世界で最も成功した作家のひとり、ホラーの帝王 スティーヴン・キング。おすすめ小説を厳選・6作品を紹介

文芸・カルチャー

公開日:2024/5/10

ホラーの帝王「スティーヴン・キング」をご存じでしょうか。
もしかしたら、小説というよりは映画のほうが日本人にはなじみがあるかもしれません。
ペニーワイズという名のピエロが子どもたちを恐怖に震え上がらせる「IT」、突如街を襲った霧と姿の分からない異生物からの攻撃から生き抜こうと奮闘し、最後にはあまりに残酷な結末を迎える「ミスト」、頭のおかしくなった父親が斧で木の扉を突き破って顔を出す「シャイニング」……。
スティーヴン・キングは今年、作家デビュー50周年を迎えます。そんな彼の小説をいくつか紹介します。

スティーヴン・キング
1947年、アメリカ、メイン州ポートランド生まれ。英語教師のかたわら小説の執筆をつづけ、1974年『キャリー』で作家デビュー。専業小説家となってベストセラーを連発し、「モ ダン・ホラー」の旗手となる。以来50冊以上の本を出版し、ブラム・ストーカー賞、世界幻想文学大賞、エドガー賞、米国ナショナル・ブック・ファウンデーション・メダルなど多 数の賞を受賞する。『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』『IT』ほか映像化されて大ヒットを記録した作品も多く、世界で最も成功した作家のひとりと言われる。(Amazon著者紹介ページより引用)

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■スティーブン・キングが描くのは“怖さ”だけではない。『キャリー』で魅せる」、“切なさ”や“爽快感”

キャリー
キャリー』(スティーブン・キング:著、永井淳:訳/新潮社)

 スティーブン・キング氏が描くホラー作品には何度も背筋を凍らされた。『IT』『グリーンマイル』『シャイニング』などは誰もが一度は聞いたことがあるはず。どの作品もジャパニーズホラーに多く見られる「一気に畳みかける怖さ」とは違い、じわじわと追い詰められるような怖さが代名詞と言えるだろう。しかし、本記事で紹介する『キャリー』は、怖さもあるが、切なさや爽快さを強く感じる作品だ。

 主人公はテレキネシスの能力を宿した少女、キャリー。普通なら同級生と楽しく青春を送る時期だが、彼女は、狂信的なクリスチャンである親からの抑圧や、クラスメイトからのいじめによって地味な生活を送ることしかできずにいた。そんな生活に孤独と鬱屈を抱いていたキャリーだったが、ある日、学内でもトップクラスの美男子で女子から人気を集めるトミーからプロム(アメリカの高校で卒業する学生のために開かれる最大級のダンスパーティ)に誘われる。しかしキャリーは、トミーがいじめの加害者の一人、スーと付き合っていることを知っていた。そのため、「この誘いは私を陥れる罠だ」と感じてしまう。ただこの誘いは、スーの反省とキャリーへの罪滅ぼしから提案されたこと。学生生活の最後くらい、キャリーにプロムで楽しい思い出を作ってほしいという願いからだったのだ。

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■ホラーの帝王S・キング『ミザリー』ってどんな話? 熱すぎるファンの狂態に懲り懲りした経験が詰め込まれた一冊

ミザリー(文春文庫)
ミザリー(文春文庫)』(スティーヴン・キング:著、矢野浩三郎:訳/文藝春秋)

 ファンはアンチより面倒な存在だ。「ファンビジネス」で生きている人と飲み屋で出会うたび、そんな愚痴を聞かされる。ゴールデン街で知り合ったとある物書きは、「新作が期待と違ったと、読者から苦情のメールが届いた」とため息をついていた。これを読んでいるあなたも、一度くらいは思ったことがあるだろう。こんなに素敵な作品を描いているのだから、作者はきっと人格者だ。大好きな作品の最新話の展開が納得いかない。なぜ作者はあのキャラクターを殺したの、許せない。

 ときに創造主に、ときに作品に、私たちファンは勝手な幻想や期待、失望を抱いてしまう。そんな作家とファンの歪な関係から生まれる恐怖を描いた作品が、スティーヴン・キングの名作『ミザリー(文春文庫)』(文藝春秋)だ。

 大衆向けロマンス小説「ミザリー」シリーズでベストセラー作家となった、主人公のポール・シェルダン。ミザリーシリーズの新作ばかり求められることに辟易した彼は、ヒロインのミザリーを殺してシリーズに終止符を打つ。最終巻の刊行を待つ間に新たな小説を書き上げたポールは、原稿を手に車を走らせていた。しかし途中で事故に遭い重傷を負ったところで、偶然通りがかった元看護師のアニー・ウィルクスに助けられる。アニーは「ナンバーワンの愛読者」を自称する熱狂的なミザリーのファンだった。彼女の家で献身的な介護を受けるポール。しかしシリーズ最終巻「ミザリーの子供」が発売されたことで、結末に納得のいかないアニーに“書き直し”を強要されることとなる。

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■ディカプリオ主演で映画化が噂されるクライム・サスペンス。小説家に扮した殺し屋が街に潜入する、奇妙な暗殺計画とは

ビリー・サマーズ
ビリー・サマーズ』(スティーヴン・キング:著、白石朗:訳/文藝春秋)

 2024年、デビュー50周年を迎える“モダン・ホラーの帝王”ことスティーヴン・キング。『IT』『シャイニング』『ミザリー』など映像化された作品も多く、映画でその世界に触れた人も少なくないだろう。ホラー以外にも、超能力ものの『キャリー』、青春小説『スタンド・バイ・ミー』など、ジャンルの枠にとらわれない作品を数多く生み出している。

