「今でしょ!」カリスマ予備校講師・林修氏のユニークな経歴

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更新日:2013/3/1

 「いつ買うか? 今でしょ!」というフレーズが妙に耳に残るトヨタのCM。カメラに向かって訴えかけるのは東進ハイスクールの現代文講師・林 修だ。以前にも東進ハイスクールのCMに出演し、個性的な講師陣のなかでも、ひときわエネルギッシュな眼差しが印象的だった。

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 しかし、予備校という世界は一部の受験生だけが知る世界。彼は一体どういった人物なのだろうか? 日本トップクラスの予備校で人気を獲得するには相当な人間力が求められるはず。受験生でなくとも、彼の考え方に学ぶべきことは大いにありそうだ。そこでオススメしたいのが昨年3月に発売された『いつやるか? 今でしょ!』(林 修/宝島社)である。

 そのものズバリの名文句がタイトルとなっているわけだが、冒頭でこの言葉が生まれた経緯が語られている。若い頃の著者は「わかりやすい授業」を目指し、生徒からも評価されていた。しかし、「何か違う」という思いが消えなかったという。そんなとき部屋から1枚の紙切れが出てきた。それは、父が勤めていた会社で配布されたアメリカの政治家の言葉で、こう記されていた。

 「かのギリシア・ローマの昔、キケロが演説を終わったとき、民衆は『なんと雄弁だろう!』と感服した。しかし、デモステネスの演説が終わると今度は、口々に叫んだ『さあ、行進しよう!』と」

 これを見て、生徒を単に「感服」させるのではなく、「行進」させることこそ予備校講師の真の仕事だと気づかされたそうだ。

 本書は参考書ではなく、受験にも仕事にも役立つ自己啓発書といった内容。思考の鍛練法から恋愛指南まで幅広いが、全体を通して林 修の生き方が見えてくる。さすがに現代文の講師だけあって、文章はわかりやすく論理的。それでいてアグレッシブだ。読んでいると彼の元気が伝わってくるかのよう。生徒から「先生はどうしてそんなに元気なんですか?」と質問されたことがあるそうだが、彼の元気の源は、とにかくよく歩くことらしい。

 以前、生徒の支持率が上がらず悩んでいた若い講師に対し、「まず車で通うのをやめたら?」とアドバイスしたそうだ。一見、何の関係があるのかわからないが、「歩きながら考える習慣」を薦めているのである。早く歩けば、目が動きまわり、脳が活性化されてアイデアが次々生まれるのだそう。このように、語られるアドバイスはいずれも今すぐにでもできそうなことばかり。

 また、ユニークなのが自身のギャンブル遍歴について語った最終章。高校時代から麻雀に明け暮れ、大学時代はパチンコ、卒業後は競馬に熱中した。負けた金額は相当な額だが「高い授業料」だと考えている。今の仕事に就き、順調にやってこられているのもギャンブルを通じて養われた感覚によるものだという。そのひとつが「流れをとらえる眼」だ。

 東京大学法学部を卒業後、林修は日本長期信用銀行に就職した。ときはバブル絶頂の1989年。新卒の給与が30万円を超える時代で、社員全員が浮かれていた。しかし、若き日の著者はそんな状況にずっと違和感を持っていた。ギャンブルで培われた勘で「遠からず、流れは変わるだろう」と感じていたのだ。その直感に従い、わずか半年で退職してしまうのだから驚く。その後、バブルは崩壊し、98年に長銀は倒産してしまう。

 流れはいつか変わる。そして、悪い流れは「飽き性」なのだと著者は言う。東進という予備校は、野球でいうと巨人やヤンキースみたいなもの。次々と業界のトップ講師が引き抜かれてきて、なかなか自分に出番が回ってこない時期もあった。だからといって、焦っても腐っても諦めてもいけないと著者は言う。いつか流れは変わると信じて、授業内容のさらなる改善に努めた。そして、いい流れが来たときこそ全力で動くのだ。そうした自らの経験が、著書の言う「今でしょ!」という言葉に表れているのかもしれない。

文=大寺 明