最新作『旅猫リポート』が自身の脚本で4月に舞台化! 有川 浩スペシャルインタビュー
更新日:2013/8/13
ありかわ・ひろ●高知県出身。2004年『塩の街』で第10回電撃小説大賞<大賞>を受賞しデビュー。「図書館戦争」シリーズで第39回星雲賞日本長編作品部門を受賞。昨年BOOK OF THE YEAR総合第1位となった『県庁おもてなし課』と、『図書館戦争』が2013年に実写映画化。
――演劇という表現ジャンルに興味を抱かれた経緯を教えて下さい。
有川 元々は『図書館戦争』の柴崎役でご縁があった沢城みゆきちゃんが当時所属していた「Theatre劇団子」の公演を観に行ったことです。
目の前で生身の役者さんが感情をぶつけてくる舞台の迫力に圧倒されました。
また、集団で一つの物語を作っている彼らがとても楽しそうで、そこにも惹かれました。
――これまで有川さんは、『もうひとつのシアター!』『ヒア・カムズ・ザ・サン』『キャロリング』と、3作の演劇に関わってこられました。3作に関わったことは、ご自身にとってどのような体験となりましたか?
有川 キャラクターへのアプローチを考えるようになりました。優れた役者さんはそのキャラクターになりきって舞台の上の二時間を生きています。舞台の上の一挙手一投足までそのキャラクターとして動いています。
作家は一人に入り込みすぎると物語のバランスが崩れてしまうこともあるので、一概に真似はできませんが、それでもキャラクターに寄り添うときの角度を変えてみるとか、いろんなアプローチが残されているなと勉強になりました。
――演劇ユニットを旗揚げし、『旅猫リポート』を上演しようと思ったきっかけを教えて下さい。キャストやスタッフは、どのように選ばれていったんでしょうか?
有川 『もう一つのシアター!』で、「演劇集団キャラメルボックス」の阿部丈二くんが主人公の春川司役を演じてくださったのですが、このときの司がすばらしかった。自分のキャラクターなのに、「司ってこういうときにはこういう感じなんだ」という「私の知らなかった司」を逐一見せていただいたんです。
それで、次はぜひ最初から一緒にやらせていただきたいと声をかけました。
キャストとスタッフは、阿部くんと相談しながら決めていきました。私は演劇のほうの人脈はまったく分からないので、阿部くんの目を信頼するしかない。でも、最善の人選をしてもらったと思っています。
――『旅猫リポート』は小説を先に書き上げ、次に脚本を書いたと伺っています。脚本家作業で苦労された点、注意した点、楽しまれた点などをお伺いできればと思います。
有川 とにかく物語の尺が上演時間内に収まるか心配で心配で。自分の作品だから誰にも怒られることないや、と遠慮なくばんばん切ってたら、阿部くんに「切りすぎです」と怒られました(笑)。
でも、阿部くんの言うことを聞いてたら、「この場面が惜しい」「この台詞が惜しい」とどんどん尺が増えていくんです。
そろそろ私が「惜しむな!」と怒る番かな、と(笑)
それから、役者さんによく言われるのが「台詞のリズムはすごくいいんだけど、いざ口に出すと息継ぎのポイントが分からない」ということ(これは『キャロリング』のときに成井豊さんにも言われました)。
『図書館戦争』のとき、早口言葉のような決め台詞が堂上役の前野智昭くんからとても不評だったので、舌が回りにくい言葉は避けるようにしてたんですが……次の課題は息継ぎですね(笑)。
――日本全国を舞台にしたロードノベル、しかも主要登場人物は(人間の言葉は聞こえるけれど、人間に言葉は伝えられない)しゃべる猫。どのように演劇で表現されるのか、とても楽しみです。舞台の見所を教えていただけますか。
有川 猫耳はつけません(笑)。
でもべらべらよく喋ることは原作と変わりません。
人間が猫を演じるわけですから、本当に上手い役者さんじゃないと成立させられない。ナナ役の役者さんは、阿部くんが「この人だったらナナを任せられる」と連れてきた人です。
軽妙な台詞回しや動きは、絶対にご覧になる方を裏切らないと思います。
――稽古場では、どんな化学反応が起きていますか? 自分の書いた物語、登場人物が、生身の俳優の手により命を吹き込まれていくことの意味性や期待感など、お伺いできればと思います。
有川 化学反応というと激烈なイメージがありますが、みんなで大事に醸成している感じです。一歩を動くにも意味を考え、効果を考えながら決めています。
演出家の白坂恵都子さんは自分のセンスやイメージで突っ走る人ではなく、役者一人一人の意見を吸い上げてよく考えてくれる人です。私が小説を書く上で一番大事にしていることは、自分以外の人と意見や感性を交流させる「脳のセッション」ですが、同じことを大事にしてくれているなと感じます。
個性の強い人が集まっているので、まとめ上げるのは大変だと思いますが、きっと本番には素晴らしい鼓動が生まれているはずです。
――演劇にはあまり親しくない、初めて見るという人も少なくないのではと思います。そんな読者のために、背中を押す言葉をいただけますでしょうか。
有川 何しろ価格が高い! その点で、他のエンタテインメントよりもハードルが高いと思います。
ですが、役者が目の前で、生身の感情をぶつけてきてくれるカタルシスは格別です。自分の感性と合致した舞台は10回続けて観ても飽きません。10回目でも初めて観たときのように感情を揺さぶられ、泣いたり笑ったりできます。こんなエンタテインメントは演劇だけです。
しかも、同じ場面であっても、それは「同じ涙」「同じ笑い」ではありません。同じ公演期間中でも、お客さんの反応は回ごとに微妙に違います。今日はここでウケた、とか、今日はここで泣く人がいた、とか。
役者もスタッフもお客さんも生身の人間だからです。
一期一会のお客さんの気持ちを震わせるために、キャスト・スタッフ含めて数十人が奮闘しています。
劇場という同じ空間に居合わせた人たちの感情が響き合う、そんな楽しさをぜひ味わいに来てください。
『旅猫』を観た後に、「また演劇を観てみたいな」と思っていただけたら、とても幸せです。
――原作小説を読み終えた人ならきっと、誰もが思い出すのは感動的なラストシーンで現れる「地平」です。舞台ではその「地平」がどのようなものとして現れ、どんな気持ちで観劇を終えることになるのか。小説から演劇へ、改めてこの物語と向き合った有川さんが今、実感されている、この物語に込めたメッセージを教えて下さい。
有川 出会いにはいつか必ず別れがやってきます。
時間を止めることができない以上、別れは絶対に避けられないものです。
いつかやってくる別れを思うと、胸がつぶれそうになることもあります。
ですが、たとえその日が訪れたとしても、涙を越えて最後に残るのは「会えてよかった」だと思います。
「会えてよかった」と思えるように、好きな人たちとの「今」を大事にしよう。
ナナという猫とその飼い主が私に教えてくれたことです。
質問文構成=吉田大助
公演は4月3日(水)~7日(日)、
新宿・紀伊國屋サザンシアターにて。
チケット好評発売中!
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お見逃しなく。