不老不死のディストピアに希望の光を照らす愛の物語

新刊著者インタビュー

更新日:2013/12/4

未来への希望のない社会で人は愛を育めるのか

 随所にちりばめられたぶっとんだ設定をきっちり回収する手腕も見事。その一つが、流動性を失った社会を安定運用するためのユニオンという仕組みだ。下層労働者の生活の安定を目的に設立された巨大な公営組織で、加入者は一生涯、生活費が支給される。だが昇給はなく、出産も認められない。自由な出産で人口は増加の一途をたどり、社会を保持できないからだ。

「百年法の凍結で不死が続くことは国民の意思でした。しかし、人々はすぐに凍結が抱える問題に気づきます。なぜなら、不老不死社会では退場者がいないので、若い人にはチャンスが来ない。希望のない未来に絶望し、暴動が起きます。実は、初頭でユニオンの存在を書いたときは、次の展開を考えていたわけではないんです。ところが後々、大きく物語が動く説得力となった。計算して登場させたわけではない設定や人物が、書き進めるうちにピタっとはまり、物語を牽引しました。一つ一つのエピソードを緊張感だけで繋いでいき、振り返ったときに大きな流れが生まれているのが小説の理想。そういう体験がこれほど多かったのは本作が初めてです」

 不老不死社会ではほとんどの人は子孫を残さず、子供を養う必要がないので家族制度は崩壊し、人々は孤独だ。次世代にバトンを渡さない人々は成熟せず、中身がうつろだ。恋愛もしかり。見た目が20代でも、100年以上生きる人にとことん人を愛するエネルギーが残っているのか。

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「不老不死は本当に幸せなことなのでしょうか。文庫化されたばかりの『魔欲』にも書いたように、人間にはある瞬間から死へと傾斜していく部分が備わっていると思います。人間は永遠に生き続けるには複雑すぎる。前の世代が死んでいかないと世代交代もないし、世代交代がない社会には進化もない。おそらく、永遠の命を得ることは、種としては自殺行為です」

 細胞には一定期間で自死するプログラム、アポトーシスが組み込まれている。それは人の心においても同じではないか。人生に限りがあるから人は成長し、人を愛せる。仁科ケンを含め、本作の主要登場人物の人生は過酷だが、そこには深い愛情を注ぎ、注がれた人間の凜とした美しさがある。

 本当の意味で希望ある未来への扉を開くために、私たちは何を選択し、どう行動するのか。『百年法』にはその一つの回答がある。閉塞感の中で喘いでいる日本。今こそ読みたいエンターテインメント大作だ。

取材・文=東海左由留(SCRIVA) 写真=川口宗道

紙『百年法』(上・下)

山田宗樹 / 角川書店 / 各1890円

不老不死を手に入れた人類。日本では不老処置を受けてから100年後、必ず生命を終えなければならない「生存制限法」が制定された。迫りくる100年ぶりの死を目前に国が大きく揺れ動く。永遠の若さと生命を手に入れた社会ははたしてユートピアなのか?大切な人への愛、そして明日への希望を浮き彫りにした、衝撃のエンタメ大作。

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