1日を“28時間”で過ごすとどうなる? 常識に異論を投げる“狂気”の科学者たちの実録

科学

2015/9/30

 文明の進歩は、科学者たちのあくなき探究心によるところが大きい。自身の興味や関心だけではなく、時には人びとの願いを叶えるべく、限られた時間を最大限に費やして日夜奮闘している。

 ただ、彼らの探究心は時として人びとを驚かせる。そして、発想に独創性が溢れ過ぎるがあまり、万人に受け入れられずなりを潜めた研究も世界にはたくさん存在する。書籍『狂気の科学 真面目な科学者たちの奇態な実験』(東京化学同人)は、公式に発表されたか否かを問わず、常識を覆す挑戦をしてきた科学者たちの様々な実験をまとめた1冊である。

 スイスの月刊報道誌『NZZ Folio』の編集者・レトUシュナイダー(石浦章一・宮下悦子:訳)が、同誌の連載を通して伝え続けてきた科学者たちの活躍から、いくつかのエピソードを紹介していきたい。

電流が途切れたのは男性の“イチモツ”が機能不全に陥っていたから?

 18世紀のフランス。当時、静電気を蓄える装置「ライデン瓶」が発明されてから、人びとの間では「1列に並んで手をつないだ人たちを驚かす」という遊びが流行っていた。上流階級の紳士淑女までもが集い、多い時では数百人の人びとが参加して、電気ショックを受けて「キャー」と悲鳴を上げる瞬間を楽しんでいた。

 しかし、遊びのさなかで予想外のことが発生した瞬間もあった。ランデル瓶からの電流が列の途中で止まり、最後まで伝わらなかったのである。パリの学校で60人が参加した時にも、6人目以降に同様の事態が起きた。ちょうど電流が止まった地点にいた若者は「男性を男性たらしめるに必要なものを全部備えていない」、つまり、イチモツが機能不全に陥っていたと噂される男性で、そのため、当時の人びとの中に「造物主に呪われた人は、感電させることができない」というまことしやかな噂まで広まっていた。

 その現象に目を付けた宮廷は、科学者であるシゴウ・ド・ラフォンに実験を依頼した。被験者となったのは、声変わりしないまま大人になったことで、去勢された宮廷のお抱え歌手である“カストラート”たち。当時、そのような習慣があったことも驚きだが、機能不全の心配もなく「体の条件に疑う余地のない」カストラート3名による実験では、電流が途切れることなく伝わり、さらに、みんな敏感に電気ショックへ反応した。

 しかし、時代を超えたのちの研究で、電流が途切れたのは「伝導率」が原因だと分かった。性的不能はまったくの無関係であり、おそらく、特定の位置に立っていた人の地面が濡れていたことなどが、途切れる要因になっていたのではないかという推測がもたらされた。

1日を“28時間”にできるか? 穴蔵で32日間を過ごした博士と助手

 1日が24時間であるというのは、気にせずとも誰もが実感していることだ。しかし、それはあくまでも日々の習慣によるものなのか、それとも、人間に本来備わっている体内時計によるものなのかを、身をもって検証した科学者がいた。シカゴ大学のナサニエル・クライトマン博士とその助手を務めていた学生、ブルース・リチャードソンである。

 1938年、クライトマン博士とリチャードソンは、ケンタッキー州の洞窟「マンモス・ケーブ」で32日間を過ごした。地表から深さ40メートル、幅20メートル、高さ8メートルの空間にベッドやテーブル、研究用の機材一式などを持ち込み、1週間を6日とする「28時間周期で過ごす」という実験を試みたのだ。

 人間は「眠っているときには代謝が低下するため体温は低くなり、起きているときに最も高くなる」ということから、体温の変化を起きている間の2時間ごと、眠っている間は4時間ごとに測定する方法で、実験は進められた。日光や雑音もなく、室温が常に12度に保たれる空間で、9時間眠り、10時間を仕事に。そして、残りの9時間を自由時間として過ごしていた。

 結果、開始から1週間でクライトマン博士は「28時間周期」での生活に順応した。しかし、助手のリチャードソンは終盤になっても順応できず、時計の針でいう夜10時には必ず疲れを覚え就寝。8時間後には、元気を取り戻すというサイクルを繰り返していた。

 1938年7月6日、報道陣の目の前には「ぼうぼうに伸びたひげと長いコート、濡れたアノラックのフード」を被った2人が姿を現した。2人の生活サイクルが異なった以上、実験の結果は不明確だったといわざるをえないが、クライトマン博士は報道陣に対して「少なくとも、自分が立派なあごひげを生やせることは証明できた」と語った。

 そして、のちの研究で、人間には体内時計が備わっていると明らかにされた。「多くの人の体内時計は24時間に設定されていて、日々、実際の昼間の光量によって調整されている」という結論がもたらされた。

 さて、同書では他にも「モルモットの精巣」から取り出した成分を不老不死のために自ら注射し続けた医師や、成犬の身体に子イヌの頭部を縫い付けて「フランケンシュタイン」を生み出そうとした外科医など、人によっては吐きそうになるかもしれない、奇怪ともとれる実験へ挑んだ科学者たちのエピソードが、17世紀から20世紀までの全100篇にわたり収録されている。

 彼らの奇抜な発想は、時として、時代を超えて身近な分野へと波及してきたのも事実である。相対性理論でおなじみのアインシュタインはかつて、「神聖な好奇心を失ってはならない」と説いたそうだが、情熱を一心に傾ける科学者たちの“狂気”は、私たちの暮らす文明にも間違いなく影響を与えている。

文=カネコシュウヘイ