答えは提示しない。ジャンル分けは好まない。俳優・山田孝之が貫く、「表現」への哲学

文芸・カルチャー

更新日:2021/10/20

山田孝之

 今年6月にシーズン2が配信された『全裸監督』など、ジャンルにとらわれず、表現を届けている俳優・山田孝之さん。自身初の詩集『心に憧れた頭の男』を刊行した山田さんは、どのような「言葉」に心を動かされてきたのでしょうか。

取材・文=立花もも 写真=北島明(SPUTNIK)


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――2016年に刊行した著作『実録山田』はポジティブな面、そして今回刊行される詩集『心に憧れた頭の男』はネガティブな面を表現されている、とのことですが、どちらに寄り添うかによって、山田さんの中に浮かんでくる言葉も違ったのでしょうか。

山田 『実録山田』では、どうしたら面白くなるだろう、と常に考えていましたけど、今回の『心に憧れた頭の男』は、頭で理解する前に心にすっと刺さってくれる言葉ってなんだろう、と意識していました。どっちも、心を揺さぶりたいっていう意味では同じですけどね。『実録山田』に関しては「もうやめてくれよ!」って言われるくらい、ふざけたものにしたかったんです。「 」でくくられた言葉が3ページ半くらい続くページがあって、最初から入れようと決めていたんですけど、とにかく読みづらいのがいいよなって思ったんです。とにかく楽しんで書いていました。

――『心に憧れた頭の男』は、楽しんで書くという感じではなかった。

山田 そのかわり瞬間的な言葉が多くて、向き合っている時間は『実録山田』に比べて短かったと思いますけどね。

――どちらも「これってどういう意味だろう?」「どういう意図でこれを書いたんだろう」って思わされるのは同じで、そこは一貫して意識されているのかなと思いました。

山田 まあ、そうですね。監督でも俳優でも、歌うときも書くときも、僕が何かを表現するときには基本的に「どう思います?」ってスタンスなんです。初めてプロデュースした『デイアンドナイト』(2019年公開)は、何が善で何が悪か、みたいなことを描いた映画ですけど、「絶対に答えを決めつけないようにしよう」って、最初からみんなに伝えていました。

明確な問いかけも答えもないまま、状況だけをぽんと差し出されたとき、人は自分と向き合うしかないんですよね。見せつけられた衝撃を解消するには、自分の内側を探っていくしかない。「自分はなんでこう思うんだろう?」「ああ、こういうことはしちゃいけないって思ってるからだな」「でもそれはなんで?」「この人たちのような状況にあったら本当にその正義を貫けるの?」みたいな……。だから僕は、視点を変えて、対比をくわえて、いろんな引っ掛かりを提示するようにしているんです。でも、多くの人は最初の印象だけで止まってしまうんだけど、二回、三回とくりかえし観ていくうちに、自分自身のとらえかたも変わってきたりするじゃないですか。

――1回目では見えなかったことが見えるようになったりしますからね。

山田 それと同じように、誰かと「あれ、どう思った?」って話をするのも大事なんじゃないかなって思うんですよね。「あ、君はそんなふうに感じたんだ」とか「それは全然気づかなかった」ってことがあれば、二回目を観なくても変わるものはきっとある。逆に自分の感じたことを人に話すだけで、クリアになっていくものがあるかもしれない。お互い、とらえ方は変わらなかったとしても「あいつ、そんなこと考えてたんだな」ってわかるだけで、相手のことをより知っていくこともできるじゃないですか。

――だから山田さんは“答え”は提示しない。

山田 できるもんじゃないですしね。みんなわからないことが不安で、わかりやすいことを求める傾向が強くなってる。でも、不安って“まだ起きていない”ことに対して感じるものじゃないですか。何かが起きたあとにするのは、後悔。もちろん後悔だってできるだけしたくないけど、解決するために動くことは、何かを学んでいくということで。それが、自分自身と向きあうってことなんじゃないかと思います。まだ起きていないことのために、心を乱してああだこうだと考えても、まあ、しょうがないですよ。

山田孝之

――山田さんは、あたふたしてしまうことってないんですか?

