書き下ろし文庫毎月刊行&今秋映画化――福井晴敏が『人類資金』に込めた“提案と願い”とは?

文芸・カルチャー

更新日:2017/11/23

 10月19日から公開される映画『人類資金』。原作は福井晴敏、監督は阪本順治という『亡国のイージス』コンビが選んだ今回のテーマは「経済」。かねてから、M資金を映画の題材にしたいと考えていた阪本から福井にオファーがあったのは2006年3月。リーマン・ショック、東日本大震災という日本を揺るがす大激震を経て、いま描くべきものは「金」と、福井は自らの提案も盛り込んだ初めての経済小説に挑んだ。福井のプロットから、映画の製作、小説の執筆がスタート。本作を通して、彼らが問いたかったものとは一体なんなのか。『ダ・ヴィンチ』10月号では『人類資金』を特集、福井晴敏にインタビューを行っている。

 敗戦直前、旧日本軍の手によって隠匿された金塊などの財宝が、占領下の時代、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)によって接収され、極秘に運用されてきた。その名を。映画の題材としてM資金に魅力を感じていた阪本から一緒に作品をつくることをもちかけられた福井だったが、偶然にもデビュー前の習作で描いたことがあったという。

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「といっても、脇役のひとりにM資金詐欺を働く男を登場させただけなんです。1970年代にはM資金をネタにした詐欺が頻発して、格好の週刊誌ネタだったんですが、もはや誰も知らないし、いま映画にするのであれば、M資金そのものの謎を追っていくだけでは成立しないだろうと。そうしたら2008年にリーマン・ショックが起こって、あれで経済というものに俄然興味が湧いたわけです。アメリカの投資銀行が1社潰れただけで、なんで僕たちの生活がここまで揺らいでしまうのかって」

 仕事部屋は、集めた資料でたちまち溢れかえった。

「僕は資料を一冊一冊綿密に読むことはしないんですよ。何かコアになる言葉が見つかったら、はい次、みたいな。『デフレの正体』だったら <今は景気が良くないから、そのうち良くなる> という考え方そのものが間違っていたということがわかりました。リーマン・ショックの真相に迫った『マネー資本主義』を読んだら、信用不安に左右される金融経済の仕組みがわかった気がした。本格的な経済ものは初めてですが、『亡国のイージス』や『終戦のローレライ』みたいな自衛隊ものをやっていると、軍事は否応なく経済と直結しているので、なんとなくは感じていたことばかりでしたね。一番大きかったのは、貨幣経済の根本が何かわかったこと。恥ずかしながら、我々の財布に入ってる紙幣というものがそれ自体は何の価値もない、金との交換券でしかないというのは、今回調べて初めて知りました。つまり、もともとただの紙切れだったものが、今やネット上を流通する莫大な数字だけになっている。バブルの頃はまだ土地という実体があったけど、今はリーマン・ショックみたいにどこか1カ所がコケて清算しましょうって話になると恐ろしいことになる。だってこの地球上にあの莫大な数字を担保できる富なんてどこにもないんですから」

 同誌ではインタビューの続きほか、福井と森山未來との対談や、阪本順治監督のインタビューも掲載している。

取材・文=瀧 晴巳

(『ダ・ヴィンチ』10月号「文庫ダ・ヴィンチスペシャル なぜ、いま『人類資金』なのか」より)