「明るいサークルに入った方がいい?」「彼氏ができません」現役大学生のお悩みに、『真夜中乙女戦争』原作者Fが答えました

文芸・カルチャー

公開日:2022/2/25

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

「人間、死ぬときは死ぬ。今夜が世界の転換点となり、俺たちの転換点にもなる。思い出せ。これは遊びじゃない。悪戯じゃない。嫌がらせでもない。れっきとした、戦争だ」――不眠症で無気力な大学生の“私”が、凛とした佇まいの美しい“先輩”と、大学生にして一生遊んで暮らせる資産を築いた“黒服”に出会ったのをきっかけに、「東京爆破計画」に巻き込まれていくさまを描いた小説『真夜中乙女戦争』(KADOKAWA)。1月21日に公開された、永瀬廉主演映画の原作者、Fさんが、公開を記念して現役大学生たちのお悩み相談に答えてくれました!

(構成・文=立花もも)


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真夜中乙女戦争
『真夜中乙女戦争』(F/KADOKAWA)

【お悩み】
こんにちは。僕は現在大学生で、読書サークルに入っています。ずっと読書ばかりしてきたので、友達とワイワイすることが苦手です。周りの人たちはバーベキューとか飲み会に参加して、毎日楽しそうにしているので、ちょっと羨ましくなります。僕も、読書サークルに入り浸るのはやめて、もう少し明るいサークルに入った方がいいでしょうか? アドバイスを頂けたら嬉しいです。

Fさん(以下、F) 結論から申し上げると、後悔なき大学生活は存在しないものと思っています。たとえばあなたがこれから数万冊の名著を読んで当代最高の読書家としてその名を轟かせても、ノーベル文学賞をお獲りになっても、または東京のバーベキュー王、副都心の飲み会王、六本木のクラブ王などになっても、きっとなにかはとてもできて、なにかはとてもできないことになりますよね。どの選択を取っても、大学生活、後悔はするものです。

 明るいサークルに入った方がいいかどうか、がご質問でしたね。入ってみると良いと思います。でも方法はそれだけじゃない気がします。知らないバーに飛び込むのもいいし、ツイッターやインスタで気になる人にDMを飛ばしたっていい。というのもあなたが本当にお望みなのは、今よりも騒然とした日々、というより、本当に好きになれる人、本当に面白いと感じる人、本当にバカをやれるくらい心が通じ合っている人、だと思うからです。

 ひとりの時間は今ならいつでも作れます。が、自分とはまったく違うお相手、つまりは完全な外部の人間との時間は、今しか作れません。かくいう私も、本ばかり読んで大学時代を過ごしていました。

 確かに活字の中にも、外部の人間はいました。面白いこと、賢いこと、知らないことをたまに言ってくれるのが本の魅力です。でも活字である限り、予想もしないタイミングで殴られることはないし、予想もしない角度から傷つけられることもない。それだけでは人生、つまらんのですよ。生身の人間は、いま、どこかにいて、あなたとの衝突を待っている可能性がある。ならば衝突しに行った方が面白いと思うのです。そしてその関係や、思い出は、本との関係よりも総じて永くなるものだと思いますよ。

【お悩み】
大学4年生の現在彼氏ができない上に、両親からの結婚相手を早く見つけろの圧がすごくて悩んでいます。就活を通して以前には考えていなかった、就職先や年収、将来設計など相手に求めてしまうことが増えました。その結果好意を持ってくれても知らず知らずのうちに評価してしまい、交際に発展せずに終わってしまいます。“先輩”のセリフ「私たち大学生はとにかく遊んで恥をかくことが一番大切なんだよ」とあるように以前までは何も考えずに遊んでいましたが、社会人に近づくにあたってどんどん腰が重くなってきました。まだギリギリ大学生なのに考えすぎてしまうことに悩んでいます。

F 就職先、年収、将来設計、いずれも読めたものではありません。三年前の私たちが、三年後である今日をひとつも予想できなかったように、です。

 来週の体調や気分も、自分にさえ読めません。明日のお相手の生死だって分からない。今夜デートするお相手と飛び込んだディナーが美味しいかどうかも分からない。
それでもなお確かなのは、いま、私はその人と一緒にいたいかどうか、その人と話したいかどうかだと思うのです。

