『機動警察パトレイバー』ゆうきまさみの最新作は歴史、ミステリー、少しエログロ?

マンガ・アニメ

2014/2/26

 ゆうきまさみの最新作『白暮のクロニクル』第1巻の帯には、こんな著者自身のコメントが載っている。

 「歴史、ミステリー、ほんの少しのエログロ嗜好。僕の好きなものを詰めて、エロティシズムにも挑戦したい。――つまり、新境地です。」

 1980年にデビューし、『機動警察パトレイバー』『鉄腕バーディー』といったSF漫画史に名を刻む傑作を生みだした画業34年のゆうきまさみが、自ら「好きなものを詰め」て「新境地」に臨むと宣言するとは! これは読まずにはいられないというものだ。

 厚生労働省に入省したばかりの新人、伏木(ふせぎ)あかりは研修中、凄惨な殺人事件に遭遇する。被害者の男性は首を鋭利な切断された上に、心臓に杭を打ち込まれるという、まるでドラキュラ退治のような方法で殺害されていたのだ。

 警察による現場検証が行われる中、厚労省の大臣官房参事を務める竹ノ内という役人が突然現れ、遺体の確認を始める。殺人事件の捜査になぜ厚労省の役人が首を突っ込むのか。訝しがる現場の刑事に向けて、竹之内はこう告げる。

 被害者は「オキナガ」である、と。

 ここで物語の鍵を握る「オキナガ」が登場する。「オキナガ」は漢字で書くと「息長」。この物語の日本に存在する、不老不死の種族のことである。見た目は普通の人間と変わらないが決して年を取らず、死ぬこともない彼らは厚労省の「夜間衛生管理課」の管轄のもと、一般人に紛れて生活を送っているのだ。

 だが、死なないはずの「オキナガ」が、殺害されるということなどあり得るのか。

 伏木は竹之内の計らいで「夜間衛生管理課」に配属され、ある人物とコンビを組んで「オキナガ」殺しの犯人を追うことになる。その人物の名は雪村魁。姿は18歳の少年、しかし実年齢は88歳の「オキナガ」であった。

 

 「オキナガ」惨殺事件の犯人探しを縦軸に、ヴェールに包まれた「オキナガ」の生態の謎を横軸に、現実の日本とそっくりの、けれど人ならざるものが住む不思議な世界のかたちが描かれ、リアルとファンタジーが混然一体となった奇妙な空間に誘い込む漫画である。優れた洞察力と、「殺人図書館」と呼ばれる私設図書館「按察使文庫」に蓄積された豊富なデータベースを武器に推理をする雪村。人間とは異なる体質を持つ上にかなりのひねくれた性格である雪村の助手となり、彼に振り回されながらも実直にサポートする伏木。正道を行くホームズ×ワトソン譚が謎解きミステリーとしての興趣を掻き立てる一方、「オキナガ」の生命と能力、そして彼らを取り巻く社会環境の様子が断片的に綴られ、「オキナガ」にまつわる謎が解かれてはまた謎を深め、の繰り返しが読者を捉えて離さない。

 こうした謎が翻弄するエンターテインメントとしての骨子を備えた上で、ゆうきは「社会的マイノリティをどう受け入れるか」という重厚なテーマにも取り組んでみせる。本作の「オキナガ」達は人外の存在として、時に偏見の目にさらされ、憎悪の対象になる一種の少数民族として描かれている。厳しい「普通の人間」からの扱いに対し、反発を覚える雪村は天邪鬼な態度を取り、誤解を招いてしまうこともしばしば。だが雪村に怯えず、対等な目線から堂々と意見をぶつける伏木と出会うことで、雪村の中に変化の兆しがあらわれるのだ。異質な他者を目の前にしたとき、人はどう接し折り合いをつけていくべきなのか。いじめ、人種差別といった現実の社会にも通ずる深刻な問題をさりげなく読者に問いかける作品でもある。

 

 ゆうきが帯文に挙げた本作の要素――歴史、ミステリー、グロ、エロティシズムのうち、第1巻はミステリー成分をたっぷり堪能できる巻だといえる。次巻では雪村の過去にもスポットを当てるらしいので、お次は歴史成分を楽しむ番かな。

文=若林踏