ジャンル分け不能!? 大阪のこなもん屋が舞台のB級グルメミステリー

文芸・カルチャー

2011/12/1

田中啓文ほどジャンル分けの難しい作家も少ないだろう。

ファンタジーノベル大賞の公募からデビューし、ホラー作品『水霊 みずち』が映画化、『銀河帝国の弘法も筆の誤り』ではSF作品に与えられる星雲賞を受賞、『落下する緑 永見緋太郎の事件簿』は本格ミステリーとして高く評価された。創作落語にまで手を出してしまう田中さんを、端的に言い表すとしたら「そういう作家さん」としか言い様がないのである。

では、彼の新作『こなもん屋馬子(うまこ)』(実業之日本社)はどう表現すればいいのか。本作は、大阪の街の一角に存在する謎のこなもん屋を舞台とした連作短編集。各話に語り部となる登場人物がいて、ひょんなことから小麦粉を使ったものならどんな料理でも出すというこなもん屋に迷い込み、典型的な大阪のおばはん馬子や下働きのイルカと出会う。そこにまた別の登場人物が現れたとき、“事件”が起こる。版元の公式見解(?)では「大阪発 B級グルメミステリー」「爆笑&人情&グルメミステリー」となっているが、そこは田中さんの作品、ただのミステリーで終わるわけがない。

「関西のいちびり(ふざけてはしゃぎまわること、お調子者)気質というか、何かおもしろいことをしたいというのが常に念頭にあるんです。いろんなことをしたいからジャンルを飛び越えるのは当たり前なんですよね。自分の立ち位置がどこにあるのかというと、こりゃもう明らかに“普通小説”ではないでしょう。多岐にわたってはいるけれど、間違いなくジャンル小説の人間なんです。ただ、ひとつのところに留まっていられなくてSFを書いたあとに本格ミステリーが書きたいと思ったらもう止まらない」(田中さん)

『こなもん屋馬子』はリアルな大阪の空気を再現しているが、物語そのものはありえない話だ。しかし、謎を解き明かす手順はしっかりとしたミステリーのそれであり、同時に人情ものとしての体も成している。問題はこれを売り手である編集者や書店員がどう表現するかということだ。読めばおもしろいことは間違いないのだが、事前知識がまったくない人にこれを説明するのはさぞかし骨の折れることだろう。

「もっとも、私はわけのわからないものを書いているわけじゃないんですよ(笑)。どのジャンルにしたって、田中印にすることが重要です。SFでもファンタジーでも本格ミステリーでも、自分のカラーに染めることが私にとって小説を書くということなんです」

田中さんの作品の特徴は、自在にジャンルを横断しながら一読して彼の作品だとわかる独特のカラー。彼の最新作を読んでおもしろいと思ったら、間違いなく他の作品にも手が伸びるだろう。

(ダ・ヴィンチ12月号 今月のブックマークより)