「自分が反抗期って気づいていない、反抗期の子に読んでほしい」──人気YouTuber藤原七瀬(ナナオは立派なユーチューバー)『雷轟と猫』インタビュー

文芸・カルチャー

公開日:2022/4/2

 2022年3月時点でチャンネル登録者数24万人を超える人気YouTuber「ナナオは立派なユーチューバー」こと、ナナオさんが、藤原七瀬名義で小説『雷轟と猫』(KADOKAWA)を上梓。

 ある男子高生の歪んだ日常を描いた本書について、ご自身の家族について、影響を与えた小説について、たっぷりとお話を聞いてきました。

(取材・文=編集者F 写真=奥西淳二)

雷轟と猫
『雷轟と猫』(藤原七瀬/KADOKAWA)

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小説のほうが伝えたいことが伝わる気がする

藤原七瀬
青空の下、KADOKAWA本社にて

――近年、YouTuberのエッセイ本は数多く出版されていますが、ご自身の初著書を、エッセイではなく、あえて小説にされたのには何か理由があったのでしょうか?

藤原七瀬/ナナオは立派なユーチューバーさん(以下、ナナオ) 元々YouTubeを始める前から、いつか本を出してみたいというのがあったんです。高校3年生から大学1年生にかけて、『雷轟と猫』の元になった小説を書き上げていたので、今回出版のお話をいただいたときに、新しく書くのが手間というのはなんですけど(笑)、すでに書きあがっているものは世に出してみたいという感じでした。YouTubeもそうなんですけど、僕はつまらないと言われることに嫌悪感とか、怖いという感覚がないので、むしろ自分の当時の拙い文章のまま出してみたい、という気持ちもあって。

 それに、単純に小説のほうが自分の伝えたいことが伝わる気がするんです。YouTubeってなんでもエンタメになっちゃうから。謝罪や募金などの自分の誠意を出すこともエンタメになってしまってますよね。だから、本当のこととエンタメの境界線がYouTubeだとどうしても曖昧になってしまう。でも、小説ならもう少し説得力があって、自分の本当の性格とか、こういうことがあったんだよっていうのを出せるかなと思いました。

――「いつか小説家になりたい」という気持ちもあったんでしょうか?

ナナオ そうですね、「小説を書きたい」というより、「小説家になりたい」という気持ちだったかもしれません。YouTubeも、「YouTubeをやりたい」というよりも「YouTuberになりたい」という感じだったんですよね(笑)。いつもそんな感じなんです。YouTubeを始めたころから、「本を出しませんか?」とずっと声をかけてもらえる待ちみたいな感じで(笑)、売り込みの動画まで作って準備して待ってました。そしたら、チャンネル登録者数12万人くらいの頃にKADOKAWAさんから声をかけていただきました。

――いまやYouTubeのチャンネル登録者数20万人を突破されました!

ナナオ ありがとうございます。自分でも20万人のファンの方がついてきてくれるのは凄いことだなと思っています。

フィクションとはいえ、家族は傷つくかもしれない

藤原七瀬
おばあさまを心配する優しいナナオさん

――今回の小説は家族との葛藤もテーマのひとつですが、出版されたあとのご家族の反応はいかがでしたか? 特にお父様とか。

ナナオ たぶん、父はまだ読んではいないんですよ。父から、僕の本をすごくたくさん買ったというのは聞いたんですけど。だからちょっとは喜んでくれてたのかな。メールでのやりとりだから分からないんですけど。

 今回の小説はフィクションですけど、僕の体験をベースにしているところはあって。だから、この本を読んで傷つく人間がいるとしたら、たぶん父と祖母なんですよ。だからもし読んだら怖いなっていうのはあります。特に祖母については、小説と同じように、現実でも僕は「ばあさん」って呼んでるんですね。フィクションとはいいつつ、やっぱり傷つくかもしれないと思っていて。実は、祖母からは、今まで2日に1回くらいメールが来ていたんです。小説を出すってことになった時にも「本ができたら送ってね。(僕の)お母さんの仏壇に飾るから」みたいなことを言ってて、これはやばいなって思いました。母親の仏壇に飾るようなものではないんじゃないかと。そのメールに返信せずにいたら、メールが1件も来なくなって…。とにかく、ばあさんだけが心配です。

――でもそれはきっと優しい気持ちもあっての心配なんですよね。あくまでフィクションで、文学なんだということをご理解いただけるとよいですね…。

ナナオ はい、もし読んだとしたら「フィクションだから」と伝えます。

自身の恋愛経験は小説に反映されている…?

藤原七瀬
ナナオさんの恋愛経験、気になります!

――さて、元の原稿は4~5年前に書かれた原稿とのことですが、本が出版されるにあたって、その原稿と改めて向き合う作業はいかがでしたか?

