『おでんくん』似のFC東京・森重真人×リリー・フランキー対談! 仕事を長く続ける極意は「ベテラン」にならないこと!?

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更新日:2021/9/26

 リリー・フランキーさんの絵本の主人公で、アニメ化もされた『おでんくん』。そのおでんくんと顔が似ている……と話題になったのが、元サッカー日本代表でJリーグ・FC東京所属の森重真人選手だ。その話題がきっかけで、森重選手とおでんくんはFC東京の公式グッズやLINEスタンプでたびたびコラボ。2015年には2人の対談も実現していた。

 そして今回は、森重選手のJ1リーグ出場400試合を記念して、現在公開中の映画『その日、カレーライスができるまで』で初の一人芝居に挑戦したリリーさんと、6年ぶりの対談が実現。コロナ禍で考えた生き方のこと、スポーツや芸術ができる社会貢献のこと、一つの仕事を長く続ける極意や、仕事の幅を広げる秘訣、本を書くことなど、多様な話題で大きく盛り上がった。

(取材・文=古澤誠一郎)

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コラボスタンプは銀座のホステスさんにも好評

©F.C.TOKYO

――今日はこうした形でオンライン対談をしていただいていますが、本当に異色の組み合わせですよね。

リリー・フランキー氏(以下、リリー):前にお会いしたのは7年ほど前ですよね。僕はその頃からずっと『おでんくん』と森重さんがコラボしたLINEスタンプを使い続けてますよ。このスタンプ、銀座のホステスさんにも好評です(笑)。

森重真人氏(以下、森重):本当ですか(笑)。今も使い続けてくださっているのは凄く嬉しいです! そもそも『おでんくん』は、最初にファンの方から「似ていますね」と言われたときに、自分でも納得するくらい似ていて驚きました。

リリー:でも久々にお会いしたら、森重さんは以前より顔がシュッとされていて、『おでんくん』から少し離れてきたような……。

森重:若いときはもう少し肉付きが良かったですからね。

©F.C.TOKYO

リリー:長くプレーを続けられて、とうとう400試合出場ですもんね。あらためておめでとうございます。プロの激しい試合を400試合というのは、本当に大変なことじゃないですか。前に中田英寿さんが「1試合で4、5キロ体重が落ちたことがある」みたいなコメントをされていましたけど、その計算だと森重さんは2000キロくらい痩せているわけですから。

森重:それは『おでんくん』から離れていくのも当然ですね(笑)。

リリー:その400試合の中ではケガもあったでしょうし、痛みをおしてプレーしたときもあったわけですよね。

森重:ありましたね。チームのためを思うと、我慢できる痛みなら試合に出続けたい気持ちはありますし、小さな痛みを抱えていることは日常茶飯事なので、「そのなかでどんなプレーができるのか」ということは常に考えながらやってきました。

リリー:やっぱりそうなんですね。だから僕も、森重さんが300試合出場、350試合出場と、節目節目の記録を達成したときは、それが仕事への励みになっていました。「体がだるいな」「本当にもう絵を描くのが面倒くさいな」と思ったときも、「いや、森重さんは毎試合5キロ痩せているんだよな…」と思うと、自分も頑張らなきゃなと思いますから(笑)。だから『おでんくん』をきっかけにお知り合いになって以来、森重さんからはずっと勇気をもらっています。

コロナ禍で芽生えた「サッカー以外に何も自分に残るものがない」恐怖

リリー:森重さんはアスリートとしてはベテランの域に近づいているのかもしれませんが、一般社会ではまだまだ「とても若い人」ですよね。

森重:そうなんですよ。だからこのコロナ禍では、「サッカーができなくなったときに、自分に残るものは何もないんじゃないか」という恐怖感も抱くようになりました。そこから「人としてできることを増やしたい」「1人の人間として、サッカー以外のこともどんどん学んでチャレンジしていきたい」と考えるようになりましたね。

リリー:このコロナのなかでは、世界中の人がそうやって一度立ち止まり、自分のことを考えたのでしょうね。僕もこの1、2年でいろいろなことを考えました。

森重:どんなことを考えたんですか?