山田 ありますよ、もちろん。しかも僕は、仕事柄、自分の状態にかかわらずネガティブにどっぷり浸からなきゃいけない時期もあるし。言いたいことが言えない役をやっているときは、無駄に考え事しちゃうし、四六時中モヤモヤしてる。「なんでこんなとこにビル建てたんだよ!」「なんでこの車、俺に向かって走ってくんの?」「この色、すげえイヤだ!」とか(笑)。でもポジティブな役のときは「こんなにたくさんのビルを建てた人たちがいるって、なんてすごいことなんだ!」「あの車カッコイイなあ」「個性的な色で素敵だな」なんて、同じことでも真逆の感想をもつわけです。

――役によってどちらにも振ることができるから、50/50でいることの大切さを実感されているのかもしれませんね。ポジティブにもネガティブにもなりすぎないほうがいい、って。

山田 「だっせえビルだけど、頑張って建てた人がいるんだから、まあいいじゃん」みたいな(笑)。どっちも持っておく、っていうのが大事ですよね。

山田孝之

――山田さん自身が揺さぶられる言葉や表現はありますか?

山田 吉井和哉さんですね。中3のときにTHE YELLOW MONKEYの『JAM』を聴いて衝撃を受けて以来、ずっと好きで。吉井さんもよく対比を使うんですよ。あと、本当にふざけてるなと思うこともあれば、考える暇なく突き刺さる言葉を放つときもある。実を言うと、文章を書いているときに「これじゃ、吉井さんと近すぎる」と思って、変えたこともあります。なんかね、おこがましいのを承知で言うと、吉井さんの歌詞ってすごく“わかる”んですよ。気持ちの置き場が似てるんじゃないかな、って思う。

――どんなところに“わかる”って思うんですか?

山田 自分はしょせん、地球上に存在するひとつの生命体に過ぎない、っていう感覚かな。風とか星とか、自然の描写が多いのって、そういう俯瞰的な視点があるからだと思います。あとは吉井さん、照れ隠ししてるなって感じるときがけっこうあって。

――照れ隠し?

山田 言いたいことをそのままストレートに言った『JAM』みたいな曲もあるけれど、そういうのばかり続くと重くなってしまうじゃないですか。聴いているほうも、深刻にとらえすぎてしまう。ネガティブなことを発信するときに、どうやってガワをふざけるか、に力を込めているところに僕は美学を感じます。そして、よくよく聴きこんでいると「ただふざけてるだけじゃない」ということはわかる。そういう照れ隠しがすごく愛おしいし、美しいと思います。

――わかりやすいものに瞬間的に飛びつくのではなく、奥にあるものを探るのが大事だと。

山田 前情報が欲しい気持ちはわかるんですけどね。忙しいなか時間を割いて、観た映画がおもしろくなかったらイラっともするだろうし、あまりにモノがあふれた世の中で、自分に合うものを正しく選びとれる自信がないのかもしれないし。でも、これはコメディです!と言われて観た作品が、ある人にとっては感動作かもしれない。泣けるって触れ込みの作品を、ホラーに感じる人もいるかもしれない。だから、お客を呼び込むためにはある程度のジャンル分けは必要かもしれないけど、それは僕はあまり好きじゃない。好きか・嫌いかの可能性は常に50/50。だったら、誰かがつくったカテゴライズにハマるより、自分でジャッジして自分だけの大事なもの見つけていったほうがよくないですか? 新刊に『心に憧れた頭の男』というタイトルをつけたのもそう。どうしたって頭でいろいろ考えちゃうけど、自分の素直な感覚に沿って生きられたら一番いいよなって、僕は思います。

スタイリング=五月桃(Rooster)
ヘアメイク=灯(Rooster)
衣装=シャツ¥64,900/YOHJI YAMAMOTO(ヨウジヤマモト プレスルーム 03-5463-1500)

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