 このたび邦訳版が刊行される『ビリー・サマーズ』(スティーヴン・キング:著、白石朗:訳/文藝春秋)は、ホラーではなくクライム・サスペンスに分類される一作だ。上下巻合わせて600ページ超、しかも上下2段組という大ボリュームだが、中盤以降はページをめくる手が止まらず一気読み必至。その序盤の展開を紹介しよう。

 ビリー・サマーズは、44歳の殺し屋。悪人しか殺さないことを信条に裏稼業を続けてきたが、そろそろ引退を考えていた。そんな彼が、200万ドルという破格の報酬で最後の仕事を請け負うことに。標的はジョエル・アレン。ロサンジェルスの刑務所に拘置されている殺し屋だ。

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■ホラーの帝王 スティーヴン・キングのじわじわ怖い短編集『深夜勤務』。30年前に死んだはずの人が復讐を開始する…!?

深夜勤務
深夜勤務』(スティーヴン キング:著、高畠文夫:訳/扶桑社)

 ホラーというジャンルは何に描かれるかによって怖さの種類が変わると思っている。漫画では、ページをめくると「わっ!」と驚くような恐怖が描かれ、アニメーションや映画ではシーンが変わる瞬間に幽霊が登場し、視聴者を恐怖のどん底に落とすのがスタンダードだろう。

 では、小説はどうか。本記事で紹介する『深夜勤務』(スティーヴン キング:著、高畠文夫:訳/扶桑社)では、漫画やアニメーションのような一瞬の怖さは感じられないが、常に不気味さと怖さが入り混じったじっとりとした恐怖を感じることができる。びっくりする恐怖が苦手な人におすすめの作品だ。

 本作は10の作品が綴られている短編集だ。話の一つひとつにつながりがないため、どの話からでも読み始めることができるようになっている。タイトルを見て直感で気になる話から読み進めていくのも一興だろう。すべての作品からは徐々に迫りくる気味の悪い恐怖を感じたのだが、個人的に最も感じられたのは第9話「やつらはときどき帰ってくる」だ。

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■ホラー映画『シャイニング』ってどんな映画? 記憶に残る、斧で扉をぶちやぶった狂気のシーンの秘密

シャイニング
シャイニング』(スティーヴン・キング:著、深町眞理子:訳/文藝春秋)

「ホラーの帝王」といわれるスティーヴン・キング。2024年は同氏のデビュー50周年イヤーだ。著作の中でも映画化されて特に有名なホラー映画『シャイニング』(スタンリー・キューブリック監督/1980)を紹介する。

 舞台はアメリカ、自然豊かなコロラド州。山奥の豪華なホテルの管理人職を得た小説家志望のジャック(ジャック・ニコルソン)は、妻・ウェンディー(シェリー・デュヴァル)と、霊感の強い息子・ダニー(ダニー・ロイド)と共に、冬の豪雪の間の管理人として住まうことになる。実は過去に管理人が家族を惨殺するという事件が起きており、ホテル全体がさながら「事故物件」のようであることが明らかになってもジャックは気に留めない。しかし、ダニーの持つ「シャイニング」(テレパシー)の力は、ジャック一家が恐怖の世界に迷い込んでいくことを予期していた…。

 着飾った双子の少女が廊下でじっとこちらを見つめている。女性が逃げ惑いドアのそばに隠れていると斧がドアを突き破り、狂った男がドアの隙間から顔を出す。『シャイニング』を観たことがなくても、こういった場面抜粋を見たことがある方は多いのではないだろうか。観たことがなくても「ああ、あの映画ね」となるような作品だと思う。

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■後味が悪すぎるホラー映画『ミスト』ってどんな話? 原作者スティーヴン・キングが絶賛した結末までの描かれ方に注目

ミスト 短編傑作選(文春文庫)
ミスト 短編傑作選(文春文庫)』(スティーヴン・キング:著、矢野浩三郎ほか:訳/文藝春秋)

 街なかに霧が出ているのを見ると、映画『ミスト』を思い出す。霧の中で、何か化物が出てきやしないかと、ワクワクと妄想に浸ってしまうホラー好きもいるはずだ。アメリカで2007年に公開され日本では2008年に公開された『ミスト』は、15年以上たった今もなお観た人の印象に残り続けている。

 映画『ミスト』は、スティーヴン・キングの1980年に発表された中編小説『霧』が原作のSFホラー。アカデミー賞で7部門にノミネートされた『ショーシャンクの空に』や『グリーンマイル』の監督である、フランク・ダラボンが監督脚本を務めた。キング作品の『ドリームキャッチャー』にも出演したトーマス・ジェーンが主人公のデヴィッド・ドレイトンを演じた。

 物語は、災害級の嵐の後に主人公が幼い息子と隣人と、スーパーマーケットへ買い物に行くところから始まる。すると、買い物中にすさまじい勢いで霧が発生する。そのさまはこれから何が起こるのかと恐怖心を運んでくるが、先が見えない濃い霧の中からやってきたのは謎のモンスターたちだった。彼らはバラエティ豊かで、見るものを飽きさせない。キバと口の付いた触手が巻きついてきたり、巨大蜘蛛のような生き物が酸性の糸で襲ってきたり人に卵を産み付けたりする……。動いている人は無視せずきちんと襲いなさいと、マナー研修でも受けたかのように情け容赦なく人を襲う。本能に忠実に動いているだけかもしれないが、そこまでお腹が空いているの? 苗床足りないの? と突っ込みたくなる。

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