話に流れる「低温狂気」!

中島:そうそう。今石(洋之)さん(『キルラキル』『プロメア』監督)と組むと、ハイパーホットクレイジーになって爆発するんですけど、谷口さんと組むと通奏低音のように低温狂気がずっと流れていく。これが谷口×中島コンビの作風なのかもしれない。谷口×大河内(一楼)(『コードギアス』『プラネテス』の脚本家)だと「低温狂気」は流れないからね。

――監督と脚本家の組み合わせで、いろいろな作風が化学変化のように生まれているんですね。

中島:谷口さんはクレバーです。打合せもテンポよく進んでとてもやりやすかった。でも、ひょっとしたら脚本家に合わせて「しめしめ、これは脚本家のせいにして、こういう要素が作れるぞ」と思っているのかもしれない(笑)。第1話で「主人公が裸で落ちてきて、その尻に子どもたちが噛みつくくだり」は谷口さんが考えているのに、視聴者は「さすが中島だ」という反応でしたからね。「今回は中島のせいにできるぞ」と、普段はやらないような愉快なアイデアを積極的に出しているのかもしれません。まあ、冗談ですが(笑)。

――今回、ブライハイト同士のバトルシーンも中島さんが脚本上でアイデアを書いているのでしょうか。

中島:戦闘のアイデアを書くのは好きなんです。どうやって勝つか、どうやって負けるかは、ほぼほぼベースを自分で作っています。とはいっても、だいたい「ああいえば」「こういう」というバトルになっていると思いますけどね。

――ロジックの駆け引きと、口の駆け引きが両立しているのが、中島脚本のバトルシーンの魅力だと思います。

中島:戦争はね、まず口で勝たなきゃダメ!

――ははは。手より先に口を出して、まず勝つ。

中島:以前の『キルラキル』でも「ああいえば」「こういう」という口ゲンカで戦っていたでしょ。まず口で勝つことが、勝利につながるんです。

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「壁の中の三国志」が、ある意味テーマです

――ここまでレッカ凱帝国、グランエッジャの人々が描かれてきましたが、いよいよリュート卿和国が描かれます。フィーネ・フォルテ皇女卿がひとつのキーマンになりそうですが、フィーネ役に小清水亜美さんにお願いしたのは、どんな経緯があったんでしょうか。

中島:フィーネには大きなアイデアがありました。それをやっていただくなら小清水亜美さんがぴったりだなと思っていました。ただ、彼女のスケジュールも未確定だったので、一応オーディションはやったんです。でも、そこに小清水さんもいて、どうやらスケジュールも何とかなりそうなので、是非彼女でと。彼女は、僕と谷口さん、どちらの作品も経験済みでしたからね。そういう意味でも頼りになりますし。

――そう考えると、中島作品のキャストと、谷口作品のキャストが一堂に会している感じがありますね。

中島:そうですね。本当にありがたいです。これだけのキャストが集まってくださって、谷口さんと「いやー、言ってみるもんだね」と喜びました。でも、以前ご一緒したスタッフの方がおっしゃっていましたけど、僕の脚本は「新人の声優さんで固めると大変なことになる」と。たぶん、芝居の要求が複雑なので、キャリアを積んでいない方には難しいんです。

――いよいよふたつの大国と、グランエッジャの物語が始まります。

中島:「壁の中の三国志」が、ある意味テーマです。レッカとリュートとグランエッジャの三国がどのようにぶつかっていくかを書いていこう、と。武力ではレッカが人材もブライハイトも優れているけれど、リュートはバインドワッパーやブライハイトの仕組みに関する研究は一歩進んでいる。その中で、グランエッジャはどうしていくのか、ですね。

――これからの展開で、どんなところに注目をしてほしいですか。

中島:やはり、キャラクターにそれぞれ想いがあるので、キャラクターひとりひとりのぶつかり合いを見てほしいです。真ん中にアロウがいますが、ここからどんどんそれぞれのキャラの物語が動き出します。彼らがどのように生きていくのかを、楽しみにしていてください。

TVアニメ『バック・アロウ』公式サイト

取材・文=志田英邦

中島かずき(なかしま・かずき)
劇作家・脚本家・小説家。福岡県出身。劇団☆新感線の座付作家として活動。2003年に『アテルイ』で第2回朝日舞台芸術賞・秋元松代賞、第47回岸田國士戯曲賞を受賞。アニメ作品では『天元突破グレンラガン』『プロメア』などを手掛ける。2021年は劇団☆新感線 41周年春興行 Yellow 新感線『月影花之丞大逆転』を予定。