リリー:もともとが凄く怠け者なので、いろいろなことが「休み」になって家にいると、「あれ、今まで働きすぎてたんじゃないのかな?」と思いましたね(笑)。あと、「これまでしてたことって、そんなに必要じゃなかったのかな」とも考えました。

 それと今年の6月と7月は映画の撮影でイングランドにいて、そのときにサッカーの欧州選手権が開催されていましたが、もう現地の人たちの熱狂ぶりが凄くて。「この人達は本当に生活の中にサッカーがあるのだな」と感じる一方で、「俺は何かに夢中になれてるのかな」とも考えました。

 いろいろな仕事をしてきましたけど、ふと立ち止まって自分のことを考えると、空虚な気持ちになりますよね。コロナがあった昨年と今年は「俺は自分の人生を考えたことが本当になかったな」と感じました。

森重:そういうことを常に考えてる方だと思っていたので、ちょっと意外です。

芸術やスポーツの社会貢献を「意図してやるべき」年齢になった

リリー:さっき森重さんがおっしゃっていた「コロナ禍でサッカー以外のことにチャレンジしなきゃいけないと思った」というのは、具体的にどんなことなんですか?

森重:まず僕は、自分が好きなサッカーだけをして生きてきた人間だったので、「この国のことや社会のことを真剣に考えてこなかったな」と痛感しました。そこであらためて社会のことを考えるようになり、「自分の仕事を通じて地域に対してどんな貢献ができるのか」と深く考えるようになりました。

 そうやって世の中を見渡すと、いろいろなことが繋がっていることが分かりましたし、社会を見渡す視野が広がったことは、サッカーのプレーにも活きている感覚があります。

リリー:僕や森重さんが取り組んでいるスポーツとか芸術って、「自分の好きなことに一生懸命に取り組むこと」が、もともとどこかで社会貢献に繋がっているものですよね。昔はそれをほとんど意識していなかったのが、最近は「そうした社会貢献を意図してしなきゃいけない立場になってきたな」と感じます。

森重:それはありますね。コロナのことがあったからか、自分の年齢のせいか分からないですが、僕もそういうことを考えるタイミングになってきたと感じています。

新しいことに挑戦して「常にルーキーの気持ち」でいたい

――リリーさんはイラストに文筆業、俳優業と、本当に多種多様な仕事をされています。「本業以外にできることを増やしたい」という人はどうしたらいいのでしょうか?

リリー:そうやって仕事が増えたのは「なりゆき」と言うしかないですけれど、「なるべくベテランになりたくない」という気持ちはどこかにあると思います。僕は19歳の頃からイラストを描いてきて、もうすぐデビュー40周年になりますが、常に新しいことにチャレンジしてルーキーの気持ちでいないと、心が老けちゃいそうだなと思っていて。知らないことに挑戦してバカにされてるくらいのときのほうが、仕事への活力も出るのかなと思っています。

 ただその反面、自分が続けてきた仕事の精度が落ちてしまうのは、気持ちとしては凄くしんどい。もともと僕はそんなに器用じゃないので、お芝居に集中している時期は、イラスト1枚描くのも辛いんです。だから自分でスケジュールや気持ちの整理をしながら、できる範囲で物事を並行して、常に何か新しい学びを得ていたいと思っています。

森重:僕も「ベテラン」と呼ばれることが増えてきましたけれど、なるべく自分ではベテランだと思わないようにしています。若い選手が自分にできないプレーをしていたら、「自分にもできるんじゃないか」と思って盗もうとしますし、新しくできることを増やして成長したい気持ちは今も変わらずあります。「ベテランだから」とあぐらをかかず、丸くならずに、尖っている自分でいたいと思いますね。

「自伝を書いたら現役っぽくなくなる」という葛藤

――森重選手のようにJリーグでも代表でも実績を残し続けてきた選手には、自伝本を出す人も多い。本を出すことに興味はありますか?

