「学校なんて行かなくていい」は本当か? 荻上チキ×青木光恵スペシャル対談

出産・子育て

更新日:2016/3/14

学校以外のセーフティーネットって、本当に有効?

――青木さんの場合は娘のちゅんこさんが学校に行けなくなった時、塾に行くことを選んでいます。その経緯について教えて下さい。

【青木】 うちは私も夫も自由業なんです。だから、“ちゃんと学校を出なくてはいけない”という考えは少ない方だと思っていました。でも、いざ中学にほぼ行ってないっていう状況だと勉強は大丈夫なのかなという気持ちがだんだん大きくなってきたんです。勉強も本人がしたいと言っていたので、それならばと思い塾を探しました。

【荻上】 ハンディキャップにはなりえますからね。塾は何個か探しました?

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【青木】 すぐに体調が悪くなるんで、休んだ時に授業の振替制度がある通える範囲の塾、全てに電話しました。たまたま1箇所だけ90分前に電話すればキャンセルしても大丈夫というところがあったのでそこに決めました。

【荻上】 僕は学生時代のアルバイトで、集団指導と個別指導の両方の塾で講師をやっていたことがあります。個別指導はいろいろ課題のあるお子さんが来ます。個性豊かなので、教師もどうやって面白い授業しようかなとか考えながら楽しく授業できますよね。

【青木】 先生も学校の先生とは全然違いますね。趣味の話をしたり、本を貸し借りしたり、帰りは車で送ってくれたり。わりと良い感じでくだけています。

【荻上】 人によって付き合い方を選べるのが、個別指導のいいところですね。指名制だったりすると、なおのこと。

――不登校で塾に通っている生徒は多いんですか?

【荻上】 少なくないですね。進学系の個別指導なのか、フォローアップ系の個別指導なのかでだいぶ違いますけど。

【青木】 はじめに塾に問い合わせた時「うちの塾は、不登校の子も結構来ていますよ。志望校に入ったけど合わなくて、今もうちの塾で勉強している子もいます」と聞いたんです。そういう子は多いんだなって思いましたね。

――塾やフリースクールのような、学校以外のセーフティーネットを活用することは不登校の解決につながりますか?

【荻上】 何を「解決」のゴールにするかによりますが、フリースクールなどの手段は重要ですし、今後も拡充が望まれます。不登校支援のNPOもありますから、家庭だけで抱えないほうがいいです。

 日本では小学校1年生から中学校3年生まで、年間約10万人の不登校児童がいます。その内訳の中でいじめをきっかけにした不登校児童は、文科省が把握しているだけで約2千人。とても多いですが、不登校の中では少数で、学業不振や、先生と合わなかった、親とのコミュニケーションがうまくいっていない、経済的理由など、さまざまです。もちろん、一つだけが理由ではなく、複合的に考えるべきなのですが。ただ、10万人も不登校の子がいる中で、不登校を経験して「その後」がどうなっているかの調査ってあまりされてないんです。

【青木】 不登校だった子が大学に行けるようになった、今はこんな仕事をしている、という資料は全くないんですか?

【荻上】 最近、ようやく追跡調査が発表されましたが、不登校児童全体のことがわかるものはないです。

【青木】 自分の子が不登校になった時に、将来どうなるんだろう。って、親だったらやっぱり不安に思います。多くの子がなんだかんだ言いながらそれなりに仕事には着くようになるのか。それとも、そのまま引きこもりになってしまう子が多いのか。割合が気になります。

【荻上】 みんながみんなではありませんが、平均的には不登校を経験すると、進学率も下がります。学歴にも影響する。そうなると、生涯所得にも影響が出る。不登校を経験しても貧困にならないためには学校に通っている以上の何かしらのオプションを提示しなくてはいけない。日本では今のところ、不登校になった時にオプションを提示する役割を担っているのは親なんですね。親が頑張れば“学校になんていかなくていい”と自分の子には言えます。でも、社会全体で“学校なんて行かなくていい”と言えるかというと、言えないですね。

 経済的余裕があればいろいろな選択肢を子どもに託すことができます。しかし、低所得の家庭で不登校になり、学校という選択肢を選べなくなった時点で、“詰む”んです。その時の選択肢が狭まれば、将来の選択肢も狭くなります。

  • 荻上チキ

【青木】 確かに、お金さえあればなんでもできます。転校ももちろんできるので、私立の割とおっとりしたタイプの学校に通わすこともできますし。

【荻上】 家庭教師とかもできますね。

【青木】 クララみたいに先生にずっと来てもらうこともできる。

 うちは塾の段階で貯金がなくなったので、今度、大学に行きたいってなった時にはお金をどうするのか悩みますね。

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