 親は関係ありません。もっと言うと、その人が恋人かどうかも、あまり関係ない。あなたが今、大学生であるかも関係ありません。同棲した後も結婚した後も、これは同じじゃないかと思うんです。いま、その人と一緒にいたいかどうか、その人と話したいかどうかが、私たちが愛を判断する基本となることではないでしょうか。

「深淵を覗く時、深淵もまたあなたを覗いている」とはニーチェの言葉ですが、我々が誰かをお金やら安定やら仕事やらで評価する時、その評価軸の厳しさもまた我々を裁いてしまう(あるいは我々がそれによって疲弊してしまう)ことに、やがてあなたもお気づきになると思います。

 だからこそ、もっとシンプルでいいと思います。いま、会いたいか、話したいか、だけで生きてみてください。

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

【お悩み】
真面目だねと言われるのが苦痛になる時があって、どういう反応をすればいいかわかりません。自分で言うのも変かもしれませんが、昔からいわゆる“いい子”として生きてきました。でも授業に出るとか、遅刻しないとか、提出物を出すとか、全部当たり前のことをやっているだけなのです。それで周りからすぐ「真面目だよね」って言われるのが不思議ですし、真面目って言われると「堅苦しくてつまらないやつ」と思われているような気がして、不安になります。とはいえ、何かを破るつもりもありません。どうしたらもっと、気軽に受け止められると思いますか?

F たとえが悪いかもしれませんが、喫煙者というのは毎日真面目に煙草を買って真面目に火をつけて真面目に消すというのを毎日やっている人間のことを指しますよね。それはつまり、彼らは不健康に対して大真面目であると捉えることができると思います。

 煙草といえば毒、毒といえば恋ですが、aikoは恋をしたり失恋したりする歌を歌い続けてもう何十年も経っています。また私が知る限り、都内のバーテンダーはお酒を作るのも飲むのも大好きであり、ご自身なりのレシピを導くためにひたすらにアルコールの化学実験を己の舌の上で日夜繰り返してきた方々が多い。

 つまりはね、何かに真面目でないとプロにはなれない、ということです。真面目が大前提。絶対条件です。そして真面目が最後は勝つ。あるいは「いま自分が真面目であることを忘れるくらい夢中になれること」で人は勝つものと思います。

 でも大抵の人は、だらしない。だからこそ真面目なあなたにちょいと不真面目であって欲しいと願っているのが、彼らの本音かと思います。学校の場で真面目でおられるあなたが、羨ましいんですよ。学校の場から出ると「己の真面目を捧げられる何か」が必要になります。それを見つけて、それに己を捧げられるかどうかが、本当の勝負の始まりのように思います。その勝負において、あなたのように真面目な人は明らかに有利だと思います。

【お悩み】
現在3年生で就活をしながらも大学の課題をやっています。就活で今ずっと切羽詰まってて、あれもこれもやらないとと思いながらも、今まで資格などをまったく取らないで日常を過ごしてきただけだったので不安だらけの中、Instagramなどで友達の投稿やストーリーに遊んでいるシーンが映ってるのを見ると、何故か友達を冷めた目で見てしまいます。心の余裕がなく、私も気を紛らわせようと好きな音楽を聴いたりとかするんですけど、ひとつのことに全力で取り組んでしまい、不器用なのであれもこれもできないんです。主人公の“私”に似て、そんな自分が嫌で仕方がないのですが、もし同じ状況だったら皆さんはどうしますか?

