『SPY×FAMILY』TVアニメ開始! ロイド・フォージャー役を演じた江口拓也インタビュー! “家族とはなんなのか”を考える

アニメ

公開日:2022/4/17

『少年ジャンプ+』で連載中、コミックスの累計発行部数が1500万部を突破した『SPY×FAMILY』がついにTVアニメ化された。それぞれの目的のために偽りの家族となったフォージャー家に感じる、あたたかさの理由とは。そして物語が進むにつれ、何が彼らを“家族”たらしめていくのか――ロイド・フォージャー役を務める声優の江口拓也さんに、話を伺った。

(取材・文=許士明香  写真=干川 修)

「結婚して子どもをこさえろ」

 凄腕スパイの〈黄昏〉に舞い込んだのは、1週間以内に家族を作り、標的の子息が通う名門校に自分の子どもを通わせる極秘任務だった。これまで数々の顔を使い分けてきた〈黄昏〉は、凄腕スパイの威信にかけて、子持ちの男を演じると決意。ロイド・フォージャーとして新しい人生を歩み始めることになる。

「この作品は、“スパイの家族”を描くのではなく、“スパイが家族を作ったらどうなるか”を描いた物語です。スパイを生業とする以上、偽装だとしても家族という“守らねばならない存在”は弱点になりかねません。それだけで大変なのに、家族に迎えたのが、実は超能力者と殺し屋という、これまたとんでもない人たちで(笑)」

 そう語るのは、主人公ロイド・フォージャー役を演じる江口拓也さん。アニメの第1話では、ロイドと娘・アーニャの出会いが描かれる。

『SPY×FAMILY』コマ
ロイドを追う組織とのカーチェイス、爆発の中でのプロポーズシーンは、まるでアクション映画のよう

「アーニャは相手の心を読むことができる超能力者。その能力は便利な点もあって、実際アーニャはロイドの思考を読み取り、賢い子を演じていました。けれど、聞きたくないことも、興味のないこともどんどん頭の中に流れてくるし、辛いこともたくさんあったはず。それでも腐ることなく、自分の意思でロイドの元に来てくれた。とても強い子ですよね。喜怒哀楽をストレートに伝えてくれる姿も、素敵だなと思います。僕はアーニャを、“平和の象徴”のように感じているんですよ」

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 ぴょこぴょこ動き回ったり、ロイドの考えに反応して泣いたり、泣き止んだかと思えば、今度はロイドの腕の中でスヤスヤ眠ったり。はたから見れば、コロコロ表情の変わるアーニャの姿は、コミカルで可愛らしい。しかし、ロイドにとって子育ては、予測不可能な“高難度ミッション”。奮闘するロイドの表情は、冷静なスパイとは別物に見える。

「アーニャによって、“一人の人間”としての一面がどんどん引き出されていくんです。アフレコでは、スパイの〈黄昏〉と、一人の人間としてのロイドの違いをどう見せていくかを考えるのが楽しいんです」

ロイドの人間としての一面が引き出されていく

 アニメ第1話の見どころは、アーニャが事件に巻き込まれるシーン。ロイドの留守中に、通信機を使ってスパイの真似事をしたアーニャが、敵の襲撃に遭い、捕まってしまう。スパイの住む家だとバレた恐れがある以上、ロイドは今すぐ身を隠さなくてはならない。そのままアーニャを見捨てることもできた。しかし、ロイドは敵地に乗り込んでいく。その決断は、これまでの〈黄昏〉では考えられないものだ。

「人間らしい一面が垣間見えたシーンですよね。この一連のシーンの中で、ロイドがどうしてスパイになったのかが語られています。ロイドはその昔、幸せとは言い難い環境にいる、泣くことしかできない非力な子どもでした。そんな過去の自分に腹が立つし、もう自分のような子どもを見たくない。子どもが泣かない世界を作るためにスパイになったと。そこには、正義感だけではなくて、過去の自分を救いたいという気持ちもあるのかもしれません。ロイドもちゃんと血の通った人間で、スパイを続けているのには、然るべき理由があることを知り、グッときました」

 この事件を機に、棲家を変えて心機一転、標的の子息が通う名門校の受験に向けて本格的に準備を始めたロイドとアーニャ。事件の前と後では、少しだけ二人の距離が縮まったような?

