30万部突破「電子書籍化は不可能」”体験型”感動ミステリー。年末年始に読みたい心温まる小説4選

文芸・カルチャー

公開日:2024/1/1

 怒涛の忙しさを乗り越えて、ようやくやってきた年末年始の休日。凍えるような寒さの外にお出かけするよりも、家でぬくぬくと読書に励みたいという人も多いのではないだろうか。そこで「年末年始に読みたい、心温まる小説」を4冊ご紹介する。これを読めば、冬の寒さなど関係ない。身も心もぽかぽかと温められるだろう。

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●【本屋大賞2023ノミネート】涙なしには読めない栄養満点小説『宙ごはん』

宙ごはん
宙ごはん』(町田そのこ/小学館)

 決していいことばかりではなかった2023年。そんな出来事をどうにか消化して心に栄養を蓄えたい——そんな人にオススメしたい本が、『宙ごはん』(町田そのこ/小学館)。あたたかい料理と、母娘の姿を描き出したこの作品は、『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ/中央公論新社)で本屋大賞に輝いたことで知られる町田そのこさんの傑作だ。

 小学生から中学生、高校生へと成長していく少女と、大人らしいことは全くできない母親。そんなふたりの日々は決してほんわかしたものではない。ときには身を裂かれるような辛い出来事や悲しみだって描かれている。だけれども、この本は、思うようにいかない毎日を過ごす私たちをそっと抱きしめてくれるかのよう。この本で描かれる美味しい料理が、人々の愛が、やせ細った心に栄養を与えてくれる。

 大人だって、成長できる。どんな出来事だって、きっと乗り越えられる。この本は、私たちに忘れがちなことを思い出させてくれる。読めば読むほど、心に栄養が行き渡っていく、そんな栄養満点の物語を、ぜひともあなたも堪能してみてほしい。

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●【芥川賞候補作】青春のすべてが詰まった、高校生たちの1日限りの冒険譚『それは誠』

それは誠
それは誠』(乗代雄介/文藝春秋)

 新しい年をがむしゃらに突っ走れるような活力がほしい——そんな人にオススメしたいのが、『それは誠』(乗代雄介/文藝春秋)。この本で描かれるのは、高校生の冒険。生き別れになった大好きな「おじさん」に会いたいがために、修学旅行からの大脱走を企てる高校生と、それに付き合う友人たちの姿だ。まるでこちらに語りかけるかのような、この物語の口語体の自分語りは、とても読みやすく、没入感たっぷり。すぐに、高校時代の、懸命に生きていた自分を思い出させてくれるだろう。

 ほのかな恋心、生まれる嫉妬、育まれる友情。どうしようもない切なさと、痛み……。この本には、爽やかな青春のひとときがギュッと詰め込まれている。読書家たちはもちろんのこと、普段、あまり読書をしない人も、はたまた、青春時代などすっかり遠のいてしまったという人も、胸がいっぱいになるに違いない。高校生たちのまっすぐな姿に、きっと誰もが勇気をもらえるはず。さぁ、あなたも、高校時代に戻って、ささやかな冒険の旅へと出かけよう!

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●事情も年代も異なる学生たち…「学ぶ」ことの楽しさを思い出させてくれる『宙わたる教室』

宙わたる教室
宙わたる教室』(伊与原新/文藝春秋)

 新しい年、新しい何かを学び始めたい——そんな人は、「学ぶ」ことの楽しさを思い出させてくれる『宙わたる教室』(伊与原新/文藝春秋)を読んでみてはいかがだろうか。この本は、「好奇心」というものが人を変えていくことを温かく、みずみずしく描き出した青春科学小説。「もっと知りたい!」「試してみたい!」「作ってみたい!」。そんな思いを燃え上がらせる人々の姿を目の当たりにすれば、学ぶことへの意欲がむくむくと湧き上がってくるだろう。

 舞台は、さまざまな事情を抱えた生徒たちが通う東京の定時制高校。ある理科教員は、年齢も個性もまるで違う生徒たちとともに「科学部」を立ち上げる。そして、学会で発表することを目標に「火星のクレーター」を再現すべく実験に夢中になるのだ。「学ぶ」のは何歳からでもできる。「学ぶ」ことで人が変わっていく。「学ぶ」ことの楽しさを思い出させてくれるこの本をお守りに、新しい年、新しい何かを学び始めてみませんか。

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●「電子書籍化は不可能」”体験型”感動ミステリー『世界でいちばん透きとおった物語』

世界でいちばん透きとおった物語
世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光/新潮社)

「2023年に話題になった本を読みたい」というならば、『世界でいちばん透きとおった物語』(杉井光/新潮社)は外せないだろう。累計発行部数30万部突破。なぜこの本が話題を呼んでいるかといえば、「ネタバレ厳禁」の大きな仕掛けが隠されているためだ。ごく普通の文庫書き下ろしで、挿絵があるわけでも変わった装飾があるわけでもないのだが、「電子書籍化は絶対不可能」。紙の本ならではの体験ができるこの本は、読む者に大きな感動を与えてくれる。

 この物語は、ある大御所ミステリー作家の遺稿を探すミステリーだ。もちろんミステリー小説としても、エンターテインメント小説としても面白いのだが、仕掛けと物語が密に絡み合っているのが、実に見事。……何を言ってもネタバレになってしまうから説明が難しいが、この物語にとって、この仕掛けには必然性があるし、この仕掛けがなければ、この物語は存在しえない。その謎が解けた時、言葉を失う。と同時に、そこに込められた思いに胸が熱くなる。この驚き、感動は何物にも代えがたい。きっと、あなたにとっても、忘れられない読書体験になるに違いない。

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 少しゆったり過ごせる年末年始。あなたも、小説でぽかぽかと心を温めて、新しい年、前向きに過ごすための英気を養ってみては。

文=アサトーミナミ

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