新作が続々登場! 小説界に吹き荒れる怪獣旋風はホンモノか?

文芸・カルチャー

2015/5/2

ハリウッド版『GODZILLA』の公開、『パシフィック・リム』続編の製作決定、そして日本版『ゴジラ』復活のニュースと、怪獣ブーム再来の機運が高まっている昨今の映画界。

しかし映画よりも先に、小説の世界で怪獣旋風が巻き起こっているのをご存じだろうか。実はこの春、怪獣をテーマにしたアンソロジーが2冊立て続けに刊行されているのだ。

まず1冊目はKADOKAWAより3月28日に発売された『怪獣文藝の逆襲』。13年3月に刊行されたアンソロジー『怪獣文藝』の第2弾である。

前作は牧野修や黒史郎といった怪談作家を中心にした、ホラーテイストの強い作品集であった。今回は「MM9」シリーズで平成を代表する怪獣小説家となった山本弘から、映画監督の園子温、さらにはKADOKAWA代表取締役専務である井上伸一郎まで、各界名うての怪獣愛好家たちが一堂に集結。正統的な怪獣災害ものあり、怪獣映画をテーマにした自伝的小説あり、果ては幻の怪獣映画の企画書あり。まさにルール無用、ジャンル横断無尽の怪獣小説総進撃が繰り広げられている。

注目は大倉崇裕、太田忠司、有栖川有栖らミステリ作家3人による怪獣小説だ。大倉の「怪獣チェイサー」は怪獣対策のために設置された架空の省庁「怪獣省」で激務をこなす女性を描いたお話である。もちろん怪獣は暴れるのだが、怪獣よりも怪獣災害の監視に奔走する主人公の日常に目が行く小説で、怪獣が出るのに読み心地は何故かお仕事小説やチックリットに近い、というのがユニークだ。一方、太田の「黒い虹」は謎多き転校生との交流を主軸にした本格的なSF怪獣小説。意外な結末とラストの悪夢のような光景が忘れがたく、バッドテイストなオチの短編がお好きな方はきっと楽しめるはず。怪獣の夢ばかりを繰り返し見てしまう人物を描いた有栖川の「怪獣の夢」は、昭和の探偵小説を想起させる幻想譚だ。怪獣という存在を愛でる稚気と、怪獣を通してほろ苦い現実を描く大人のテイストをあわせ持つ3人の作品は、ふだんのミステリとはまた違った魅力を放っている。

怪獣アンソロジー2冊目は洋泉社から4月13日に発売された『日本怪獣侵略伝―ご当地怪獣異聞集―』である。こちらはWebプロジェクト「ご当地怪獣」と連動した企画で、脚本家の小中千昭や映画監督の中野貴雄、井口昇など、気鋭の映像クリエイターたちが全国各地の名産や風物と合体した怪獣を大暴れさせている。

大正期の東京のレトロな風景、兄妹の禁断の愛、終末的な世界観と、初期「ウルトラ」シリーズの演出も手掛けた実相寺昭雄監督への限りないオマージュを捧げた小中の「十二階幻想」のような作品もあれば、大阪のおばちゃんを巨大化させたような怪獣・ヒョウガラヤンをスティーブン・セガールと対決させる中野の「新喜劇の巨人」のような作品もありと、本書もまた各クリエイターが好き勝手な方向に己の才気と怪獣愛を爆発させているのが楽しい。

井口の「女は怪獣 男は愛嬌」に至っては、怪獣小説の枠を飛び越えた究極のダメ男小説になってしまっている。初恋の相手が横浜のご当地怪獣「レッシー」(その衝撃的な姿はこちらでご確認ください)になってしまったいじめられっ子、トシオが物語の主人公だ。ふつう、怪獣といじめられっ子とくれば最後には子どもが逞しい子に成長するような、そんな心温まる話を思い浮かべるでしょう?ところが本作のトシオは大人になって脚本家として成功するや否や、一度に6人の女性と肉体関係を結び、さらには暴力を振るうような最低男へと変貌を遂げるのである。日本に怪獣物語は数あれど、ここまで共感を呼べない主人公は珍しいのではないか。トシオの泡沫の青春と怪獣「レッシー」の狂乱を、代表作「片腕マシンガール」ばりのスプラッター描写でショッキングかつコミカルに井口は描いていく。しかも最後にトシオのようなダメ男にも「救済」が訪れるんだわ、これが。その「救済」に本気で泣くか、ただ呆れ返るかは読んだ方の判断にお任せします。

何だかぶっ飛んだお話ばかりのように書いてしまった。でもご安心を。本書を締めくくるのは「ウルトラマン」などで活躍した脚本家・上原正三による「ヒーカジドン大戦争」である。沖縄出身の上原は自身の戦争経験を、これまで多くの特撮・怪獣作品に間接的に盛り込んできたことで知られている。本作では故郷・沖縄を舞台にして、子ども向け怪獣番組というフォーマットでは実現し得なかった、戦争と平和に対するストレートな表現に挑戦している。それは同じ沖縄の出身の盟友であり、ウルトラマンの生みの親と言われながら不遇の人生を送った脚本家・金城哲夫への鎮魂歌とも、特撮ファンは読みとることができるはずだ。怪獣物語の先達たちの思いは、怪獣小説に間違いなく受け継がれている。

文=若林踏