「ロイドはアーニャの姿を通して自分の信念を再確認し、アーニャはロイドを“かっこいいちち”と認識した。少しだけ、相手のことを知ることができたんですよね。職業上、アーニャの存在はデメリットになることも多い。けれど、二人のやりとりを見ているうちに、メリットとまではいかないけれど、そのデメリットを打ち消すような何かが生まれていくのを感じるんです。僕は、子どものことが好きでも嫌いでもないんですけど……アーニャを見ていると情のようなものが湧いてくる。それは、ロイドを通じて、アーニャとの関係を積み重ねているからなんだなと」

 一方で、ロイドと妻のヨルとの出会いは偶然のものだった。アーニャのナイスアシストもあり、急接近した二人は、やがてお互いの目的のために偽装夫婦となる。相手がスパイ・殺し屋とは知らずに……。

「ヨルさんは、とにかくピュアな女性。ただ、そのピュアさは、“弱きは朽ちて強きが生き残る”といった、自然界の残酷な美しさに感じるものに近い。人間が勝手に決めたルールの中では語れない、神秘の存在のようにも。アーニャが“平和の象徴”なら、ヨルさんは“自然界の象徴”といったところでしょうか(笑)」

 隠しているつもりでも、ついついスパイ仕込み・殺し屋仕込みの言動をしてしまうロイドとヨル。そしてその姿を、まるでアニメを楽しむかのようにワクワクしながら見つめるアーニャ。アニメでは、彼らに声がつくことで、その様子がより立体的に見えてくる。

「アーニャ役の種﨑敦美さんの芝居は、可愛さの中に少々の毒っ気があっていいですよね。アーニャの反応はアドリブの部分も多いのですが、どれもバラエティ豊か。『どこから声が出ているんだろう』と思うことも(笑)。ヨル役の早見沙織さんの、穏やかな口調なのに物騒なセリフも、ものすごく魅力的。このご時世だけど、フォージャー家のキャスト3人は、一緒にアフレコできるように調整いただいているんですよ。掛け合いの面白さが、アニメでも存分に活きていると思います」

 アフレコ現場もフォージャー家のように賑やかなのかも?

「いえ、僕たちはワイワイするタイプではないので、まったく(笑)。コミカルなシーンも、クスッと笑って『面白いですねぇ』と顔を見合わせる程度。無言の時間があっても苦にならない、いい雰囲気の現場なんですよ」

仮初めの偽装家族が生み出すあたたかさ

 3人は“特殊さ”を隠しながら、日々を重ねていく。“家族に隠し事”というとマイナスなイメージを抱きがちだが、彼らの日々は和気藹々としていて、平和にすら見える。

「確かに彼らは素性を隠しているけれど、悪意を持って騙そうとしているわけではないんです。それに、ロイドとヨルは、家族を“普通の人間”だと思っているから、自分の特殊すぎる事情を言わない選択をするのも頷ける。とはいえ、やっぱり染み付いたものがあって、スパイっぽさや殺し屋っぽさが仕草に出てくることもあるんですよ。今のところ、うまいことバレずに済んでいますけど(笑)。この作品は、そんなヒヤリとするシーンも含めて、彼らの日々をコミカルに描きながら、ふとした日常のやりとりが、かけがえのないものだと教えてくれる。そして、僕らに“家族を家族たらしめるものはなんなのか”を考えさせるんです」

『SPY×FAMILY』コマ
過去を回顧したロイドは、子どもが泣かない世界を作るために、スパイになったことを思い出す

 江口さんは、その“家族たらしめるもの”をどのように考えるのか。

「ロイドは任務のため。ヨルは、弟を安心させ、世間に疑われることなく殺し屋を続けるため。そしてアーニャは、自分の居場所のため。それぞれの思惑は違うけれど、“家族を求めている”という部分だけを見れば、3人は目的を同じくする仲間なんです。一緒に目指すうちに、連帯感も出てくるでしょうし、周りの人間に家族と思わせるためにとった行動が、仲間を嬉しい気持ちにさせることもある。そして、アーニャだけは“自分の居場所=家族”として、まっすぐにロイドとヨルを求めてくれる。その純粋な思いに触れて、ロイドたちの感情が揺さぶられることもあるかもしれない。そういった積み重ねが、“家族”を作っていくんじゃないかと」

