誤爆で、個人情報が流出…ネットユーザーの歪んだ処罰感情が引き起こす「ネット私刑」の恐怖とは

社会

2015/8/17

 凄惨な事件が起きるたびにネット上で行われる犯人探し。それは時に警察の捜査よりも素早く犯人を特定してしまうほどの情報能力を持つ場合もあるが、大抵がただの「炎上」「誤爆」で終わっている。

 ノンフィクションライターの安田浩一氏は、インターネットの普及は、人々に便利さを与えただけではなく、誰かを攻撃することも容易にしたと、著書『ネット私刑』(扶桑社)の 中で指摘している。「ネット私刑」とは、不特定多数のユーザーがネット上に特定個人についての誹謗・中傷や個人情報を書き連ねる行為のこと。時に、ネット上での書き込みを元に、自宅や個人の職場に抗議の電話を掛けたり、直接嫌がらせをしたりする場合もある。

 たとえば、2015年2月に多摩川河川敷で、上村遼太さん(当時13歳)の遺体が発見された「川崎中1殺害事件」では、警察の捜査よりも早く、事件発生から2日後、犯人とされる個人情報がネット上に掲載された。「犯人、こいつか?」という言葉とともに載せられたのが、後に逮捕される事件主犯格Aの名前と顔写真。ネット上では、「こいつだけはゆるせない」「世間が忘れても、地獄の果てまで追い詰めてやる」「みんなで復讐しよう」と、当初は名前と年齢、顔写真だけだった情報に、住所や自宅周辺の詳細な地図、家族構成や父親の職業が書き加えられた。おまけに、「犯人は複数犯」ということが報道されると、検証も裏取りもなく、浮上した名前すべてが犯人のように扱われ、拡散される現象が続いた。ある女子中学生は犯人の一味とされ、実名と一緒に顔写真が掲載されたし、別の中学生は、犯人の彼女とされ、やはり顔写真から家族構成までもが2ちゃんねるに書き込まれた。ある男子高校生は、実名とともに「凶暴」と指摘され、上村さん殺害に加わっていたように書かれた。彼らは事件と無関係であったのだが、こうして「ネット私刑」に遭う事態となってしまった。

 2011年、当時13歳だった少年が自宅マンションの最上階から飛び降り自殺をした「大津いじめ自殺事件」でも同様に「ネット私刑」の被害が出た。事件から9カ月後の2012年7月、自殺した少年は、学校でいじめにあっており、「自殺の練習」として日常的に首を絞められたという衝撃的に事実が報じられたのがきっかけとなり、ネット上は怒りが沸騰。どういうわけか、大津市に住む当時65歳女性が、「加害者の母親」として、ネット上で叩かれた。「子供のしつけはどうなっているんだ」「殺人鬼を産んだ責任をとれ」「屑の親の遺伝子から屑のこが出来たんだな」…。さらに会社先の住所や肩書きまで明かされ、職場に「殺人鬼の母親を出せ」との電話が殺到した。しかし、警察に相談しても「よくあること」として「ネット上の書き込みの削除の手続きは自分でやれ」と言われてしまう。子どもはすべて成人しているし、住んでいる地域も違うのにも関わらず、ネットユーザーによる完全な誤爆によって、女性は事件の加害者家族であるような書き込みがネット上になされてしまった。個人情報をネットで拡散され、人殺しとまで罵られた女性は今でもネットを見ることはできない。彼女を痛罵する書き込みは今も消されずに残ったまま。安田氏の取材で女性は「一生このままレッテルを貼られたまま生きていくことになるのかな」と肩を落としていたという。

「“ネット私刑”は言葉の遊びでは決してない。ただの暴力だ。卑劣で下劣な暴力だ。そのことを自覚する必要がある」と安田氏はネット上での”リンチ行為”を痛烈に批判する。亡くなった少年や遺族の心情を思う正義感が、人々を度を越した行動に走らせてしまう。現実社会で許されないことは、ネットという空間でも許されない。現実社会で口にできないことはネットでも書き込むべきできない。「ネット私刑」はネット上で今もっとも問題となっている現象であるのだ。

文=アサトーミナミ