ナナオ 地獄みたいでした(笑)。本当につらかったです。とにかく恥ずかしくて。結局ほとんど直さなくて、ラスト以外はほぼそのままです。ただ、ラストだけ大幅に変えたので、いつかどこかで公開したいと思っています。

――4、5年前の自分をかわいく思ったりすることはなかったんですか? あの頃の僕、こんなことを考えてたんだみたいな。

ナナオ 当時、この本読んでたんだな、とか、この時あのアニメ見てたんだ、とは思いました。影響を受けてるなと。

――小説にはタイプの違う2人の少女との恋愛模様も出てきます。恋愛至上主義者でどこか刹那的なキョウと、物静かで暗い陰のある本好きのアンナ。実際にご自身の恋愛経験の影響はあったんでしょうか?

ナナオ 僕の実際の恋愛経験っていうのはみじんもないですね。どちらかというと、アンナとキョウの女子2人は、アニメの登場人物のようなイメージで書きました。他のキャラクターは実写っぽいイメージで書いているんですが、あの2人だけはアニメっぽいイメージで書いていて、たぶん当時観ていたアニメを参考にしたんだろうなっていう。特にキョウのキャラクターに関しては、僕もキョウみたいになりたかったのかもしれません。僕もああいうふうになれたらなって、キョウは僕にとって憧れなのかもしれない。

もし『雷轟と猫』がアニメ化したら?

――声優さん好きでも有名ですが、もし、アニメ化するとしたら、主人公の七瀬、アンナ、キョウ、白猫のヒナタ(ヒバナ)は誰にやってもらいたいですか? 考えるのは楽しいと思うのですが。

ナナオ 全然楽しくないですよ! 発言するのがちょっと怖いですよ。なんというか、おこがましいです。

――そこをなんとかお願いします!

ナナオ 主人公の七瀬は…河西健吾さん。僕、大好きなんです。『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のオーガス役とか、『3月のライオン』桐山零役とか…。これ以上は無理です、もうおこがましくて。

藤原七瀬
インタビュー当日のファッションは、声優・花江夏樹さんの「HanaH」Tシャツ

授業さぼってでも机の下で読みたいと思った小説

――最近はよく小説も読んでいるそうですが、これまで読んだ小説で特に印象に残っているもの、ナナオさんに影響を与えたものがあれば、何冊か教えてください。

ナナオ 僕は、もともと小説が好きだったわけではないので、昔は暇つぶしとして、苦手なものに挑戦! みたいな感覚で読んでいたんですが、初めて授業さぼってでも机の下で読みたいって思ったのが貴志祐介さんの『新世界より』(講談社文庫)と『青の炎』(角川文庫)です。この2冊が初めて他のエンタメコンテンツより優先して読みたいって思った。大学1、2年生の頃ですかね。

――貴志祐介さんの作品はどれも面白いですよね。その他、なにかありますか?

ナナオ カッコつくやつあるかなって考えたんですけど…。

――カッコつけなくていいですよ(笑)

ナナオ 筒井康隆さんの「最後の喫煙者」(『最後の喫煙者 自選ドタバタ傑作集1』所収/新潮文庫)がカッコつくかなって思ったんですけど(笑)。喫煙者を排斥する話で、喫煙者差別がどんどん過激になっていって、しまいには喫煙者を殺してしまうような世界になってしまうんです。喫煙者が減っていったら減っていったで、今度は喫煙者愛護団体みたいなものができて。それに対して喫煙者の主人公は、これからまた新たないじめが始まるぞ、俺は絶対に愛護団体には頼らないと決意するという結末なんです。YouTubeでもちょっと言ったことがあるんですけど、人間関係においては、いじめっ子になるか、いじめられっ子になるか、どっちかしかなかったんですよね、僕。だからそういういじめている時しか、自分はいじめられっ子じゃないっていう安心感を得られないのかなと思っていたんですが、この小説を読んで、主人公みたいに意志を持って、誰にも頼らずタバコを吸い続けられる人になりたいなと。あと、筒井さんは同志社大学の先輩というのもあって、親近感があります。

藤原七瀬
ここはカッコつけていただきました

――『雷轟と猫』も誰かの人生に影響を与えるかもしれません。特にどんな人に読んでほしいですか?

ナナオ 反抗期の子に読んでほしいですね。反抗期の子って自分が反抗期って気づいてないでしょうし、気づきたくもないでしょうし。そして、こんなふうに一括りにされるのも嫌でしょうし。だからこそ自分で自分らしい行動ができなくなってしまって、自分で自分を苦しめている子も多いと思うので、この本で自分を上手く動かせるようになるといいなと思っています。

藤原七瀬
最後に自著を「イケメン持ち」していただきました!

【書籍紹介】
どれが僕で、どれが仮面なのかわからない――。
進学校に通う高校生の藤原七瀬。優秀だった兄は「異常な父」に反発して家出してしまったが、七瀬は父親の望み通りに淡々と勉強に励む日々を送っていた。恋愛至上主義者の同級生キョウと休日に出かけはするが、恋人というわけではない。そんなある日、人のほとんどいない図書室で、日本人形のような少女アンナに出会う。運命の出会いに心躍らせる七瀬だったが、家族の中で唯一話せる母が入院して余命宣告を受けてしまい――。「断罪の森」で七瀬の前に現れる、関西弁を話す白猫とは一体何者なのか? たくさんの仮面をつけた主人公の歪んだ世界と葛藤を、現役大学生YouTuberが鮮やかに描いた意欲作!

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