loundraw「不完全な登場人物たちが織りなす乙一さんの小説は、いつもやさしい」

あの人と本の話 and more

公開日:2021/11/21

NOAさん

 毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、loundrawさん。

(取材・文=五十嵐 大   写真=山口宏之)

どれだけの時間が経っても忘れられないほど、強烈な印象を残す一冊。loundrawさんにとってのそれは、乙一さんの短編集『失はれる物語』だ。

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「手に取ったのは中学生の頃。当時、様々な小説を読んでいたのですが、その中でも唯一、未だにお話の展開をすべて覚えている作品集なんです」

収録されているのは7つの短編。中でもお気に入りは「Calling You」「傷」、そして表題作の「失はれる物語」だという。

「出てくるのは、世の中の不条理や避けられない出来事に対して、真正面から傷ついてしまうような人たち。彼らは抗うために行動を起こすけれど、結果が変わらないこともある。でも、その姿勢自体が美しいと感じます。決して傷は完治しないし、必ずしも誰かを助けられるわけでもない。それでも人を思うことはすごく大切で、人生に通ずるとも思います。それと、乙一さんが生み出すキャラクターには不完全さがあって。ちょっと弱かったり軸がブレたりするのですが、そこが人間らしくて好きなんです。きっと乙一さん自身がやさしい眼差しを持っているのかな、と」

実はこの度、loundrawさんがアニメ映画『サマーゴースト』で監督としてデビューすることが決まった。その脚本を手がけることになったのは、まさかの乙一さんだった。

「プロデューサーさんから乙一さんを推薦されたときは、もちろんうれしかった。ただ不安もあったんです。自分の頭の中にあるものを誰かと共作する経験がなかったので、思った通りにできるのかな……と。でも、乙一さんは密にコミュニケーションを取ってくださって。脚本をいただいたらそれをビデオコンテにして、修正点を洗い出し、乙一さんにフィードバックする。とても手間がかかる作業だったとは思いますが、それも含めて面白がってもらえました」

結果、できあがったのは、少年少女が体験するひと夏の出来事を描いた、切ない物語だ。主人公たちは皆、生きづらさを抱えており、その描写は痛々しいほどでもある。

「今って観ていてストレスを感じないものが人気だと思うんです。でも過剰にそれを目指すと、キャラクターが空虚に見えてしまう気がして。だから敢えてつらい描写も入れています。その上で、観終わった後に前向きになれる作品にしたかった。人生には変えられないこともあるけれど、時々ふっと前を向ける瞬間があるから生きていける。本作がそのきっかけになってほしいと思います」

ラウンドロー●10代でイラストレーターとしてデビュー。『君の膵臓をたべたい』『君は月夜に光り輝く』などの作品の装画を担当した他、2019年にはダ・ヴィンチ本誌で連載していた小説『イミテーションと極彩色のグレー』を単行本として刊行。アニメーションスタジオ《FLAT STUDIO》も設立し、さらに活躍の幅を広げている。

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『サマーゴースト』

『サマーゴースト』

原案/監督:loundraw 脚本:安達寛貴(乙一) キャラクター原案:loundraw 出演:小林千晃、島袋美由利、島𥔎信長、川栄李奈ほか 配給:エイベックス・ピクチャーズ 11月12日(金)全国ロードショー
●ネットを通じて知り合った3人の高校生・友也、あおい、涼は、都市伝説である“サマーゴースト”を探しに向かう。彼らはなぜ、サマーゴーストに会わなくてはならないのか。そこには秘められた理由があって……。
(c)サマーゴースト