 アニメは2クールでの構成。仮初めの家族となったロイドたちは、これからどんな変化を見せてくれるのだろうか。

「アフレコでは、その時点でのロイドを演じているので、フォージャー家がどう変わったのか、何がロイドたちを変えたのかは、2クール目が終わってから気付くのかもしれません。僕は、この作品が伝えたいメッセージは “家族とはなんなのか”というシンプルなものだと思うんです。そしてその答えは、観る人によって違うと思う。彼らを見て“家族だな”と感じる部分が、もしかすると自分にとっての“大事なもの”なのかもしれません」

江口拓也
えぐち・たくや●1987年生まれ。茨城県出身。81プロデュース所属。主な出演作に『アイドリッシュセブン』(六弥ナギ役)、『バキ』(花山 薫役)、『遊☆戯☆王ゴーラッシュ!!』(ズウィージョウ役)など

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TVアニメ『SPY×FAMILY』キービジュアル

TVアニメ『SPY×FAMILY』

4月9日(土)23時よりテレビ東京ほかにて放送開始 世界の平和を託されたスパイ×超能力者×殺し屋 舞台は、世界各国が水面下で情報戦を繰り広げていた時代。東国(オスタニア)と長きにわたり冷戦状態にあった西国(ウェスタリス)の諜報員〈黄昏〉が任されたのは、東国の国家統一党総裁にして、東西の平和を脅かす危険人物ドノバン・デズモンドの不穏な動きを探る任務。用心深く表舞台に出ることの少ないデズモンドに接近するチャンスは、彼の子息が通う名門イーデン校で定期的に開かれる懇親会のみ。入学試験の日まであとわずか。それまでに家族を作り、子どもをイーデン校に入学させねばならない。〈黄昏〉は、精神科医ロイド・フォージャーに扮して家族を作るが、娘のアーニャは心を読むことができる超能力者、そして妻のヨルは殺し屋で……? お互いの素性を隠しながら、それぞれの目的のために家族となった彼らの、ハプニングだらけで、どこかあたたかな日常がコミカルに描かれる。

原作:遠藤達哉(集英社『少年ジャンプ+』連載) 監督:古橋一浩 キャラクターデザイン:嶋田和晃 音楽プロデュース:(K)NoW_NAME 制作:WIT STUDIO×CloverWorks オープニング主題歌:Official髭男dism「ミックスナッツ」 エンディング主題歌:星野 源「喜劇」 出演:江口拓也、種﨑敦美、早見沙織、吉野裕行、甲斐田裕子、山路和弘 ほか

登場人物

TVアニメ『SPY×FAMILY』ロイド・フォージャー

ロイド・フォージャー(CV.江口拓也) 西国(ウェスタリス)の情報局対東課〈WISE〉で最も腕が立つと言われる諜報員。暗号名は〈黄昏〉。誰かになり切ることなど朝飯前だが……任務をこなしながら、子持ちの男になりきることができるのか

TVアニメ『SPY×FAMILY』ヨル・フォージャー

ヨル・フォージャー(CV.早見沙織) バーリント市役所職員として働いているが、実は凄腕の殺し屋。暗号名は〈いばら姫〉。ロイドと利害が一致し、偽装結婚をする。おっとりした性格だが、ずばぬけた身体能力を持ち、周りを驚かせることも

TVアニメ『SPY×FAMILY』アーニャ・フォージャー

アーニャ・フォージャー(CV.種﨑敦美) とある組織の実験で偶然生み出された、心を読む超能力者。能力のことは周りに伏せている。スパイアニメとピーナッツが好きで、好奇心旺盛な自称6歳。ロイドやヨルの思考を読み、二人の力になろうと頑張る