「専門家会議」とは何だったのか? 事実は小説よりも奇なり。注目のノンフィクション本3選

文芸・カルチャー

更新日:2021/11/4

 11月10日、全国の書店員が選ぶ「Yahoo!ニュース 本屋大賞 2021年 ノンフィクション本大賞」が発表される。

 ノミネートされた6作品は個性豊か。コロナ禍で中止になった甲子園をめぐる選手と監督の思いに迫る『あの夏の正解』(早見和真/新潮社)、沖縄の人々の想いを、研究者として母として記録した『海をあげる』(上間陽子/筑摩書房)、「グリコ森永事件」犯人グループの姿が浮かび上がる『キツネ目 グリコ森永事件全真相』(岩瀬達哉/講談社)、福島のしいたけ農家出身の著者が故郷と向き合う『ゼロエフ』(古川日出男/講談社)、両手の指9本を失いながら“七大陸最高峰単独無酸素”登頂を目指した登山家の生き様『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(河野啓/集英社)、コロナ対策の舞台裏を詳らかにする『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』(河合香織/岩波書店)…。

 2020年は『エンド・オブ・ライフ』(佐々涼子/集英社インターナショナル)が受賞し、話題を読んだ「ノンフィクション大賞」だが、毎年ノミネート作は、どの作品が受賞してもおかしくはない名作が勢揃いなのだ。

advertisement

 そこで、本記事では、2020年と2021年の「ノンフィクション本大賞」ノミネート作の中から、注目作品を3つご紹介する。胸に迫る脚色なしの物語にあなたも圧倒されること間違いないだろう。

『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』(河合 香織/岩波書店)

『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』(河合 香織/岩波書店)


新型コロナウイルス対策の「専門家会議」とは何だったのか? 政府と専門家の主張が異なるワケ

 新型コロナ感染症の流行が拡大する中、政府と専門家の主張の違いに困惑させられたことは少なくはなかった。2021年のノミネート作品『分水嶺 ドキュメント コロナ対策専門家会議』は、新型コロナウイルスの対策において医学的な見地から“助言”を行ってきた「新型コロナウイルス感染症対策専門家会議」の5カ月を振り返る一冊。政府と専門家たちの対立、軋轢を垣間見ることができる作品なのだ。感染拡大へ待ったなしの状況の中で、エビデンス(証拠・根拠)が出揃う前にそれまでの経験や知見をもとに対策を進めていこうとする専門家たちと、十分なエビデンスが揃わないと動けない政府・官僚組織。両者の間には、ずっと大きな溝があったのだという。「専門家会議」は2020年7月3日に正式に廃止され、「新型コロナウイルス感染症対策分科会」として発足して現在に至る。立場の異なる人間たちがどう足並みを揃えてコロナ対策を進めていくのか。その苦労に、頭の下がる思いになる一冊だ。



詳細を読む

『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』(高橋ユキ(タカハシユキ)/晶文社)

『つけびの村  噂が5人を殺したのか?』(高橋ユキ(タカハシユキ)/晶文社)

平成の八つ墓村――「山口連続殺人放火事件」はなぜ起きた? 事件の真相に迫る

 2013年7月21日、山口県周南市にある限界集落で、後に「山口連続殺人放火事件」と呼ばれる凄惨な事件が発生した。集落に住む5人の高齢者が殺害され、被害者宅が放火されるという忌まわしい様相は瞬く間にニュースの一面に。この事件に真正面から切り込み、真実に迫ろうとするのが、2020年ノミネート作品『つけびの村 噂が5人を殺したのか?』である。本書を読み進めていくと、閉鎖的な村社会の恐ろしさが浮き彫りになってくる。それと同時に、犯人をただ断罪する、という安易な結論ではいけないような気がしてくる。この事件はかなり複雑。無意識の人の悪意が絡み合い、起きてしまったものなのだ。無責任な発言が、恐ろしい犯罪者を生み出すことにもつながりうる――。本書は「山口連続殺人放火事件」の真相を通じて、ぼくら現代人に警鐘を鳴らしている。



詳細を読む

『女帝 小池百合子』(石井 妙子/文藝春秋)

『女帝 小池百合子』(石井 妙子/文藝春秋)

100人以上の関係者の証言によるノンフィクションに戦慄する…!

『女帝 小池百合子』は、現東京都知事・小池百合子の姿を描いた2020年ノミネート作品。出版直後からSNS上で多くの政治関係者や作家、ジャーナリストらが「多くの人に読まれるべき」だと話題にしている書籍である。本書によれば、小池氏の身の処し方はある意味では一貫しているらしい。組織の上の人間と繋がっていることをアピールして優位に立ち、下位の者を従わせる。キャッチーなフレーズを提示し、パフォーマンス先行で実務は後回し。紅一点を好み、ライバルは潰すという。痛いところを突かれたら得意の横文字で話をはぐらかす。自己プロデュースでのし上がっていく……こうした「世間には見えていない小池百合子の深淵」に、著者は次々と光を当てていく。小池氏はこの本に何を思うのだろう。次々と暴かれる内幕、これまでの所業に、戦慄せずにはいられない一冊。



詳細を読む

 事実は小説よりも奇なり。徹底的な取材によって丹念に書き連ねられた記述は、私たちに今まで知られなかった世界を突きつけてくる。実際に起きた出来事の数々に、魂が震えるような思いになる。「ノミネート大賞」をきっかけに、ぜひともあなたも、話題のノンフィクション作品を試してみてほしい。「ノンフィクションは読んだことがない」という人でも、ひとたび作品を読めば、この刺激にハマり込んでしまうだろう。

文=アサトーミナミ

あわせて読みたい