【出張版『ダ・ヴィンチ』】5月号BL特集 担当編集者インタビュー<第2弾>大洋図書・Kさん

BL

公開日:2022/5/16

 雑誌『ダ・ヴィンチ』5月号(4月6日発売)では「百花繚乱 “美しい”BLの世界」と題した特集を実施。BL界の一線で活躍するマンガ家・小説家の皆様をはじめ、映像化・CD化作品のキャストの方々にもご登場いただきました。

 特集班では、『ダ・ヴィンチ』5月号に掲載させていただいた作品の担当編集の方々にもお話を伺いました。こちらにて、そのインタビューの様子をお届けいたします。

『オールドファッションカップケーキ』佐岸左岸さん担当編集 
大洋図書・Kさん インタビュー

『オールドファッションカップケーキ』。左が野末、右が外川


 真剣に生きる毎日に、甘い休息を。スパイスの効いた癒しの物語——昨年発表の『このBLがやばい!』2022年度版で3位、「BLアワード2021」では第1巻が「BESTコミック部門」1位、今年は第2巻が「BESTシリーズ部門」で2位を獲得した『オールドファッションカップケーキ』(佐岸左岸/大洋図書)。デキる上司・野末と、10歳年下の部下・外川を主人公としたいわゆる「リーマンもの」だ。

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 ギャップのあるカップリングはもちろん、柔らかな絵柄と丁寧な生活描写、細やかな心情表現が人気を博している。実は直でインタビューを受けるのが初めてだという、立ち上げからの担当編集者Kさんにお話をうかがった。


 「野末さんがここまで可愛くなるとは予想外でした」

 KさんにとってBLは、非日常として楽しみつつ、共感できることが魅力。練りこまれた佐岸左岸先生の台詞回しは基本的に修正の赤字を入れることがほとんどない、と語りつつも、40歳を目前に焦る野末の“年齢不詳っぷり”はKさんのアイデアが一端を担っていたようだ。

「キャララフ段階では結構“おじさん”だったんですよね。BLでは非日常感を大切にしたいので、リアリティに寄せすぎると読者の“癒し”にならない、と先生にご相談し、今の形になりました。先生とも『こんな可愛い40歳いませんよね(笑)』と話しています」

ライトに読んでも癒される世界観と、読み応えの両方がある作品


 作家の描けるもの・描きたいものを引き出す編集者の役割と共に、Kさんが大切にしていることがある。Kさんが読者としてイメージしているのは、大人の女性たち。

「仕事や家庭で担う責任が大きくなっている年代。当事者として“疲れている”方が多いと思うんです」

 ご自身とも近しい年代ということで、読者の反応を自分に照らして想像することも多い。

「この作品は『癒される』『可愛い』という印象もありますが、作品の中に『生きづらさ』みたいなものが必ず入っています。キャラクターたちがその中で(生きづらさを)咀嚼していくところが好きです。ライトに読んでも癒される世界観と、読み応えの両方がある作品です」


 39歳という野末の年齢も、読者同様悩み多き年代だ。

「わたしは、社会人としての成人が40歳なのかなって捉えていたんです。仕事を始めて1周〜2周くらいまわって、その先に何があるのかって考えて、思い悩む節目の年齢かなと。野末さんの場合はアンチエージングをしようと思ったり、年下の部下と付き合って節目に変化が訪れました。ネタ出しの段階で、40歳という年齢が“二度目の成人”だと言ったら、先生も腑に落ちたような反応をされていた記憶があります」

 このときのKさんの言葉からか、「二度目の成人」は実際に作中でも登場した。

 先生の作風をKさんは「温かい世界観の中に辛めのスパイスを放り込んでいく」と表現する。甘くてゆるく見える二人の関係の中に、人生の機微という隠し味が効いているイメージだろうか。複雑な味に深みが出るように、この作品には心情や風景に独特の立体感がある。野末も外川も、人生に、恋愛に、キャリアに悩み、もがきながら答えを探していく。その姿に知らず知らず共感する読者も多いのだろう。

読者に向けて嘘がないように、求められているものを届けていく

 仕事に生活に忙しく過ごした後、温かい飲み物を片手に物語に癒される—―。Kさんのお話を聴きながら、そんな情景が浮かんできた。

「もし機会があるのならば、毎日の生活にいっぱいいっぱいになっている方にもお読みいただきたいです。生きづらさにそっと寄り添って、停滞の中に一筋の光をくれるような作品だと思います」

 前述の通り多くの賞を受賞し、ドラマCDも好評。現在3巻を制作中だ。作品の、編集者としてのご自身の、今後の目標について最後にうかがった。

「読者に向けて嘘がないように、求められているものを届けていくことを大切にしています。編集者個人としてはこれまでと変わらず、一つ一つの作品の先に読んでくださる読者がいることを想定し、予想以上の面白さを届けていきたいです」

 作家が生み出すBLという“癒し”を、手渡すように届けたい。作家と伴走する編集者の誠実な思いを、ぜひ作品から感じてみてほしい。

文=葦より子

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