『RDG』の荻原規子が描く歴史ファンタジーの真骨頂!15歳の頼朝は、地底の竜とどう対峙したのか?

文芸・カルチャー

2015/3/6

史実は、物語の片鱗しか語らない。年号に刻まれた一つ一つの偉業は一朝一夕に達成できるものではないはずなのだ。偉人と呼ばれる人々にだって、悩み苦しんだ過去があるに違いない。絶望に沈んだ日々を乗り越えてこそ、偉人たちは偉人たりえたのだろう。

源頼朝の少年時代を描き出した『あまねく神竜住まう国』は、「RDG レッドデータガール」シリーズや「西の善き魔女」シリーズなどでも知られるファンタジー小説の鬼才・荻原規子氏による待望の新作。荻原氏の原点といえば、『空色勾玉』勾玉三部作に代表される日本の神話や史実を題材にした小説だが、この作品は数々の賞を受賞した『風神秘抄』以来10年の時を経て上梓された歴史ファンタジー小説である。ひとたびページをめくれば、神々を身近な存在として捉えていたはるか昔に私たちはタイムスリップしてしまう。歴史上の出来事としてポツポツと認識していた1つひとつの出来事が荻原氏の手にかかれば大きく膨らみ、そして、鮮やかに輝き始める。和田竜氏著『のぼうの城』や冲方丁氏著の『天地明察』など、エンターテイメント性の強い「ネオ歴史小説」は数あるが、荻原氏は史実にさらにファンタジーというスパイスを加えることで、過去の時をいきいきと彩る。ここまで、歴史とファンタジーが自然と美しく融け合った小説は荻原氏の筆力ならではだ。

舞台は、平安末期。平治の乱に敗れ、独り伊豆へと流された15歳の少年・源頼朝は、地元の豪族にうとまれ、生きる希望も失っていた。そんなある日、かつて頼朝の命を不思議な方法でつなぎとめた笛の名手・草十郎と妻で舞姫の糸世が頼朝の前に現れ、頼朝を力づける。草十郎と糸世にまとわりつく大きな影。土地神である地底の竜との出会いを経て、頼朝は次第に本来の自分自身を取り戻し、驚くほどの成長を遂げていく。

頼朝といえば鎌倉幕府を開いた雄々しいイメージがあるが、この物語の少年・頼朝は、郎党の裏切りによって父を失い、自分のせいで周りの者の運命が悪い方へと傾いたのではないか、という悲観的な思考を捨てきれずにいる。だが、伊豆という地に流罪になっても、人生にゲームオーバーはない。自分の人生からどうしても逃げたくなっても、逃げ出せない。この状況を変えてくれるのは、やはり仲間の存在だ。

頼朝を支えるのが、『風神秘抄』で主人公として登場した草十郎と糸世。『風神秘抄』を読んだ者にとっては、物語の続きを見られることに静かな興奮を覚えるが、読んでいない者にとっても、2人の仲睦まじい様子は心温まる。頼朝を守るということを使命とするが故に、ともに過ごす時間がなかなか取れない2人だが、危機的な状況下で離れていても、糸世は「あの人のことなら、信じてますもの」と言い切る。寡黙な草十郎と、多弁な糸世。頼朝にとって2人は、かけがえのない存在となっていく。だが、彼らの背後には暗い影が迫る。はたして頼朝は自らの運命を切り抜き、草十郎たちの憂いを払うことができるだろうか。

その土地の人々に愛されるにはその土地の神に愛されるのが一番。頼朝は仲間に支えられながら、伊豆という土地に根ざしていく。神なる竜の存在が眼前に現れた時、頼朝はどんな行動をとるのだろう。クライマックスでは彼が大きく成長し、ともにひと冒険したような心持ちにさせられる。この本は読む人に勇気を与えてくれる活力剤。

歴史とファンタジーの世界に魅了されれば、「この後、頼朝はどうやって鎌倉幕府を開いたの?」「北条政子との馴れ初めは?」などと、この本の続きが気になってしまう物語だ。

文=アサトーミナミ

あまねく神竜住まう国』(荻原規子/徳間書店)