森重:書籍の話は過去にも何度かいただきましたが、ちょっとアイドルっぽいニュアンスの内容で、僕自身の「それはちょっと……」という気持ちもあって実現はしませんでした。ただ、本当に真面目な内容というか、それこそ自伝のような本は出したいと思っていたので、いいご縁があればぜひやりたいなと思っています。

――リリーさんは自伝的な著書『東京タワー ~オカンとボクと、時々、オトン~』の大ヒットでもおなじみです

リリー:僕は『東京タワー』を書いたときに、「自伝的」とよく言われましたが、あれは自分の中では母親のことを書いた本で、そのなかで自分のことを書かざるを得なかったのです。だから自伝を書いたつもりはなかったし、「自伝書いちゃったらもう現役っぽくなくなるじゃん」って気持ちもあるじゃないですか。

 でも森重さんのように400試合も出場を積み重ねてきた選手の話は、やっぱり読んでみたい人が多いと思います。今は自分が生きることについて、迷っている人が多い時代だと思うので、森重さんの生き方やライフスタイルからは学ぶべきことが沢山あるのではないでしょうか。

――森重さんは著書を出すとしたらどんなことを伝えたいですか?

森重:僕自身がサッカーを続ける中で感じてきたこと、見てきたことはいろいろありますが、それをサッカーだけの話、僕個人の話として伝えるというよりは、リリーさんがおっしゃったように、読者の方の人生に活かせるような内容にしたいですね。長谷部(誠)さんが出した『心を整える。 勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎)のようなことを、自分の経験をベースに伝えられたらいいなと思っています。

リリー:体を維持して、心を整えるために、森重さんが続けてきたライフスタイルというのは必ずあったでしょうし、それはすべての人に参考になる話でしょうし、読みたい人は沢山いると思います。

1000試合出場を目指し、大人用紙おむつでコラボを

リリー:あと森重さんには、そうした本を出すだけでなく、500試合、600試合、700試合を目指してプレーを続けてほしいですね。

森重:600試合出場となると、あと7~8年はプレーを続けることになるので、ちょっとできるか分からないですけど、頑張ります(笑)。

リリー:日本のように高齢化の進んでいる国では、長くプレーを続けている選手、ピッチに立ち続けている選手が与える勇気というのは、より大きくなっていくと思いますよ。だから、やっぱり1000試合を目指して頑張ってもらいましょうか。

森重:もし実現したら骨と皮だけになってると思います(笑)。

リリー:自分が本当にじいさんになって、起き上がるのも難しくなったときも、「うわぁ、森重さんまだピッチに立ってるわ」ってなったら凄いじゃないですか。そうした選手の存在は多くの人に夢を与えると思います。何だか森重さんに大変な人生を強いてるようですけど、凄く期待しています。その頃には『おでんくん』と大人用紙おむつや介護グッズでコラボしましょう。

森重:いいですね(笑)。ぜひ実現しましょう!

《プロフィール》

森重 真人
1987年、広島県生まれ。日本代表として国際Aマッチ41試合に出場し、Jリーグベストイレブンには5度選出されている日本屈指のセンターバック。FC東京には2010年から所属しており、チームの中心選手として活躍を続ける。今年8月には史上28人目のJ1リーグ出場400試合を達成した。

リリー・フランキー
1963年、福岡県生まれ。イラストレーター、文筆家、俳優などさまざまなジャンルで活躍しており、2005年に発表した長編小説『東京タワー~オカンとボクと、時々、オトン~』はベストセラーに。主演作『万引き家族』がカンヌ国際映画祭パルムドールを受賞。公開中の映画『その日、カレーライスができるまで』では初の一人芝居に挑戦。来年公開の日英合作映画『コットンテール』に主演。

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