F 不器用、上等。軽蔑、上等。不安、上等です。ヤンキーみたいな言葉回しで申し訳ございません。かつ、お答えしてしまうのが私であることも、謹んでお詫びします。が、おそらく映画関係者の中で就活経験者が私くらいなので、下記お答えします。

 不器用で、よいのです。できないことは、できない。できることは、すごくよくできる。それでよいし、あれもこれもできてたまるか、でよいのです。あれもこれもできる人と戦わなくてよい。靴屋に行った時に「実は私たち、医療脱毛もできるんですよ」と店員に言われても困るでしょう。焼肉屋に行って「実は美味しい紅茶も作れます」と言われても困りますよね。これしかできない、と言われるのは結構お客さんには喜ばれたりもするもんです。なぜなら不器用は、格好良いから。

 軽蔑する、でよいのです。冷たい目でご友人も社会もご覧になるとよいでしょう。彼らは、あるいは社会は、どうあれば面白くなるのか、どうあれば素敵なのか、という視点は、どちらかといえば温かく見守る目からではなく、あなたが既に持っている冷たい目から生まれるものです。ご自身の心のダークサイドに戸惑うかもしれませんが、今はそれでよいのです。軽蔑、冷笑、批判、そして建設的行為。これらはそれぞれ、数センチメートルしか離れていません。軽蔑の域から脱するまでが大変苦しいのは、あなたの年齢に課された必然であるとお考えください。

 不安な状況で、なにをするか。ビターな返答かもしれませんが、なにもできません。どこに受かるか、受からないか、どこに行けるか、行けないか。それはあなたが決めることではなく、面接官が決めることです。ご自身で決められないことは、悩んでも仕方がない。だから極論、考えても意味がない。流れに身を任せるしかないのです。

 しかし、です。できないことはできず、できることはすごくよくできるようにしておくこと、そして冷たい目をもって、この世を見つめ続け、なにができるか、なにがしたいか考え続けることは、いつどの場所においてもできることです。お答えになったかしら。その戦いが終わっても、どうぞ生きていてください。あなたみたいな方がいらした方が、この世は楽しいのです。

真夜中乙女戦争
(c)2022『真夜中乙女戦争』製作委員会

【お悩み】
大学進学、就職先と何となく有名な所に周りと同じように選択し、進んできてしまいました。今になって本当にやりたいことは他にあったのではないか、今後ずっと今選んだ就職先のままでいいのか既に不安を感じています。将来こんなことしてみたいと夢を持っても、今の道を外れて1歩進む勇気が出ません。現状をなんとなく生きるのではなく勇気を出して夢に向かうためにどんな心がけをしていますか?

F 最初にお付き合いした恋人とすんなり同棲、結婚まで行く人は稀であり、ましてや結婚して離婚も喧嘩もしない人もまた稀なことですよね。就職も同じことです。最初の就職先とずっとイチャイチャできている人は30代の私の周りを見渡しても、10人に1人しかいません。大切なことなので、もう一度言いますね。10人に、1人です。それ以外の皆さんは、2社目3社目、または独立、フリーランス、夢追う無職の道を辿っています。統計的に私の周りだけ離婚率や離職率が高いかどうかはさておき、まずは世の中、そんなものとお考えください。すべてはローリング・ストーンズ、転がる石なのです。

 彼らに唯一共通するのは、1社目があったということ。向いていることも、向いていないことも降ってきた。案外楽しいことも、案外我慢ならないことも承知した。そんな時、どこかの誰かが現れて「君の天職はこっちだよ」と言ってくれ、背中を押されて天職に就きましただなんて例は、いまのところ私は聞いたことがありません。皆さん、傷だらけの満身創痍で、果たしてそれが正しいのか正しくないのか、楽なのかどうかわからない中、「なんとなくそちらの方が私はわくわくするかもしれない、今よりも少なくとも面白いことになるかもしれない」という賭けを繰り返して、今の場所に立っておられる印象です。誰も背中を押してくれないからこそ、彼らはご自身でご自身の背中を押したんじゃないかと私は推測しています。

 あえて申し上げますね。そのまま一度ご就職なさるとよろしいと思います。あなたの夢がなにか、あなたが本当にやりたいことがなにかは存じ上げません。なんとなく生きて、なんとなく働く、を一度おやりになるとよろしく思います。するとその内、ドス黒い、願望のマグマなるものが音を立てて沸騰してくるものです。そしてそれは、ほぼ必ず爆発するようにできています。そうなった時の人間の動きは、あなたが思うよりかなり、早いものですよ。私たちは、それが不幸か幸福かはわからないけれど、本当にやりたいことからは逃げられないようにできているのですから。

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